リュア・レインフォート
鳥肌が止まらない。
目の前で起きていることが信じられない。
ミア・フォースト。
どこかしら怪しいとは思っていたが、まさか邪神族の操り人形で……こんなことになってしまうなんて……!
「オオオオオオオッ――!」
魔神と化したミアは絶叫を轟かせるや、片腕を高々しく掲げた。手の平から輝かしいばかりの光球が発生し、徐々に濃度を増していく。
「くっ……!」
まずい――
俺は咄嗟にEXステータスを解放すると、あらん限りのスピードで疾駆する。
「おおおおおおおっ!!」
ミアに攻撃させてはいけない。
ここには大勢の観客がいる。
本当にユージーン大臣を殺したのかはわからないが、彼女にそれ以上の重責を背負わせるわけにはいかない……!
ここには凄腕の戦士が集まっているものの、相手は神の領域に達せし者。《現地人》ではとうてい適わない。
俺はミアの片腕を掴み、ひとまず攻撃を防ぐと、周囲に向けて叫んだ。
「逃げろ! ここは危ない! すぐにでも逃げてくれ、頼むっ!!」
「「わ、わあああああああっ!!」」
俺のただならぬ雰囲気を察したのだろう、大勢の観客たちが青白い顔で逃げ出していく。
SSSランクだったのが不幸中の幸いか。みんな素直に従ってくれている。
このままいけば、すぐにでも観客はいなくなるだろう。
「グルアッ!!」
「……くっ」
ミアは不機嫌な叫声とともに腕を振り払う。
俺は無駄に抵抗せず、とりあえず吹き飛ばされておく。
そうして難なく着地しながら、俺はミアの強さを分析していた。
――強い。
おそらく、あの魔神シュバルツと同等かそれ以上。
あのときはリアヌがいたが、いまは違う。それに相手が大事な生徒とあっては、迂闊に手出しはできない。
あの激戦よりもさらに分の悪い戦闘だと言わざるをえない……
しかも背後には、他に守るべき生徒たちもいる。
「アシュリー先生! 私も戦います! すこしだけでも活路を見いだせれば……」
「私も……協力します」
リュアもキーアも、健気にも共闘を提案してくる。
が――無理だ。
相手は神。
人間が勝てる相手ではない。
最強の転生者たるキーア・シュバルツでさえ、力を満足に使いこなせないのでは難しいと言わざるをえない。
「駄目だ。早く避難を……」
俺が言いかけた、その直後。
「いいや。おまえたちの相手は――この私だ」
そう言って現れた人物に、俺はまたしても驚愕した。
「な……に……?」
嘘だろ。
さすがに信じられない。
いや。
一番ショックなのは俺ではなく――リュア・レインフォートか。
「そ、そんな……!」
リュアは大きく目を見開き、泣きそうな声で叫んだ。
「なぜ私たちの邪魔をするのですか! 父上……!」
「ふふ……そんなに驚くことかな」
オルガント・レインフォートはリュアらに立ちふさがると、大剣を振りかぶって威嚇する。
なるほど、獲物はリュアと同じだが、より強力な武器なんだろう。銀色に煌めく刀身が、嫌に威圧的である。
……嫌な予感はしたんだよな。
リングランド王国は邪神族の肩を持っている。
そしてオルガント・レインフォートは王国軍の中将。
なにかしら繋がっている可能性はあった。
そんな俺の推測を裏付けるように、オルガントは邪悪な笑みを浮かべる。
「私はサヴィターの味方。たったそれだけのことさ」
「ど……どうして……。最強の剣士と呼ばれたあなたが……!」
感情を失ったキーアでさえ、これには驚愕を禁じえないようだ。
オルガントが相手となると、いまのキーアでは太刀打ちできない。
「父上。ひとつだけ……聞かせてください」
最強剣士の娘は、父と同じ大剣を携えながら、小声で訊ねる。
「父上は……昔は平凡な剣士であったと聞きました。過酷な訓練によって才能が開花し、いまの地位にまで昇りつめたと。――ですが、私には違和感があるのです」
「ほう……?」
「だってそうでしょう? いかに過酷な訓練を耐えたとしても、本当にただの凡人ならそこまで強くなれるわけがない……!」
そう。
俺もまったく同様のことを考えていた。
三百年近く修行した俺でさえ、あのアガルフと同程度の実力だった。しかもリアヌが付き添ってくれていたにも関わらず。
本当に凡人なら、それ以下の修行期間でSSSランクに達せるわけがない。
「……そんな折、キーアやミアから興味深い話を聞いたのです」
リュアは一呼吸を置くと、やや怯えた表情で続ける。
「――転生者。それはつまり、この世の理から外れた者たちです。……そして父上も、あるときから不自然に強くなったのですね?」
「へ……」
キーア・シュバルツが大きく目を見開いた。
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