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最強ランクを授かった凡人は、ムフフな生活を手に入れる?

「ふう……」


 俺は自身の腹をさすりながら、柔らかな背もたれに身を預ける。

 こんなに美味い飯を食ったのはいつぶりだろう。ファトル村の祭でもごちそうが並ぶが、それとはまた違った味付けだった。


「満足したかな。アシュリー君よ」


 ルラエンドが右足を椅子に乗せた姿勢で言う。大胆にも下着が見えてしまっているが、彼女は気にしないタイプなんだろう。俺の視線にさして反応するでもなく、爪楊枝をいじりながら言う。


「腹も膨れたところで、さっそく本題に入ろうかな。君にプレゼントがあるんだよ」


「プレゼント……?」


「うん。これさ」


 そう言ってルラエンドが差し出してきたのは――一枚のカード。


 これも妙に装飾がかっており、金色の煌めきがなんとも神々しい。銀の字で俺の名前と年齢、そして《魔神シュバルツ討伐者》と記されている。


「SSSランク専用のギルドカードさ。いわば身分証だね。君以外の者がカードを手にしたとしても、それは輝きを失ってしまう。ただの紙切れになってしまうわけだね」


「へぇ……」


 万全のセキュリティだな。

 まあ、SSSランクの絶大な影響力を考えると、当然の措置ともいえるか。


「それさえあれば、君は様々な特典を得ることができる。たとえば――リングランド王国にあるすべての飲食店、宿泊施設が無料で使える」


「え……っ!?」


 俺は大きく目を見開いた。

 さすがにそれはぶっ飛びすぎじゃないか?


「サービスが良すぎる……っていうか、さすがに店員に申し訳ないです……」


「はっは。君は優しいな。心配はいらんよ。君も思い知っていると思うが、SSSランクの冒険者は人気者さ。ファンクラブができてしまうほどにね」


「ファ、ファンクラブ……」


「うん。SSSランク冒険者が利用した店は、一時的にせよ継続的にせよ、人気が一気に跳ね上がる。君が来店するだけで、店は相当の恩恵に授かれるのさ。だから遠慮はいらん」


「な、なるほど」


 なんだかマジで有名人になってきた気分だな。


「それから、SSSランクは君が思っている以上に頼られる機会が増える。予期しないタイミングで緊急かつ重要な依頼が来ることもあるうだろう。そんなとき、万全な状態を作れないようでは仕方あるまい」


「そ、そうですね……」


 言われてみればそうか。

 それだけみんな期待してくれてるってことだよな。だったらちゃんと応えないといけないな。


 そこでふいに、ルラエンドが初めて暗い顔を見せる。


「……本当は私たちも、至急ルネガードに行くよう要請されてたんだよ。魔神シュバルツの出現を受けてな。だが……行くことができなかった。私たちSSSランク全員がな」


 ――なるほど。

 それには心当たりがあった。


「……世界各地に出現したナイトワームの対処。そして、ギルド反対派の鎮圧に追われていたわけですか」


「ほう……」

 俺の言葉に、ルラエンドは目を丸くする。

「よくわかったな。なぜ知っている?」


「いえ……なんとなくそう感じただけです」


「そうか……」


 ルラエンドは目を伏せる。


 きっとそれこそが、ルハネスやサヴィターの狙いだったのだろう。

 結果、魔神シュバルツが誕生し――その魂を、ルハネスたちが持ち帰ってしまった。


 すべては、世界を《殺戮と闘争》に染め上げるために。


 俺が黙りこくっていると、ルラエンドは改めてまじまじと頭を下げた。


「本当に申し訳なかった。SSSランクといえど、私たちはまだまだ未熟。結果、ルハネスを死なせてしまい……君にも多大な迷惑をかけてしまった」


「い、いやいやそんな。ルラエンドさんが謝ることはないですよ」


 彼女たちは彼女たちの使命を果たしてくれたはずだ。感謝しこそすれ、攻めることはありえない。


「それに……ルハネスさんはいま……」


「え?」


「いえ……なんでもないです」


 咄嗟のところで俺は口をつぐんだ。


 いくらSSSランクとはいえ、神々の争いを軽々しく話していいものではあるまい。リアヌも最近まで俺に過去のことを黙ってたもんな。


 ルラエンドは「ふう」と息をつくと、やっと頭を上げた。


「暗い空気にして悪かったね。――とにかく、そのギルドカードは君の宝物となるだろう。大事に使うといい」


「はい。ありがとうございます」


 俺は受け取ったカードに魔力を込める。するとカードはすっと姿を消し、どこにも見えなくなった。


 カードを使いたいときには同様に念じれば、どこからともなく現れるという寸法だ。これも盗難を防ぐためのセキュリティだという。


「ところで……ルラエンドさん。俺にしてほしい依頼というのは?」


「おっとそうだった。忘れるところだったよ」

 ルラエンドは表情を切り替えると、懐から一枚の紙を取り出した。あれが依頼書のようだな。

「こいつは特別依頼書……SランクやSSランクでさえ受けられない、特級の依頼だ」


「え……」


 マジか。

 さぞとんでもないんだろうな、それ。


「とはいえ、この依頼そのものに守秘義務が課せられているわけではない。そこまで肩肘を張る必要はないが――かなり重要な依頼だ」


「ご、ごくり」


「私としては、ぜひアシュリー君とこれを受けたいのだよ。先方もそれを望んでいるだろうからね」


「ど、どんな依頼ですか」


 ルラエンドは俺の目を見つめるや、にやりと笑う。




「――王都のリングランド魔術学園。そこの臨時教師になるんだよ」




 数秒間、俺は口をパクパクさせ。


 そして、

「えっ!?」

 とめちゃくちゃでかい声を発した。


「臨時教師!? 俺が先生になるってことですか?」


 しかもリングランド魔術学園って。

 国内に存在する学園のなかでも、トップクラスの優等生が集まる場所じゃないか。


 ちなみに《魔術学園》という名前ではあるが、剣や槍などの物理攻撃でも一流の教育を行っていると聞く。


 実際、王都の兵士も、リングランド魔術学園の出身者が多かったな。みんな俺より強かったし。


「ふふ、さすがに驚いたか。まあ無理もない」

 さすがのルラエンドも苦笑を浮かべている。

「とはいえ、名目は臨時教師だ。それほど多くの生徒を持つわけではない。だが――責任は重大だぞ」


 それは言われるまでもない。

 王都随一の学園で教鞭を取る……下手すれば国の将来を左右しかねない役職だ。


「で、でも、いいんですかね。俺には学なんてないですよ?」


「それは問題ない。私たちが受け持つのはあくまで戦闘分野と基本的な座学。専門分野の座学は担当しない」


「ふむ……」

 俺はしばらく黙考したあと、ふと気になったことを訊ねた。

「ちなみに依頼者は誰なんですか? やっぱり学園長?」


「いや……実は違う。なんと我が国のトップ2――ユージーン大臣だ」


「なに……」


 あのユージーン大臣が、SSSランク冒険者に臨時教師を依頼?

 どういうことだ。

 いったいなにを企んでいる。


「……ルラエンドさん。その依頼、俺にもやらせてください」


「ほう。即答か。すこしくらい悩むものと思っていたが」


「いえ……個人的に調べたいことができましてね」


「ほう……?」


 片方の眉をぴくりとさせるルラエンド。だがそれ以上は追求してこなかった。気を遣ってくれているんだろう。


 ――ユージーン大臣。


 商業都市ルネガードを壊滅させた人物のうちひとり。

 かねてより疑問だった。

 なぜ大臣が、邪神族などと手を組んでいるのか。


 そして、邪神族は次にどんな手を打ってくるのか……


 それを調べる意味でも、この依頼は打ってつけだろう。受けないわけにはいかない。


 もちろん、俺自身が狙われる可能性もあるので、気をつけないといけないけどな。


「よし、決まったか!」

 ルラエンドはにいっと快活な笑みを浮かべた。

「それでは早速、受付に行こう! ムフフで快適な学園ライフが待ってるぞ!!」

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