凡人は最強を夢見る
――さて。
色々あったが、その夜はぐっすりと眠ることができた。心なしか、普段の睡眠よりも疲れが取れた気がする。目覚めたときには妙に頭が冴えていたし、身体も元気になっていた。
ちなみに女神族の長――リアヌは俺と寝た。
もちろん俺は拒否したのだが、リアヌがここで寝たいと言って聞かなかった。
あ、もちろん彼女は猫の姿だぞ。
だがいまにして思えば、彼女は寝ている俺をずっと気にかけてくれた気がする。
「あんた……俺の疲れが取れるように魔法でもかけてくれてたのか?」
「にゃんにゃんにゃーん?」
当の猫はとぼけたフリをしてミルクを飲んでいる。
たぶん、気のせいじゃないよな。きっと夜通し魔法をかけてくれてたんだと思う。
「ありがとな。感謝するよ、リアヌ」
そう言って背中を撫でてやると、
「みゃーっ♪」
と幸せそうに鳴くのだった。
数分後。
「――さて、では早速始めるとするかの」
昨夜素振りをした草原で、俺とリアヌは向かい合っていた。
術を解いたようで、リアヌは人の姿に戻っている。
「先日も話したように、おぬしには転生者や魔神よりも強くなってもらう。そのつもりで頑張るのじゃぞ」
「そ、それはいいが……ここでやるのか? 村人に見られてしまいそうなんだが……」
「クックック。安心せい。修行場所は――ここじゃ」
含み笑いとともにリアヌはパチンと指を鳴らす。
すると例によって、周囲の風景が様変わりした。
「こ、ここは……」
また変わった場所に来たもんだ。俺は思わず立ち尽くしてしまう。
周囲には、なにもなかった。
ただただ真っ白な空間だけが地平線の彼方まで続いている。なんだか、風景を観察しているだけで気がおかしくなってしまいそうだった。
「次元の狭間。昨日の隠し部屋と同じく、幽世の神域じゃ」
「か、幽世の神域……」
「うむ。ここにいる間、現実世界では一秒も時間が経たん。おぬしがそうと望めば、十年、百年、それ以上の年数をここで過ごすことが可能じゃ」
「え……マ、マジか……!?」
すごいな。
そんな場所があるのか。
「加えて、ここにいる分には歳を取らない。自分だけ老けることもないから安心するがいい」
「…………」
ということは、ここで永遠に修行できるってことだよな。
すごすぎる。なんだかテンション上がってきたぞ。
「たしかおぬしは元々兵士じゃったな。剣と魔法、先にどっちをやりたい?」
「そうだな……左腕しか使えないけど、やっぱり剣をやりたい」
魔法も捨てがたいが、やっぱり爽快に剣を振るのが昔からの夢だった。
「フフフ。なあに心配することはない。なにせ時間はたんまりあるからな、左腕の特訓も思う存分にできる。もちろんその後、魔法も覚えてもらうからな」
「剣も魔法も……」
いままでの俺なら「そんなの無理だ」で終わらせていただろう。でもここでは無限に時間があるんだもんな。
転生者や魔神に対抗するには、たしかに両方使えるに越したことはないだろう。
「ダーリン。修行を始める前に、いまのステータスを見せてくれなんか?」
「あ、ああ……」
――――
アシュリー・エフォート
レベル31
攻撃力 75
防御力 67
魔力 59
魔法防御力 58
俊敏 69
所持スキル
攻撃力アップ(小)
――――
うん。改めて見るとすげー弱いな。転生者のそれとは比べものにはならない。
「ふっ、楽しみにしておけ。妾にかかれば、ステータスなど爆上げじゃ」
言うなり、リアヌはパチンと指を鳴らした。
「がはっ……!」
瞬間――とてつもなく重いものがのしかかってきて、俺はたまらずうつ伏せになった。起き上がろうと足掻くが、ほとんど身体が動かない。
「重力を五倍に上げた。どうだ、動けまい?」
「ぐぐぐ……!」
「まずはこの重力で五周走ってもらおうかの。ちなみにここは小国レベルの広さがあるからな」
「の、望む、ところだぁぁぁぁあ!」
こんな苦しみ。
あのクソ生意気な転生者に右腕を奪われたことを思えば、どうってことない……!
強くなってやる。
絶対に。
見てろよ転生者……!
――かくして、俺の壮絶なる修行は幕を開けたのだった。
ここからどんどん成り上がっていきます。
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