凡人、女神の加護を受ける
「えっ……!?」
俺はいっぱいに目を見開いた。
この声。
忘れもしない。
いや――忘れられるはずがない。
「リ、リアヌ……? リアヌなのか……?」
「ふふ。久しぶりじゃの、ダーリン」
天使のごとき微笑みを浮かべながら現れたのは、俺の師匠にして女神族の長――リアヌ・サクラロード。
ふわふわとした金髪に、ちょっと悪戯っぽい丸目。
そして巨乳。
外見的には十代に見えるが、彼女が積んできた年月は俺など比較にならない。そうと思わせるだけの風格が彼女にはあった。
「だ、誰だ……。あれは……」
(……ふふ。なるほど。彼女がアシュリー先生の……)
リュアとミアがそれぞれ別の反応を見せる。
「ダーーーーリン♡」
そんな生徒たちの前で、リアヌはあろうことか抱きついてくるではないか。
「っっっっっつ!?」
当たってる当たってる!
なにがとは言わないが!
「ふがふが!!」
「ふふ、この恥じらい。妾がいない間に、破廉恥なことをやっていたわけではないようじゃな♪」
「な……に言ってるんだよ!」
胸の圧迫感と幸福感になんとか抗い、俺はリアヌの両肩を掴んで引き剥がす。
「生徒たちが見てるだろ。そういうのはやめてくれ」
「ふふ、見てるからこそじゃ」
「お、おまえってやつは……!」
相変わらずタチが悪いな。
ほら見ろ、リュアなんか顔を真っ赤にしていまにも爆発しそうだぞ。
ミアに至っては、いつも通り艶めかしい笑みを浮かべている。
「いいじゃろう、妾とて、ずっとダーリンに会いたかったんじゃ」
「お、俺も会いたかったけどさ……って、そうじゃなくて!」
墓穴を掘りかねなかったので、俺は話題をむりやり元に戻す。
「そ、それで。引き受けてくれるってのは、どういうことだ?」
「なに。簡単なことじゃ。実験に用いられた人間たちを、妾のほうで引き取ってやろうと思ってな」
「な……い、いいのか?」
それは大助かりだ。
俺が全員を匿おうにも、さすがに無理があるからな。SSSランクになったおかげで、金の心配はないけれど。
リアヌは
「えっへん」
とドヤ顔をつくると、大きな胸をたぷんと張った。ずいぶんとデジャブのある仕草である。
「構わぬよ。こちらのほうで色々と調べたいこともあったしな」
「そ、そうか」
よくわからないが、リアヌに預けられるのなら安心できるだろう。国などよりも、ずっとな。
「ありがとう。助かるよ」
俺は改めて女神に礼を言うと、周囲を見渡しながら続けた。
「ところで……マリアスは来てないのか? 一緒に修行してたんだろ?」
「ああ。あやつなら今頃死んだように眠っておるよ。神の域に到達するまではダーリンに会えない……そう言ったらかなりやる気を燃やしての」
「死んだように……」
ああ、かつての俺がそうだったように、リアヌの修行はかなり辛いからな。その光景が嫌でも思い浮かぶよ。
「ちなみにアガルフ・ディペールとは別行動中じゃ。あやつもあやつなりに、邪神の陰謀を食い止めるために動いてるようでの」
「そうか……。アガルフが……」
あいつとはかつて敵対していたが、いまでは頼もしい味方だもんな。そう思うと感慨深い。
「あ、そうじゃダーリン。ひとつ大事なことを伝えにきたんじゃが」
「ん? なんだ?」
「明日、新しい者がお主に会いにいくじゃろう。だが、まあ……どうか拒まないでほしい。彼女も被害者じゃからな」
「は……? 新しい者ってなんだよ」
ずいぶん意味深だな。
「ふふ。それを言ったらつまらないじゃろう。明日になったらのお楽しみじゃ」
「そうかよ……」
相変わらずマイペースなことで。
もう慣れたけどな。
リアヌのことだから、悪いことじゃないだろうし。
俺はふうと息を吐くと、後頭部をかきむしりながら言った。
「まあ、俺のほうでも邪神族の動きを探ってみるよ。またしばらく別行動になるが……よろしく頼む」
「ふふ。頼もしくなったの、ダーリンよ」
そう言ってから、今度は頬にキスをしてくる女神。唇の感覚がなんとも柔らかくて、俺は身体が赤くなるのを感じた。
「お、おい! だからおまえは!」
「すまんの。ちょっとした乙女心だとでも思ってくれ。じゃあの――」
そう言って《転移術》で消え去るリアヌは、本当にちょっと切なげな表情をしていて。
俺は、さっきとは違う意味で胸の高鳴りを感じるのだった。
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