一生忘れない
★
「そんな……わ、私。私……」
ミアの視線は覚束ない。
血色を失い。
恐ろしいまでに瞳孔を見開き。
たったいま倒れた大臣を見下ろす。
ユージーン・ネスロット。
リングランド王国の大臣にして、政務におけるトップ権力者。
彼は戦士ではない。防御力も魔法防御力も、ほとんど一般人のそれだったに違いない。
――だから。
ミアが放った銃弾によって、あっさり無言で倒れた。
憎らしいほど的確に、左胸を貫かれたことによって。
そして魔導銃が殺人に使われたことが広まれば、ガルーア帝国との関係がさらに悪化することは想像に難くない。
――世界の、終わりだ。
「いや……。私は、なんて、ことを……」
全身の力を失い、ミアは両膝を落とす。なまじ学力に優れているだけに、自分がどれほどの大罪を犯したか……嫌というほどわかってしまったから。
パチパチパチ、と。
邪神族が長――サヴィター・バルレは、片頬を嫌らしく吊り上げながら、呑気に拍手をかました。
「素晴らしい……! ミア・フォースト。君のおかげで、我が計画はまた一歩進んだ」
「いや……いや……」
「世界は《殺戮と闘争》に包まれる。君の放った銃弾を皮切りに、さらに多くの人々が死ぬことになろう」
「い、いやぁぁぁぁぁぁあ!!」
ミアが悲哀の絶叫をあげた、その瞬間。
ずっと彼女を取り巻いていたドス暗いオーラが、瞬時にしてミアを呑み込んだ。
★
叙任式。会場。
「…………っ!」
ふいに俺は怖ぞ気を感じ取った。
知らず知らずのうちに周囲を見渡してしまう。
なんだ。この胸騒ぎは。
現れてはいけないモノが出てしまったような――
「アシュリー先生っ!」
名前を呼ばれ、俺は振り向く。
駆け寄ってきたのはリュアとキーア。さっきまでミアを探していたはずだが、諦めて帰ってきたのか。
「どうした。やっぱり見つからないのか?」
「はい……いまだ見つかりません……」
キーアが変わらぬトーンで報告する。
「その代わり……あってはならない音を聞いてしまいまして……」
「音?」
「はい。あっちのほうから……魔導銃の銃声が聞こえてきたんです」
そうしてキーアが指さした先は――ユージーン大臣の控え室に通じる廊下。
まさか。
たしかに謎めいている生徒だが、そこまではしないだろう。そんな子だとはとうてい思えない。
それを告げると、キーアがうつむきながら続ける。
「私も違うと思いたいです。ですが――試合中、ミアさんが頭痛に苦しんでいるのを見たときから、《ある予感》が頭を離れなくて」
「え……」
「先生、リュアさん。ミアさんが苦しんでいるとき、なにかしらの共通点がありませんでしたか?」
共通点。
一回目は、初めて幽世の神域に行ったとき。ダークマリーが《悲しみ》による実験をやっているとか言ってたな。
二回目は1組との試合中だ。たしか、負けそうになったリックスが地団駄を踏んだ瞬間、ミアの頭痛が発生した。
「そうか……どちらも悲しみに起因する感情が高まったとき、ミアは苦しがっていた……」
「やはり……そうですか……」
キーアは全身を震わせ、片腕をさする。
唇がやけに青い。
嫌な記憶でも蘇ってきているのだろうか。
「私は《殺戮と闘争》が起きたとき、全身にすごい痛みを感じました。頭のなかに恐ろしい声が響いてきて、そしたらもう、なにもわからなくなって……」
そして世にも恐ろしい魔神シュバルツが登場してしまったというわけか。
――ん?
瞬間、おぞましいほどに怜悧な予感が、俺の頭からつま先までを貫いた。
おいおいおい。
待てよ待てよ。それって……
「キーア。それはつまり、ミアにも同じことが……」
「――ガアアアアアアアアアッ!」
悪魔の胴間声を轟かせ、怪物が突如現れた。
ドス黒いオーラに包まれ、邪悪なる波動を放ち続ける者の姿を――一生忘れないだろう。
俺は理性をもなにもかもをなくし、ただただ、絶叫した。
「ミ、ミアーーーーーーっ!!」
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