教師と生徒は壁を乗り越える
――いいか、リュア。己を知ることなくして、剣の修練を積むことはできぬ――
――たとえ見つめたくない現実であっても、それから目を逸らしている者に未来はない――
……いまなら、父の言葉が沁みるほどに理解できる。
私は傲慢だった。
思い上がっていた。
現在の私はまだまだ修練中の身。ステータスも未熟。ひとりで戦線を突破することは適わない。
だったら――仲間の力を借りればいい。
ともに学び、高みを目指し続けている、最高の仲間と。
「頼む……ミア」
大剣を構えながら、リュアは背後で銃を持つパートナーに問いかける。
「こんなにも愚かな私だが……もう一度だけ、力を貸してくれ。二人で、この場を切り抜けるんだ」
「はい♪ 喜んで♪」
そう言って微笑む仲間は想像以上に頼もしくて。
なんて大切なものを見落としていたのだろうか……と思わずにいられない。
だがクヨクヨするのは後だ。
屍の残存勢力はおよそ二十。
小手先の剣術で切り抜けられる数ではない――!
「ではいきますよゾンビさんたち♡ お熱い夜へようこそ♪」
ミアはいつもの不敵な笑みを浮かべるや、魔導銃を発砲。
さきほどと同様、大爆発が発生する。炎属性をより強化した魔法らしい。
「ヌアアアアアッ……!!」
恐慌に陥った屍たちが悲鳴をあげるが、奴らは存外にしぶとい。あれくらいでは倒れない。ミアがひとりだけで戦った場合、これが限界だろう。
だが――!
「おおおおおおおっ!!」
リュアは渾身の雄叫びをあげ、戦線に突っ込んでいく。
だが屍たちにはなにもできない。
ミアが炎属性の銃弾を放った影響で、一帯に黒煙が発生しているためだ。奴らの視界にはいま、私は映っていない!
リュアは空高く跳躍し、そして大剣を突き立てる要領で落下する。
レインフォート流、鳳凰十字。
紅の衝撃波が、屍たちを襲う。
「グオオオオオオ……!」
「ガアアアアアッ……!」
屍たちの悲鳴がさらに大きさを増した。
「…………!」
その想像以上の威力に、さしものリュアも驚愕せずにはいられない。
体力が低下しているため、さきほどよりも精度は落ちているはずなのに。
なんか、最初に放ったときよりも効いているような……?
「これが連携の力です! リュアさん!!」
背後から聞こえてくるのは、仲間の声。
「ともに乗り越えましょう! どんなに高くそびえる壁でも……私たちなら飛び越えられる! アシュリー先生の臨時クラス……《十一組》の私たちなら!!」
十一組。
通常の一~十のクラスに続いて、アシュリーの受け持つ臨時の十一組、ルラエンドの受け持つ十二組。
元はリュアもミアも三組にいたが、なにが起きたか、アシュリーの任に伴ってクラス替えとなった。
理由はわからない。
噂では、出来損ないの再教育クラスとも言われているが……
いや。
出来損ないであろうと構わない。実際、私はステータスの低い出来損ないだ。
だけど、たったいま知ったのだ。
自分を。自分の弱さを。自分のスタートラインを。
だったら、ここから強くなればいいだけのこと!
「いくぞミア! 私たち十一組の力……あのゾンビどもに見せつけてやろうじゃないか!」
「はい♡」
★
――そして。
「これでトドメだ! 皇神一刀流、幽世之一閃!」
教師たるアシュリーと。
「これで最後だ! レインフォート流、鳳凰十字っっっっ!!」
生徒たるリュアの絶叫が重なった。