期待の生徒たち
エストル村の外れには、古くから小さな洞窟が存在する。
といって、資源や宝物が隠れているわけではない。
ゴブリンやオーク、ドラバット……
ごく弱い魔物がうろついているだけの、ただの洞穴だ。俺も昔は修業がてら挑みにいったが、そこまで苦労することなく最奥に辿り着いた。さして危険な場所ではない。
……のだが、ここは曲がりなりにも村の近郊。万が一の事故が起きては大変なので、普段は厳重に鍵を閉めてある。
魔術の込められた鍵なので、たとえオークであっても破壊することはできない。オーク以上の魔物が現れた場合はその限りではないが、まあ、まずもってそんなことはないだろう。
現に、洞窟内に漂っている気配はたいしたことない魔物ばかり。レクリエーションにはぴったりだろう。
「…………」
念のため鍵穴を確認してみるが、誰かに開けられた形跡はない。
村長はああ言っていたが、やはり気のせいの可能性が高いな。といって油断するつもりはないが。
ガチャ。
鍵を完全に開けきると、どこか懐かしい、湿った匂いが鼻孔を刺激した。帰ってきたのだという感慨が胸に沸いてくるが、しかし、いまはそれどころではない。
俺は背後を振り返ると、生徒たちへ努めて明るく言った。
「さて、ここが通称エストル洞窟だ。たいして強い魔物は出ないが、今回は二人の腕前を見せてほしい。いいか?」
「「はいっ!」」
二人の返事が重なった。
まずまずの気合いだ。
俺はしっかり頷くと、リュアとミアの後ろに回り込んだ。どのようにして洞窟を探索するのか、それも試験するつもりだからだ。
★
結論から言おう。
ミアもリュアも、かなりの有望株だった。
「やあああああああっ!!」
まず、リュア・レインフォート。
さすが剣聖の娘というだけあって、その剣捌きは見事なものだ。あちこちと動き回るのではなく、剛胆な一撃によってなにもかもを撃破する……そのような戦法を取っているらしい。
実際にも、彼女に斬られたゴブリンやオークはみな一撃で沈んでいっった。学生の時分にこの実力――将来が楽しみなことこの上ない。
さすがリングランド魔術学園。
世界最高峰の二つ名は伊達ではない。
ただひとつ、気になる点さえ除けば間違いなく達人級といえるだろう。
そして――
「ふふ……私に挑むなんて、百年早いですわよ」
興味深いという点では、ミアのほうが数倍上だった。
右手に握られた、謎の武器。
金属で作られた筒のような武器で、トリガーを引くことで《魔法の弾》を発射している。
その属性は多種多様で、俺が唯一使える炎のほか、水や氷、風、雷など……ありとあらゆる魔法を使いこなしている。そのおかげか、突発的に現れる魔物の弱点属性を的確に突くことができている。
――いや。そればかりではない。
ミアの《狙い》は恐ろしいまでに正確だった。魔物の弱点部位に必ずといっていいほど弾を当てている。これはそこいらの魔術師でもおいそれとできるものではない。
普段はふんわりしているミアだからこそ、獲物を狙うときのサディスティックな表情が、なんとも印象深い。
「ふふふ。私の前に現れるなんて……なんてお馬鹿さんたちなんでしょう。これはお仕置きが必要ですね?」
ドン! と。
ミアの武器から放たれた毒の弾が、ゴブリンの首に命中する。
「ぴ。ぴぎ……!」
「うふふ。縛られ、じわじわと体力を奪われていく愉悦……死ぬ前に、とくと味わうといいでしょう」
ミアが微笑んだその瞬間、ゴブリンは固まって動かなくなった。
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