教師と生徒のコンビネーション
――実験。
かつて邪神族は、転生者アガルフ・ディペールを召喚し、魔神シュバルツを呼び出すための礎とした。
そしてそのために、多大なる人々を犠牲とした。
無関係な人間までもをも《転生の儀式》に巻き込んだことにより、死者はそれこそ膨大な数に昇るだろう。
「おまえたちは……今回も同じことをやろうとしているのかよ……!」
「ふん。その通りだ」
俺の問いかけに、邪神は平然と答える。
「おまえら人間にはわかるまい。サヴィター様がなにを考えていらっしゃるか……その壮大にして慈悲深き計画を!」
「なにが慈悲だよ……まったく……」
あんな悪魔みたいな野郎に、優しさなんて皆無だろ。
「……アシュリー・エフォートよ。可愛い教え子たちを遠ざけたのは、むしろ失敗だったかもな」
「なに……」
パチン。
俺の返答を待たず、邪神は指を鳴らす。
――と。
「な、なんだこれはっ!?」
背後からリュアの悲鳴が聞こえ、俺は否が応にも嫌な予感を覚える。咄嗟に振り向き――そしてそこに、見覚えのある光景を目撃した。
さきほどと同様の、意思を失った人間たち。
総勢五十人ほどの人間たちが、リュアとミアたちを囲っていたのだ。
「返シテ……返シテ。ソレハ……私ノ……!」
「ドウシテソンナコトヲスルンダイ……? 僕ハタダ、君ノコトガ……」
おぞましいことに、その全員が、悲痛きわまる呻き声をあげている。なかには涙を流している者までいるようだ。両腕をだらしなく弛緩させ、ゆっくりと確実に、リュアたちに歩み寄っている。
「くっ……小癪なことを……!」
「戦うしかないようですね……!」
二人は慌てて武器を構える。
だが、命をかけた本当の実践はおそらく今日が初。二人とも、目に見えて表情が緊張していた。
「おい邪神……! おまえ……!」
俺はありったけの怒りを込めて邪神を睨みつける。
こいつはいったい、どこまでのクズなんだ。
「くくく……ははは……はーっはっはっは!」
邪神は目元を抑えるや、こらえきれないといったように高笑いした。
「どうするよアシュリー・エフォート! 大事な教え子なんだろう!? 助けにいかなくば大変なことになるぞ!?」
「ちっ……!」
そうやって自分は実験を続けるつもりなんだろう。
不覚だった。
やはり、この場所にはひとりで来るべきだったか……!
と――そのとき。
「私たちには構わないでください! 先生!」
遠くから、ミアの大声が聞こえてきた。
「屍たちは私たちでどうにかします!! だから先生は、ご自身の戦いに集中してください!」
「ミ、ミア……?」
「もちろんです! レインフォート流の名にかけて……後退するわけにいきません!」
「リュアも……」
たいした胆力だ。
あの不気味な屍たちを自分たちだけで倒そうというのか。
たしかに、戦闘力的だけで見れば不可能なことではない。
個々のステータスでは、リュアたちのほうが段違いに上だろう。
だが……敵の数があまりに多い。
そんなとき。
リュアの発した言葉が、俺の脳裏に深く焼き付いた。
「――私は強くなる。絶対に……!」
このセリフ。
むかし初めて幽世の神域を訪れ、五倍もの重力に耐えていたとき、苦し紛れに俺が言った言葉だ。
あのとき、リアヌは恐ろしく辛い実験を課してきた。
修行過程で死んでもおかしくない内容だった。
だから昨日のことのように覚えているのだ。
ときおり彼女が見せてきた、限りなく不安そうな表情を。
それでも俺は必死に耐えた。
強くなるため。
転生者に抗うため。
いまのリュアの気合いは、そんな自分を想起させた。
――かつてのリアヌは、心配しながらも俺を信じて修行につきあってくれた。
だったら。
臨時教師である立場だからこそ、彼女たちを信じよう。
二人ならきっと、この壁を乗り越えることができるはずだ。
「リュアにミア! 授業初日の最終訓練だ! ――無事に生き残れ!」
「「はいっ!!」」
いまは二人を信じよう。
まだ出会って間もないが、きっと二人なら乗り切れるはずだ。
俺は振り向き、改めて苦々しい表情をしている邪神に言った。
「そういうことだ。俺たちは俺たちで、存分にやりあうとしようじゃないか……!」
「ふん。人ごときが、生意気な真似を……!」
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