凡人、弟子ができる
「はぁ……はぁ……はぁ……」
リュア・レインフォートは大の字になって寝転んだ。うら若き乙女としてはありえない格好だが、この際細かいことは言っていられない。
それほど、身体にのしかかる疲労は相当なものだった。
「終わった……やっと……」
掠れる声でそう呟く。
自分の《鳳凰十字》により、最後の屍は間違いなく倒れた。念のため周囲を探してみたが、無事、敵の殲滅が確認できた。
達成できたんだ。
絶対に生き延びるという、先生との約束を。
「あらら。リュアちゃん。年頃の乙女がそんな格好をするものではありませんわ」
言いながら、ミアが隣に座ってくる。彼女もかなり疲れているだろうに、可愛らしく女の子座りときたもんだ。自分には到底真似できない。
「なにを言う……。もう、クタクタなんだよ……」
「ふふ。リュアちゃん、本当に頑張りましたものね」
「ああ。身体は限界だが……こんなに清々しい気分になれたのは、久々かもしれないな……」
心地よい疲労、とでもいうべきか。
現在、リュアの心はかつてないほどに澄み切っていた。戦闘前のモヤモヤした気持ちは、もうない。
「ようやくスタートラインに立てた気分だよ。剣士としても、生徒としても」
「リュアちゃん……」
ふふふ、とミアは微笑む。
「あのとき……私は嬉しかったです。昔からひとりですべてを抱え込んでいたリュアちゃんが……やっと、私を頼ってくれて」
「ミア……」
「あなたに比べれば、私なんて頼りないかもしれません。でも……ときには当てにしてくださいな。すくなくとも、私はあなたを《友達》だと思ってますから」
「…………」
「ふふ。麗しき青春の一ページってやつですね」
「――二人とも、すっかり成し遂げたみたいだな?」
ふいに聞き覚えのある声に呼ばれ、リュアは目を見開く。
と同時に、破廉恥な格好をしている自分が急に恥ずかしくなり、リュアは慌てて身を丸めた。
「せ、せせせ先生!? ご無事だったんですか!?」
「あらどうしたんですかリュアちゃん。急に顔が真っ赤ですわよ?」
「や、やかましい! 余計なことを言うなっ!」
嫌らしい顔をしながら頬をツンツンしてくる同級生に、リュアはぎゅっと目を閉じる。
わからない。
わからないけど、先生を見た瞬間、身体が熱くなって、胸の鼓動が早くなるんだ。剣の道ばかりを追い求めてきた自分には、この現象がなんなんのかよくわからないけれど。
アシュリー先生は最初目を点にしていたが、やがて頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「ああ……邪神なら倒してきたよ。たったいまね」
「ほ……本当ですか!?」
あんな桁違いの化け物を?
漆黒竜を蘇らせ、屍たちを生み出し、底知れない力を秘めていたあの男を、先生はたったひとりで倒した……?
「本当にすごい……。さすがは魔神シュバルツを倒しただけのことは……」
「はは。そんなたいしたことじゃないさ。それに……大変さで言えば、君たちのほうが辛かったんじゃないか?」
「それは……」
アシュリー先生はしゃがみこむと、リュアとミアの頭を優しく撫でてきた。
「よく生き延びてくれた。君たちの教師であることを、俺は誇りに思うよ」
「あっ……」
「先生♪ それはズルいですぅ」
呆気に取られるリュアに、よくわからないことを宣うミア。
「先生。ありがとうございます。この《特別授業》のおかげで……私は一歩、前に進むことができました」
「ん?」
「私は以前まで、レインフォート流を継ぎし者として、恥のない戦いを目指してきました。ステータスが低いという事実に目をつぶって、みんなを守るために、滅茶苦茶に剣を振るって……」
「…………」
「ですがさっき、気づかされました。私もしょせん、生徒のひとり。現状の力はたいしたことありません。ならばこそ、改めて自身の弱さを見つめ……新たにスタートラインに立つことを決めました。それをわからせてくれるために、先生はこの《特別授業》を組んでくれたんですよね?」
「う、うん? ま、まあ……そうかもしれなくもないな」
ならばこそ。
リュアは改めて、アシュリー先生の瞳をまっすぐ見据えた。
「私は、先生にどこまでもついていきます。できれば、その……師として仰がせていただいてもよろしいでしょうか」
「お、俺を……?」
目をぱちくりさせるアシュリー先生。
剣聖として名高い父であるが、おそらく、先生はそんな父より強い。
父とは別に指導を賜ることで、きっと新たな道を切り開けるはず。そう思っての提案だった。
「はは……俺が師か。感慨深いな。そういえば、初めて彼女に修行をつけてもらったのも、ここと同じ幽世の神域か……」
「え?」
「いいよ。俺もまだまだ勉強中の身だ。ぜひ、一緒に強くなろう」
「あ……ありがとうございます!」
父上。
どうか見ていてください。
私はきっと、いまより強くなります。
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