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凡人の生徒たちはかなり個性的なようです

 さて。

 それから俺たちは、しばらく道なりに洞窟を進んだ。


 魔物は出没するものの、相変わらず平和な洞窟である。ゴブリンやオークくらいなら、ミアやリュアの敵ではない。


 加えて、急な崖があったり、視界が悪いわけでもない。

 難易度的には全然しょぼいな。

 Eランクの冒険者でも楽々突破できるだろう。


 ま、最初からそれはわかっていたこと。エストル洞窟に来た目的は、生徒たちの現状を把握すること。それ以外の何物でもない。


「……で」

 一番後ろを歩きながら、俺はミアの背中に問いかけた。

「いい加減教えてくれないか。それ・・はいったい何なんだ?」


「あら……これですか?」


 ミアは腰に下げた筒状の武器をひらひらと振ってみせる。その仕草がいちいち艶めかしい。リュアと同じく十七歳のはずだが、すでに彼女は大人の色気みたいなもんを身につけ始めていた。


「嫌ですわね♡ さっきから言ってるじゃないですか。これは魔導銃という、立派な武器ですよ」


「……魔導銃」


 そんな武器名、聞いたこともないぞ。こちとら王都で何度も武器屋を訪ねた身だ。博識とまでは言わないまでも、そこそこの知識はあるはずなのに。


 それに……

 俺はミアの耳元に顔を近づけると、小声で言った。


「君は……本当は何者だ? 魔物を狙うあの目……普通じゃないぞ」


 まるで、歴戦の弓使いが魔物の立ち回りを計算しているかのような。


 ミアは戦闘中、そんな鋭い目つきを見せるのだった。


「ふふ……そんなに近づかれたら、私……♡」


 とぼけた様子でうっとりするミアに、俺はすこし表情を尖らせる。


「ちゃんと答えてくれないか。俺は本気で聞いてるんだ」


「あら……残念」

 彼女はちょっとだけ肩を落とすと、思いも寄らない発言をした。

「どうか心配なさらないでください。私はユージーン大臣の刺客でもなければ、ましてサヴィターの仲間ではありません。警戒は不要です」


「な……!?」


 嘘だろ!?

 なんでミアがそんなことまで知ってるんだよ。


 邪心族とか女神族とか、俺やアガルフたちしか知らないんじゃなかったのか。


「ただひとつだけ言えるのは、ユージーン大臣は不可解な思惑をもってこの《臨時教師》という依頼をかけました。その意味では、私も先生も似たような立場かもしれません」


「似たような立場……」


 わけがわからないんだが。


「それと、もうひとつ……」

 そこでなぜか、再びうっとりしたように目を輝かせるミア。

「アシュリー先生の評判を聞いて、お会いするのをドキドキしながら待っていたんですが……。うふふ。これは予想以上の殿方とのがたですわね♡」


「お、おい」


 俺はさっきとは違う意味で胸がぞわっとした。


 大胆にも腕を絡めてくるからだ。


 ……とはいえ、こちとら何度もリアヌやマリアスにタックルされた身だ。ましてや年下相手に、必要以上にドギマギすることはない。


「あらっ……」


 俺はさっと彼女の腕を振り払った。


「いずれにせよ、機会があったら必ず話してもらうぞ。君の正体について」


「ふふ。わかりました。そのような機会・・があることを、私も切に願っております」


 なんと意味深な発言だ。

 だが――


「おーい、ミアに先生ー。なにコソコソしてるんだー?」


 先頭を歩くリュアが急かしてきたので、この場はいったんお開きとなった。




 そして数十分ほど歩いたときだった。


 俺たちは洞窟の《終点》に辿り着いた。

 もちろん、宝箱とかボスとかがいるわけでもない。

 ただ壁に突き当たるだけの、なんの変哲もない行き止まりだ。


 ――の、はずだったのだが。


「なんだこれは……」


 俺は思わず、突き当たりの前で立ち尽くしてしまった。


 壁に浮かび上がる、薄いもや

 人ひとりがすっぽり覆われてしまうほどの大きさがあり、なんとも不気味である。心なしか、ゴォォォオオ……という重低音さえも聞こえてきているような……


 おかしい。

 昔は何度もここまで来たが、こんなものはなかったはずだぞ?


 ――どうも、あの洞窟に見知らぬ人間が出入りしているという噂が立っておってな……――


 村長の言葉が思い出される。


 まさか、本当に《なにか》が起きているのか……?


「これは……」

 ミアも同じく、真剣きわまる表情だ。

「この気配……もしかすれば、《幽世かくりよの神域》に繋がっているかもしれません」


「なに……」


 マジかよ。

 ミアがなぜそこまでわかるんだという突っ込みはさておいて、どうしてエストル村に《幽世かくりよの神域》への通路があるというのだ。


「アシュリー先生。これはきっと、行ったほうがいいと思います。私と先生の目的も兼ねて」


「…………」


「な、なんだかわかりませんが、私もできることなら協力させてください。レインフォートの名にかけて……!」


 俺の知らないところで、勝手にやる気を出している生徒たちだった。


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