凡人は再会を果たす
それから俺たちは何事もなく帰宅した。
念のため、村長には実験の件を伝えておいた。また同じことが起きるとも限らないからな。
村長は最初かなり驚いていたが、すぐに俺の話を信じてくれた。内容が内容だけに、大っぴらに公表することはできないが。
そして俺は村長から無理やり渡された金を持って、王都に帰宅するのだった。
「おー、帰ったか。アシュリー君」
学園近くの社宅で、同僚のSSSランク冒険者――ルラエンドが待ち構えていた。どうやら彼女のクラスは早めに放課後を迎えたらしい。
「ルラエンドさん……どうしたんですか、いったい」
「なあに。これを渡しておこうと思ってな」
そう言って彼女が差し出してきたのは、一枚の封筒。なんとなく豪勢な雰囲気が漂っている。
「これは……?」
「ふふ。開けてみたまえ」
「…………?」
わけもわからぬまま、俺は封を開く。
なかには、【SSSランク叙任式 招待状】と書かれた紙があった。
「叙任式……ってことは、まさか」
「ふふ。そのまさかさ」
聞いたことがあった。
Sランク以上に昇進した冒険者を対象に、叙任式が開かれることを。
Sランクは世界最高峰クラスだから、昇進者が現れることは滅多にない。だからこそ、相当に盛大なパーティーが行われるのだと。
「すみません。俺はじた……」
「辞退はできないぞ、アシュリー君!」
先手を打たれた。
「国の重鎮がたくさん参加するんだ! 主役が欠席なんてありえないだろう!?」
「重鎮……」
「あとは酒! 女! 酒池肉林の楽園に行かないなんて、気高き冒険者として間違っt」
ルラエンドの意味不明な一人語りを黙殺し、俺は話題を切り替える。
「重鎮となると、もしかして、ユージーン大臣も……?」
「綺麗な女性に会えるなんてそれだけで鼻血が……って、ん? ユージーン大臣は叙任式に毎回参加されているぞ?」
「…………」
なるほど。
正直面倒くさいと思ったが、これはアリかもしれないな。奴らの陰謀にまた一歩近づくことができる。
「わかりました。参加します」
俺は招待状を封筒に戻しつつ答えた。
「でもルラエンドさん。この招待状、あと三枚あるみたいですけど……?」
「む? はっはっは。そりゃ君は主役だからな。誰でも好きな者を招待するがいいさ」
「す、好きな者って……」
そんなこと言われても、俺に知り合いはほとんどいない。
リアヌもマリアスも、いまは厳しい特訓の最中だからな。
特にマリアスは【神の域に達するまで俺に会えない】という謎の制約を交わしているようだから、無遠慮に誘うわけにはいくまい。
となると、あとはリュアとミアしかいないな……
うーん。
社会の授業という名目で連れていくのもいいだろう。どうせパーティーの日は授業できないしな。
「ふっふっふ。話はまとまったかな」
ルラエンドは大きい胸をたぷんと揺らしながら、満足げに頷く。
「パーティーは一週間後の夕方から行われる。それまで楽しみにしていようじゃないか。はっはっは!」
大きな声で笑いながら、まさに台風のように去っていくルラエンドだった。
★
翌日。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、なんとか学園に到着した。
厳しい修行期間を経たいまでも、朝は苦手だな。
まあ、これでも教師の端くれ。
そんなことは言っていられないな。
「おお。アシュリー君」
職員室に出向いた俺を、学園長が迎えてくれた。
「これは……学園長。おはようございます」
「うむ、おはよう」
学園長は頷くと、申し訳なさそうに眉を垂らしながら続ける。
「……突然で申し訳ないが、君のクラスで転校生を受け持っていただきたくての。頼めるかな」
「て、転校生……?」
そりゃまた急だな。
というか、俺に頼むより、正規の1~10のクラスに行かせたほうが良くないか?
俺のそんな疑問に答えるかのように、学園長が顎髭をさすりながら言う。
「すまんの。これは転校生の保護者……ええと、りあぬ・さくらろーど殿からのお達しなのじゃ」
「げっ」
新しい者ってそういうことかよ。
となると、ちょっと嫌な予感がするぞ……?
「学園長。その転校生というのは……?」
「うむ。もうそこにおるぞ。――来なさい、キーア・シュバルツ君」
「キ、キーア……!?」
おいおいおいおい!?
冗談だろ!
俺の驚愕をよそに、職員室の扉が開かれ。
見覚えのある、最強の転生者――キーア・シュバルツが姿を現した。
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不遇スキル《エンカウント率アップ》が、進化したら最強すぎた。 〜パーティー追放後に《陰の魔王》に変化して、伝説の魔物すら従え放題〜
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