凡人は神に恐れられる。
「ば、馬鹿な……」
邪神がわずかに後退する。
「神の境地……。人ごときが、本当に達していたというのか……」
神の境地。
そういえば、リアヌや魔神シュバルツも似たようなことを言ってたな。
詳しいことは結局聞けずじまいだが、EXステータスが神と同等の力を誇っていることは想像に難くない。
――そして。
「グガガガアアァァァァ!!」
俺の周囲では、相も変わらず漆黒竜が叫び声をあげている。どの個体も俺より遙かに大きく、そして禍々しい。
漆黒竜。
それはSランク冒険者でさえ単身では苦戦する相手。
だが……神と同等の境地に至った俺にとり、たいした相手ではない!
「…………」
俺は静かに目を閉じると、竜たちの動きを鮮やかに読みとった。わずかな筋肉の動き、息づかい、殺気……それらすべての情報を読み取る。
いま俺と一番距離が近い個体は、現在まさに爪を降りおろさんとする竜だ。あとコンマ数秒もすれば、鋭角な爪先が俺の首筋に直撃する。
「先生っ!!」
背後からミアの絶叫が聞こえる。
だが俺は動かない。
動く必要がない。
「……どうした。その程度か」
竜の巨大な爪を、俺はそのまま受け止めた。人体における脆い部分――首筋にその獰猛な爪が当たっているにも関わらず、俺には微塵の痛みもない。
「えっ……!?」
「おいおい!? 嘘だろう!?」
生徒たちが驚きの声をあげる。
「もう、俺の前では……誰一人として、死なせはしない!!」
俺はかっと目を見開き、十体もの竜に向けて、一撃ずつ切り刻んでいく。その間、反撃してくる敵はいなかった。竜どもが攻撃してくる前に、絶対的なるスピードで剣撃を見舞ったからだ。
「…………」
すとん、と。
最後の一体を斬った俺は静かに着地し。
「おおおおおおおっ!!」
そのまま背後を振り向きつつ、十体に向けて剣を振り払った。
瞬間、轟音とともに巨大な衝撃波が発生。
竜たちをもろとも飲み込んだ。
これが――皇神一刀流、幽世之一閃。
高速で振り切られた刀身が空間そのものに干渉し、発生した衝撃波によって叩き込む。
自分で言うのもなんだが、かなり難易度の高い技だ。高度な集中力と筋力、そして魔力操作能力を必要とする。
「ゴアアアァァァァッ……!」
俺の猛攻に、漆黒竜たちはなすすべもなかったようだ。断末魔をあげながら、一体、また一体と倒れていく。死んでいく。
「す、すごい……」
「私たちは……夢でも見ているのだろうか……?」
ミアとリュアが口々に感想を述べ立てる。リュアは足を震わせながらもちゃんと剣を構えていた。さすがは剣聖の娘というべきか。
俺は剣を鞘に収めると、改めて生徒たちに目を向ける。
「……これでわかっただろう。あいつはやばい。いったん、遠くまで下がってくれないか」
「は、はい……っ!」
こんなものを見せつけられては、さすがに素直に応じざるを得ないのだろう。二人とも俺が言った通り、遠くまで離れていった。近隣には魔物の気配もないから、不慮に襲われることもないだろう。
「さて――」
気を取り直し、改めて邪神を見据える。
「今度こそ教えてもらおうか。おまえ……この地でなにをしようとしていた」
「ぐぐ……。おのれ……!」
恨めしげに口元を歪ませる邪神族。
かつて転生者をひたすらに持ち上げていた面影は微塵もない。
「ふん。よかろう。じきにこの実験も最終段階に入る。おまえに介入の余地はない」
「なんだって……?」
「簡単なことさ。今回もユージーン大臣の許可を得て、国民の方々に協力してもらってね。《悲しみ》を引き起こすための重要な実験体にさせてもらったよ」
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