凡人の本気
★
「さて――」
俺は一息置くと、改めて男子生徒に鋭い目線を送る。
「どうする? このまま居座るつもりであれば、こちらも強行手段に出るが」
さっきも気づいたが、男子生徒たちの気配はかなり邪だ。このまま放っておけば、いずれ生徒たちに手を出してしまいかねない。
だから今日の授業は校庭で行うことにしたわけだ。
こいつらを、呼び寄せるために。
「ぐっ」
俺の威圧感に、ガルムたちは一瞬たじろいだようだが。
「ざっけんな! このまま引けるかよ!」
意を決したように、一歩前に進み出た。
「やっぱり納得いかねえ! 俺はこいつらより優れてる! なのに……!」
「――であれば、実際に試合で解決してはどうかのう?」
ふいに闖入者の声が響きわたった。
「が、学園長……」
ため息まじりに呟く俺。
さっきから気配を感じていたが、このタイミングで出てくるとは。
「試合って。いったいどういうおつもりですか」
「ほっほっほ。なに、単純なことじゃよ」
学園長は長い顎髭を揺らしながら、さらりととんでもないことを言った。
「ちょうど三人ずつ揃っておる。ひとりずつ戦って、勝ったチームがアシュリー殿に教えを乞う。これでどうじゃ?」
「な……!」
おいおいおい。
嘘だろ。
いきなりなに言ってくれるんだこの爺さんは。
(が、学園長)
俺は慌てて学園長のもとへ行き、耳打ちする。
(依頼主はユージーン大臣ではありませんか? 勝手にそんなことしたら……!)
(ほっほっほ。わかっておる。こんなもんは茶番じゃよ)
(えっ)
(じゃが、良い機会だと思わんかの? 本気でぶつかり合うことで、お互いに成長を見出していく……。これも一種の授業じゃよ)
(は、はあ……。そうですかねぇ……)
最初からクラス替えをするつもりはないのに、こんな決闘を持ち出してくるとは。
この爺さん……見かけによらず黒いな。
「ふん! いいぜ、やってやるよ!」
「私たちも受けて立とう。レインフォートの名にかけて!!」
にも関わらず、ガルムもリュアもやる気満々。いまさら「嘘でした」とは言えない空気になってきた。
「ほっほっほ。その意気やよし」
この茶番を企てた張本人は優しげな笑みを浮かべると、両手を広げながら言った。
「ルールは一対一の真剣勝負。1組と11組とでチームに別れ、先に2勝を収めたほうの勝ち。審判はワシが務めよう。それでいいかな?」
「「はい!」」
「「おうよ!」」
生徒たちの元気な返事が響きわたる。
もう、どうにでもなれ……
★
まず一戦目。
11組はリュアが戦うことになった。
戦闘では一番能力が高いからな。まず機先を制して、良い流れを作り出したいらしい。
このことに関して、俺は口出ししない。すべて生徒たちの判断に任せることで、自然に成長を促していきたい……。それが学園長の指示だった。
そして、対する1組は――
「けけ、一戦目からテメェかよ。腕が鳴るねぇ」
ヘラヘラ笑いながら腕を鳴らす男子生徒は、名をゴーラという。
いわく、HPと物理攻撃に特化した戦士タイプらしい。
斧による豪快な攻撃を得意とし、防御のことはほとんど考えない。HPが相当に高いため、ちょっとやそっとの攻撃を受けたくらいでは痛くないそうだ。
大胆に大剣を振るうリュアと、すこし似た戦闘スタイルだろう。
「いきなりゴーラか。……いいだろう」
ゴーラと対するリュアの表情はやや険しい。
――言われずともわかる。
テクニックはともかくとして、ステータスにおいてはゴーラが数段高いんだろう。
戦闘スタイルが似ているからこそ、ステータスの差が勝負の明暗を分けることになる。
「けっけっけ。リュアよ、前から思ってたけどよ、おまえさん結構いけるよなぁ」
「い、いけるってなんだ……!」
「くっくっく。そういう反応もいいねぇ」
ごつい身体を揺らしながら、下品に笑うゴーラ。俺にはなにも感じないが、やはりリュアは相当の圧を感じているのだろう。怖がっているかのように数歩後退している。
――でもな、リュア。
気づいてないかもしれないけど、もうおまえは相当に強くなってるんだよ。何匹もの漆黒竜に、ダークマリーの召還した屍たち。あれほどの激戦を繰り広げて、ステータスが上がらないわけがない。
「それでは、位置について」
学園長が両腕を掲げ、号令を発する。
「リュアとゴーラ。戦闘不能、もしくはどちらかが降参した時点で試合を終了する。――では、始めぃ!」
「うおおおおおおおっ!!」
先に動き出したのはリュアだった。
全力の気合いを込めて、猛スピードでゴーラとの距離を詰める。大剣を抱えていてもなお、その速度はかなりのものだった。昨日よりまたレベルアップしているな。
「へっ? ……えっ!?」
対するゴーラはすっかり仰天したようだ。
普段は防御しないはずが、慌ててリュアの剣を斧で受け止める。
「ちょ、ちょちょちょ! 速い! こんなの聞いてねぇぞ!!」
「遅いぞゴーラ! 貴様の強さは、こんなものじゃないだろう!」
「い、いや、だから……!」
「慢心は剣に伝わる! 驕り高ぶった貴様に、いまの私は負けないッ!!」
いやいや、慢心じゃなくて、リュアが強くなってるんだけどな。ゴーラがそれについていけていないだけだ。
しかしリュアは持ち前の天然を発揮し、気合いのこもった声を響かせる。
「先手必勝! 本気でいくぞ! レインフォート流、鳳凰十字!」
「ぎ、ぎゃああああああっ!!」
リュアの放った剣技を、ゴーラはまともに喰らった。
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