試合、ついに決着
巨大な煙が、校庭一帯を包み込む。キーアが放った終焉魔法によって、のどかだった校庭は瞬時にして焦土と化した。地面には大穴ができてしまい、近くにあった木々は消滅してしまっている……
そう。
俺がEXステータスを解放し、ガルムを守ってやらなければ、彼は間違いなく死んでいただろう。
「ひ、ひぇええ……!」
俺の背後で、ガルムが情けない声をあげる。尻餅をつき、あろうことか小便を垂らしている始末だ。
「大丈夫か。ガルム」
「ガクガクガクガク……」
俺が問いかけてみるも、彼からの返事はない。血色を失った顔で、ただひたすらに震えるばかり。さっきまでの威勢はどこにもない。
「……もの」
そんなガルムが、掠れたような声を発する。
「ば……化け物だ……。あんなカイブツ、見たことねえ……」
「化け物……私が……?」
キーアが困り果てたように眉を垂らす。
「なんでしょう……。ちょっとだけ、過去の記憶が……」
過去の記憶。
そうか。
魔神シュバルツとして、王国中の人々を蹂躙していた頃の記憶。それがガルムの表情と重なったのだろう。
そして記憶を失う前のキーア・シュバルツは、自分が《魔神》になってしまわないよう、懸命に自己を抑えていたはずだ。数日前、地下水路に逃げ込んでいたときのように。
「なんでしょう……私、なんだかとてもいけないことをしたような」
「ああ……そうだな」
ガルムが慌てて逃げていったのを確認し、俺はキーアのもとへ歩み寄る。
「キーア。君は強い。それは自分でもわかっているんだろう?」
「…………」
「だからこそ、前の君は力を暴走させないように頑張っていた。人々に恐れられながらも、それでも必死に、たったひとりで……」
「アシュリー先生……。わ、私は……」
わかってる。
彼女がすべて悪いわけじゃない。
魔神シュバルツに精神を乗っ取られてしまったことで、《キーア・シュバルツ》の自我が崩壊してしまった。
それまでの間、彼女は必死に耐えていた。
魔神という強大な力を前にして、懸命に抗っていた。
その結果、記憶と感情を失ってしまった彼女を、どうして攻められるだろうか。
「気にするな。……俺が君を助ける」
「え……」
「出会ったばかりの俺が言うのもなんだが、君はすべて自分で抱え込みすぎだ。すこしだけでいい。君の苦しみを……俺にも分けてくれ」
「…………」
キーアの瞳が、わずかばかり見開かれた。
「なんでしょう……。この胸に沸き上がる温かな気持ち……。久しく忘れていたような……」
「そうか……」
さっきもそうだったが、彼女の記憶と感情は、人と関わっていくことで蘇っていくらしい。
ならばこそ――臨時教師として、できることはやっていきたい。それが俺の役目というものだろう。
俺はそっとキーアの頭を撫でる。
「あ……」
心なしか、彼女は嬉しそうに目を伏せた。
「な、なんだ……。よくわからないが、いい雰囲気だな……」
「うふふ。あの二人は色々ありますから……リュアさん、思わぬところでライバル出現ですね♡」
「なんのライバルだ!」
脇では、俺の生徒たちが漫才を繰り広げている。相変わらず仲が良いことで。
「んーこほん! 勝者、キーア・シュバルツ!」
ふいに、学園長がわざとらしく咳払いをかます。
「これにて試合終了! 勝利チームは11組じゃ!」
「お、おお……!」
「勝ちましたね♡」
黄色い声で喜ぶ女子チーム。
最後の試合は勝敗が微妙なところだったが、あの学園長、面倒だから11組の勝ちにしやがったな。まあ、異存はないが。
「くそ……!」
「負けたか……」
対する男子チームは悔しそうに地団駄を踏んでいた。
かろうじて一勝できたとはいえ、あれもミアの不祥事あってのこと。
さらに相手は三組の女子とあっては、悔しさも倍増だろう。
また難癖つけてくるか……? と俺が身構えた直後、リックスが意外な言葉を発した。
「いや。参った。完敗だよ」
「む……?」
目をぱちくりさせるリュア。
「これでも俺たちは一組だ。正直、ここまで力の差があるとは思ってなかったよ」
「あら。意外なこと言うんですねリックスさん♡」
あざとく胸を揺らしながら微笑みかけるミア。
「そ、そんなんじゃねえよ!」
リックスもあからさまに顔を赤くして反論する。
「でも、俺たちは諦めねえ。いつかきっと強くなって……アシュリー先生に指導してもらうぜ!」
「はは……俺としてはいつでも構わないんだが」
試合を通じて成長したのは11組だけじゃない……ということか。それを思えば、この茶番も無意味じゃなかったのかもな。
そう思いながら学園長をチラ見すると、爺さんは年甲斐もなくウインクしてきやがった。
「あの……ぎゃっぷもえーさん。今回はすみませんでした」
「ひえっ! キーア様! とんでもありません!」
……ガルムはちょっとおかしくなってしまったようだが。
ま、元々傲慢なところがあったし、これも良い薬か。そんなにショックを受けてはなさそうだし、いずれ元に戻るだろう。
「あ。そうだ、学園長」
「ふむ?」
ついでとばかりに、俺は爺さんに向けて問う。
「実は一週間後に、SSSランクの叙任式に誘われてまして……。欠席するわけにもいきませんし、11組の生徒たちを連れていってもいいですか?」
「ほお……。叙任式かいの」
俺のものとは別に、招待状が3枚あったからな。ちょうどキーアが転校してきたし、これで漏れなく招待できるだろう。
「じょ、叙任式……!?」
「偉い人たちが集まってご馳走を食べるっていう、あの……?」
ヒソヒソ話すリュアとミア。
ま、そりゃ驚くよな。
「お、おい聞いたかよ。叙任式だって……」
1組の生徒たちもヒソヒソ話を開始する。
……またよからぬことを考えてそうだな。これも青春の一ページか。
「よかろう。これも立派な社会勉強じゃ。存分に楽しんでくるがよい」
「おおおお……!」
嬉しそうに拳を握りしめるリュアだった。
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