試験んあああああ!
キーアは無事、クラスに馴染んだ。
感情のわかりにくいところはあるものの、リュアもミアもそれくらいは気にしない。
新しい学友が増えたことを、素直に喜んでいる様子だ。
ちなみにだが、キーアの正体についてはまだ明かしていない。
怖がられてしまう可能性があるし、わざわざ自分からカミングアウトする必要もない。
それだけのことだ。
仲良くなったらいずれ話してみればいい。
まあ……ミアに限っては、キーアの出自になんとなく気づいてそうだけどな。
それでも黙ってくれているあたり、気を遣っているんだろう。本当に得体の知れない生徒だ。
「それでアシュリー先生。今日の授業はなんですか?」
リュアがキラキラした瞳で訊ねてきた。
驚いたことに、すでに大剣を握っている。やる気満々だな。
「は、ははは」
俺は苦笑を浮かべて言う。
「水を差すようで申し訳ないが……最初は座学だ。いったん座ってくれないか」
「な……んだとっ!?」
雷に打たれたかのような衝撃を受けるリュア。
「座学……テスト……試験……! ああ、悪魔のような言葉だ……!」
そう言って「うおおおおおお!」と頭を抱え出すリュア。
「あの、リュアさんって、もしかして……?」
キーアの問いかけに、ミアは変わらずの艶めかしい笑顔で答える。
「うふふ。リュアちゃんは根っからの剣士ですからね。お勉強は苦手なんですよ」
「そうですか。そんなに難しいものとも思いませんが」
「私も、アシュリー先生の授業ならどんな危ない内容だって……♡」
「うおおおおお! 試験……試験んああああ!」
「こらこら、みんな落ち着きなさい」
俺は手を叩いて沈黙を促す。
仲が良いのは好ましいことだが、うるさくなるのも考えものだな。
それに……
俺は教室のドアをちら見すると、再び生徒たちに視線を戻した。
「座学は短く抑えるつもりだ。すぐに身体を動かしてもらうから、そのつもりでな」
元々、戦闘の指導をしてほしいとの依頼だったしな。座学は必要最低限しかやらないつもりだ。
「じゃ、始めるぞ。席について」
★
リングランド王国。
――それはすなわち、世界最大の規模を誇る大国だ。
もとは貧しい土地からなる国だった。領土も小国レベルでしかなかったとされている。
しかしながら、魔法を中心とする軍事力に力を注いでから状況は一転。
戦争によって周辺諸国をいっせいに取り込み、現在のように広大な領土を獲得したとされている。
そして――いまもなお、その軍事力は世界トップ。
他国の追随を許さぬ成長と発展を続けている。
それが我が国……リングランド王国の歴史だ。
「もちろん、軍事力というのは魔法だけに留まらない」
俺は教科書を片手に、解説を続ける。
「剣などを用いた武術も、我が国は世界最高峰クラスだ。その筆頭にいるのが――王国軍の中将、オルガント・レインフォート氏。リュアの父親にあたる人物だな」
「はい……」
リュアが伏せ目がちに答える。
「私も父の本気を見たことはありません。ですが、冒険者のランクに換算すればSSSランク……まさに世界トップクラスの実力者だと思います」
「ああ。俺も兵士時代に遠目で試合を見たことがあるが……すさまじい使い手だったよ」
さすがにリアヌや魔神シュバルツほどではないにせよ、人の域はとうに超えている。
そう思わせるほどの剣士だった。
「…………」
父の話題になったからか、リュアが切なげな表情を浮かべる。
(どうしたんだ……?)
気にはなったが、いまは授業中。勉強を教える時間だ。
「――とにかく、そのような軍事力の拡大によって、我がリングランド王国は最大の国となった。この魔術学園に国が巨額の投資をしているのも、それが起因している。今日はこのことだけ、しっかりと押さえておいてくれ」
ここまで言い終えたあと、俺はパタンと教科書を閉じる。
「以上で座学は終了だ。十分の休憩のあと、校庭に集まってくれ」
「「はい!」」
「わかりました」
リュアとミアの返事が重なり、数秒遅れてキーアの返事が届いてきた。
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