ミアの誘惑
「む、む~ん」
地面に仰向けたまま、変な声を発するゴーラ。相当のダメージを受けたようで、目が完全にイっている。しかも涎まで垂らしている始末だ。
「かーっ……」
俺は右手で顔を覆い、天を仰いだ。
ありゃ完全にやりすぎだ。
リュアはちょっと天然っぽいところがあるとはいえ、本気で斬りかかってしまうとは。
昔はどうだったか知らないが、現在において力の差は歴然。
たとえゴーラが油断していなかったとしても、間違いなくリュアが圧勝していた。それだけの差があった。
「愚か者が。油断していた者の末路がこれだ」
「む~ん……」
にも関わらず、大真面目な顔で大剣をしまうリュア。
……ま、あれはあれでいいか。
慢心は停滞を生む。間違えて人を殺すことさえなければ、今後もきっとすごいスピードで成長していくだろう。
「ゴーラ戦闘不能! 勝者はリュア・レインフォート!」
学園長が改めて片手を高く掲げる。
「これにて11組は一勝じゃな。次の試合でまた勝つことができれば、11組の勝利となる」
正直ヒヤヒヤしたが、リュアが勝ったなら結果オーライである。
もし1組が勝ってしまったら……その後の処理が色々と面倒くさそうだ。どうせ本当にクラス替えなんてしないんだし。
そんなことを考えながら学園長をジト目で見やると、爺さんは「ホッホッホ」とすっとぼけやがった。やっぱり黒いな、こいつ。
「リュアさん♪ ナイスファイトです」
「かっこよかったですよ。ほうおーじゅーじでしたっけ?」
ミアとキーアがそれぞれ賛辞の言葉を投げかける。この三人はすっかり仲良しみたいだな。
「ありがとう、ミア、キーア」
タオルで汗を拭きながら答えるリュア。
「そうだな。さっきの技は鳳凰十字。父上の剣技を見よう見まねで真似たものさ」
「へぇ。なんだかろまんてぃっくですね」
「……いや、無理してそういう言葉使わなくていいからな」
キーアが加わったことで、だいぶ賑やかになってるな。
感情も記憶もない彼女だけれど、リュアもミアも、ごく普通に接してくれている。
「――さて! では第二試合を開始するぞい!」
緩みかけた雰囲気を、学園長がピリっと締める。
「1組、11組、ともに選手を決めなさい。制限時間は一分じゃ!」
その号令を皮切りに、両チームは小声で作戦会議を始める。
1組はゴーラが負けたことがよほど予想外だったらしく、明らかな動揺が見て取れる。
ま、最終的には「油断していたせい」という結論で落ち着こうとしていたけどな。
ほどなくして、一分が経過。例によって俺は腕を組んで見守っているだけだ。
一組の選手はリックス。
三人のなかで一番小柄だが、その代わりに小回りの利く戦いを得意とする。武器は細剣。マリアスと似たような戦闘スタイルだな。
対する11組はミアだ。
これは戦術的な選抜ではなく、単にキーアを配慮してのことらしい。
慣れないであろう戦闘にキーアを出すのはやめて、ミアで決着をつける算段だとか。
ま、リュアはキーアの実力を知らないからな。ミアはどうか知らないが。
ミアの武器は言わずもがな魔導銃。遠距離武器と近距離武器の戦いになるので、間合いに入られる前に、いかにダメージを与えられるかがキモとなる。
「よし。それでは両者、位置について」
学園長が両手を伸ばし、号令をかける。茶番とはいえ、生徒たちは本気で俺をかけた戦いだと思ってるからな。目がマジだ。
しーん、と。
数秒だけ重々しい沈黙が続き。
学園長の
「はじめぇ!」
という合図によって、その膠着は解かれた。
「さて、いきますよ!」
先制をしかけたのはもちろんミア。
距離を詰められたら不利になるので、その前に決着をつけようという算段だろう。
ドン、ドン!
という派手な音に続き、炎をまとった銃弾が放たれる。
「ぬ、ぬおおおおおお!」
リックスもすぐ走り出そうとしたものの、たたらを踏んでしまう。
それも無理からぬことだ。
ミアの攻撃は着弾と同時に大爆発を起こすから、広範囲にダメージ付与が可能。さらに相手の視界も奪える。しかも未知なる武器ということもあって、事前予習も不可能。
びっくりするのも道理だろう。
「うふふふ♪ どうですか? お熱いでしょう?」
にこにこしながら攻めるミア。
なんか怖いぞ。
「く、くそ……! 相変わらず意味不明な武器使いやがって……!」
「やん。そんな怖い顔しないでください♡」
ミアが鋭い目つきのまま笑った、その瞬間。
今度は水属性の銃弾が放たれた。
一筋の水柱が、リックスの細剣を的確に射抜く。
「うっつ……!」
やはり、恐ろしいほどに的確な攻撃だ。水柱に撃たれた剣が、くるくる舞いながら地面に落下する。
「くそっ!」
現在、リックスの獲物はなにもない。これでは戦いようもない。
やはり、ミアも昨日の戦いで相当にレベルアップしたようだ。ステータスのみならず、戦闘技術までもが確実にリックスを上回っている。そして現に、まるで勝負になっていない。
「くそ! くそ! なんで元3組の女に、この俺がっ……!」
悔しそうに地団駄を踏むリックス。
このまま戦闘が終わるものと思いきや。
「――っつ!」
ミアが急に頭を抱えだした。
相当の激痛らしい。
射撃すらもやめ、苦しそうに頭を抱え始める。
「あ、あれは……!」
あまりに既視感のある光景だった。
ダークマリーの潜んでいた幽世の神域に乗り込んだときも、彼女は同じく頭を痛めていた。あのときとまったく同様の光景だ。
「こ、このタイミングで……! やっぱりこれは……っ」
「…………!」
そしてその隙を、1組の生徒が見逃すはずもなかった。
「チャーンス!」
落ちていた細剣を拾い、リックスは走り始めた。
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