凡人のファンクラブ
「あらアシュリーさん。とっても素敵ですよ!」
可愛らしい女性スタッフが、両手を重ねて誉めちぎってくる。
「はは……。なんだかすげー恥ずかしいんですけど……」
「大丈夫です! とってもお似合いですってば!」
叙任式会場。控え室。
俺は一応主役なので、先に着替えを済ませるよう指示があった。
もちろん、俺自身のコーディネートではなく、プロがやってくれることになっている。いつもお手軽な防具しか身につけていないしな。
そしてプロがコーディネートしてくれた服装が……なんとも気恥ずかしい。
大振りな白装束。
金の刺繍が施されたマント。
髪型もいじられてしまい、現在は逆立っている。
なんというか、白馬の王子様みたいなイメージだ。
こんなもん、恥ずかしくていままで着たことないぞ。
「ふふふ。アシュリー先生は元はいいんですから、これで女性たちに騒がれること間違いなしですよ♪」
「はは……ありがとうございます」
ただの社交辞令だろうが、とりあえず礼は言っておく。
ちなみに、生徒たちはすでに会場に着いている。現在はどこかのテーブル席で歓談しているはずだ。
現在時刻、11時57分。
参加者もおおかた集まっている頃合いだ。あのユージーン大臣も、どこかの控え室にいるはずである。
叙任式の開催は12時。
楽しむのもいいが、《邪神族の動向を探る》という本来の目的も忘れないようにしたい。
ユージーン大臣との接触は避けられないだろう。
色々な意味で気を引き締めないとな……!
「アシュリー先生! そろそろお時間ですよ!」
ひとり気合いを込めているところで、スタッフがノックをかけてきた。
気づけば、扉の向こう側から盛大な拍手と歓声が聞こえてくる。相当に盛り上がっているようだ。
まあ……SSSランクへの昇格なんて滅多にないからな。多くの国民にとって、刺激的であることは疑いの余地がない。しかもその者が魔神を倒したとなれば尚更……うっ、緊張で腹が痛くなってきた。
「スタッフさん……。俺、やっぱり参加しないほうが良かったかも――」
「なに言ってるんですか! みんなアシュリーさんを待ってるんですよ! さあさあ、お早く――」
「わわわっ」
スタッフに無理やり腕を引っ張られ、俺は会場に連行されるのだった。
「さあさあ皆さんお待ちかね! 新・SSSランク冒険者にして、さらには魔神シュバルツをも倒した英雄……アシュリー・エフォートさんの登場ですっっ!!」
「「わあああああああっ!!」」
ちょ、ちょちょ!
待ってくれ!
なんだこの熱気! みんな興奮しすぎだろ! しかも人多すぎだろ!
王都の中央部分に位置する多目的ホール。武術大会などの大々的なイベントにも使用するので、五万人もの人々が収容できるとされている。
それほど広大な会場が――ほとんど埋め尽くされているではないか。
壇上に立つだけで物凄い圧倒力だ。
一応、壇上から近い席に【VIP席】が用意されており、一般席からは大きく隔離されている。ここに俺の招待客――つまりリュアやミア、キーアたち――そして各界の大物が座ることになっている。だからかろうじて、生徒たちの顔を確認することはできる。
「きゃー! アシュリー様!」
「なんて素敵なお姿……! まるで王子様のよう……!」
さっきのコーディネーターの言う通りだったわけか、女性陣からの声が半端ない。気恥ずかしすぎて気絶しそうだ。
「え、えっと……」
「アシュリーさん! ご挨拶をお願い致します!」
俺が戸惑っていると、司会役のスタッフが太い棒を差し出してきた。これで声のボリュームを上げるのだろう。
「ご、ご挨拶……」
急に言われても、俺にスピーチの経験なんてない。いったいなにを話せばいいのか。
そう戸惑っているうち、11組の生徒たちが視界に入った。今日を楽しみにしていたらしい生徒たちは、みな目を輝かせていた。感情を失ったキーアでさえ、いつもより若干、瞳孔が開いている。
――そうか。こんなところで、立ち止まってなんかいられないな……
彼女たちを思った瞬間、緊張は一気に吹き飛んだ。
「すぅ……」
俺は一呼吸置き、棒に向けて声を発する。
「えー、皆さん。本日は私のためにお集まりくださいまして、心よりお礼申し上げます。今回SSSランクに昇格しました、アシュリー・エフォートです!」
俺の挨拶に続いて、会場内に盛大な拍手が響きわたった。この人数と熱気に萎縮しながらも、それでも高まってくる感情があった。
「突然ですが、私は剣士として重大なハンデを背負っています。それが……これです」
言いながら、俺は右腕の裾をめくり、内部の装具も外す。
「え……」
俺のなくなった右腕を見て、誰かが驚きの声を発した。
「昔、不幸な事故があったんです。私はふてくされました。もう剣士にはなれないのかと、ひとりで絶望していたこともありました」
俺は装具を元に戻しながら、自分に問いかけるように続ける。
「そんな私がここまで来られたのは……まわりの人たちのおかげです。大事な仲間がいたからです。私だけの力でSSSランクになれたとは思っていません」
リアヌ・サクラロード。
マリアス・オーレルア。
彼女たちがいたからこそ、俺はここまで成長できた。
「こんな私でも、救える人があるのなら……そう思い、SSSランクにさせていただきました。まだまだ未熟ですが、精一杯頑張らせていただきたいと思っています。今日はどうぞ、よろしくお願いします!!」
瞬間。
わああああああああ! と。
いままで静聴していた観衆たちが、暖かな歓声をあげた。
2/10発売! あと13日!
さらに熱く、面白く……編集部の方々と協議しながら、いっそう磨きがかった書籍版を2/10に発売します!
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