最強は尊敬されるものらしい
職員室。
「ふう……」
俺は詰まっていた緊張をほぐすべく、大きく息を吐いた。
純粋無垢な生徒たちの前で講義。
もちろんのこと、そんな経験はいままでにない。
うまく行えるか不安だったものの、とりあえずは成功したようだ。リュアやミア、キーアも、ちゃんと内容を理解できているように見えた。
まあ、キーアは最初からわかっていたっぽいけどな。学力も相当なものなんだろう。
「さて、と……」
俺は椅子の背にもたれかかり、大きく伸びをすると、ゆっくりと立ち上がる。
――今日の本番は、むしろこれからだ。
★
健気なことに、生徒たちはすでに校庭で待っていた。
二分ほど早く着いたんだけどな。勉強熱心というか、真面目というか……
生徒たちには、それぞれの武器を持ってくるよう指示しておいた。
リュアは大剣を。
ミアは魔導銃を。
それぞれ抱えている――のだが。
「そうか。キーアは武器を持ってないのか……」
「はい」
澄まし顔で答える転校生。
いつもながら無表情で無感情だな。
「武器なんていりません。素手で戦えるかと」
「な、なんと……!」
さらっとトンデモ発言をするキーアに、リュアが目を見開く。
「キーア殿は、魔術師だったのか?」
「いいえ。魔術も使えますが、物理的にぶん殴って蹂躙するのも得意とします」
「そ、そうなのか……」
「うふふ。キーアさんったら、面白い方ですわね」
感情がないぶん、爆弾発言をさらっと言ってしまうあたりぶっ飛んでるな。
たしかに魔神シュバルツだった頃も、これといった武器は持っていなかった。これはこれで個性か。
「それで先生。このあとは試合でもするのでしょうか?」
可愛らしく首を傾げるミア。
「ああ、そのつもりだよ。……だがその前に、一悶着ありそうだけどな」
「え……」
ミアがきょとんと口ごもる。
俺は後ろを振り向きつつ、厳しめの声を投げかけた。
「――いるんだろう? コソコソ隠れてないで、出てこいよ」
「げっ、ばれた」
「やっぱり通じねぇか……」
遠くの草むらから、ひそひそ話し合っているのが聞こえる。
邪神族ではない。
奴らならもっと上手に気配を消すし、なにより未熟だ。すべてが。
「ハイハイ。出てくりゃーいいんでしょうが」
ふてくされたように吐き捨てながら、三人の男たちが姿を現す。
「やっぱりか……」
小さく呟く。
彼らは魔術学園の生徒たち。
全員が派手に髪を逆立てたり、シャツをダボダボに垂らしていたり、明らかな素行の悪さが見て取れる。
いわゆる不良ってやつだろう。
どこにでも一定数いるものだ。
「いったいどういうつもりだ? おまえたち、さっきも教室を覗き込んでただろ?」
「げげっ」
「マ、マジかよ……!」
「伊達にSSSランクじゃねえってことか……」
やはり。
座学の授業中に感じた汚い気配は、やはりこいつらだったようだな。
「お、おまえたちは……! 一組の……!」
そう叫びかけたのはリュア。
さっきとは打って変わって、かなり険しい表情をしている。
――一組か。
この学園では、成績の優秀な者から、数字が低いクラスに振り分けられているらしい。
ってことは、こう見えても優秀な奴らなんだな。
リュアはキッと男子生徒たちを睨みつける。
「なんの用だ! いまは授業の時間だろう!」
「クク、授業ぉ? んなもん出る必要ねえよ。俺たちの実力は、おまえらも知ってるだろうが」
リーダー格っぽい男がヘラヘラ笑いながら、懐から剣を取り出す。
他の二人もそれに倣い、同じように剣を取り出した。
「くっ……!」
怖じ気づいたのか、数歩下がるリュア。
「気にいらねぇんだよ。おまえらは落ちこぼれだろぉ? なのになんで、SSSランクの冒険者なんざについてもらってんだぁ?」
「まったくだ。俺たちは代わり映えのしねえ毎日だってのによ」
「あらあら♡ ガルムさん、そんなにグイグイ来られたら、ドキドキしちゃいますわ♡」
男子生徒らの威勢をものともせず、ミアが唇に手をあてがいながら誘惑する。さりげなく風魔法を使っているようで、大きな胸が不自然に揺れている。
……あ、あざとい。
が、それだけに若き男子学生には大ダメージだった。
「うっ……」
「でけえ……!」
顔を真っ赤にしながら後退する学生たち。リーダー格の生徒は《ガルム》という名前らしいな。さっきまでの威勢はどこへやら、恥ずかしそうに目を逸らしている。
「ミ、ミア……」
呆れ顔で肩を竦めるリュア。
なんか一気に場が和らいでしまったな。
それを狙っているんだろうけど。
「――ともかく、リュアの言う通りだ。授業の妨害のみならず、俺の大事な生徒を冒涜するつもりなら……これ以上はどうなるかわからないぞ?」
俺は意図的に圧を発し、鋭い眼力で生徒たちを刺す。
「ぐっ……!」
ガルムたちは一気にたじろいだ。
表情もどこか青白い。結局は学生だからな。
「だ、だってよぅ……!」
いてもたってもいられなくなったのか、ガルムがぎゅっと目を閉じる。
「納得いかねえんだよ! こいつらごときが……あのアシュリー先生に教えを乞いてるなんてな!」
「……え」
思わず目をぱちくりさせる俺。
あまりに予想外な発言に、リュアやミアもぽかんと立ち尽くしている。ヒュウウウと冷たい風が通りすぎていく。
なんだよ。
こいつらがイキってる理由って、そういうことだったのかよ。
「なるほど」
なにかを納得したかのように頷くキーア。
「これが《つんでれもえー》ってやつですか? リュアさん」
「それ、意味わかってて言ってるか……?」
「おまえたち……」
呑気に話している生徒たちに、俺はため息をつくのだった。
さらに熱く、面白く…… 徹底的にブラッシュアップして、書籍版を発売致します!
他のなろう系にはない、ダントツに面白い作品を目指しております。 下記のイラストを押すと作品紹介ページに飛びますので、ぜひご確認くださいませ!
予約までしてくださると本当に嬉しいです。 よろしくお願い致します!