凡人はさらに強くなる
あれから二百年が経った。
リアヌいわく、俺の寿命が三回分とちょっと。
しばらくは重力を倍増させたうえでの走り込みが続いた。俺の基礎体力を向上させるのが目的らしい。そのあとは十倍、十五倍、二十倍と……リアヌは容赦なく重力を引き上げてきた。
それでも、俺には微塵の不満もなかった。
元より凡人の身。転生者より強くなるためには、並大抵の修行では無理だとわかっていた。鬼のように厳しくなる修行の数々を、俺はただただ無心で耐えた。
「大丈夫なのか、ダーリン。苦しくなったらいつでも休んでいいんじゃぞ」
よほど心配になったのか、ときにリアヌがそう言ってくることもあった。
「気にするな……。俺は強くなる。絶対にな……!」
「そ、そうか。ならいいんじゃが……」
俺の強さに対する執念には、さしもの女神ですら驚いていた。もしかすると、クソッタレな転生者への恨みが、俺をここまで突き動かしていたのかもしれない。
余談だが、動かない右腕はリアヌに斬り捨ててもらった。彼女いわく、片腕がないほうが後々いいことがあるのだという。
「まあ、おぬしの身体じゃし、判断は任せるよ。どうする?」
そう尋ねてくる女神に対し、俺は快く了承した。もう左腕だけで充分生きていけるし、わざわざ右腕を残しておく理由もなかったからな。
――その間、二百年。
三回分の寿命をすべて修行に使い切ったときには、三十倍の重力にも耐えられるようになっていた。
――幽世の神域。
俺とリアヌは向かいあって座っていた。
「ふむ……。素晴らしい。想像以上に頑張ってくれたの、ダーリンよ」
「これで……すこしは強くなったかな」
「ふふ。心配するでない。相当に鍛え上げられておるよ」
ちなみにこの二百年間、自分のステータスを見ることは禁止されていた。俺は単なる一般人に過ぎないため、転生者と比べると成長が遅い。なかなか上がらないステータスにモチベーションを落とさないため、リアヌがそう提案してきたのだ。
「しかし、おぬしも堅い男だのう。二百年も一緒にいて、なにもしてこないとは」
「なに言ってるんだおまえは……」
こっちもこっちで相変わらずである。
「それにあんた、やっぱりめちゃくちゃ強いだろ? いまの俺でもまだ敵わないんじゃないか」
「ほう? わかるようになったか」
「ああ。仮に俺が手を出したとしても、一瞬で粉々にされるだろうよ」
「ふふ、おぬしも成長したのう。安心せい、ダーリンの夜這いなら結構じゃ」
「だからしないっての……」
まあ、この二百年で肉体的なステータスは相当に伸びたと思う。だけど魔法関連のステータスはまだ鍛えてないからな。その意味でも、リアヌには到底勝てないだろう。
「さて、お次は実際に魔物と戦ってもらうとするかの」
「お……」
ついにきたか。
「おぬしには世界に存在するすべての魔物と戦ってもらう。よいな?」
「すべての魔物……」
「うむ。まずはゴブリン百匹からじゃ」
百匹か。
数匹だけなら前の俺でも勝てたが、百匹となると無理だったな。いまはわからないけど。
「……わかった。どんな修行でも受けるよ」
「ふふふ、その意気じゃ。これが終わったらいったん現世に戻るぞい」
そうしてさらに八十年、俺の修行は始まったのであった。
これから始まる無双劇にご期待ください(ノシ 'ω')ノシ バンバン