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凡人、女神に気に入られる。

「こ、これは……!」


 隠し部屋に入った俺は、思わずその場に立ち尽くしてしまった。


 嘘だろ。

 なんだよここは……!


「驚いたじゃろう?」

 先に進んでいた女神が、こちらを振り向いて言った。

「これこそが、長きにわたって邪神一族が隠し続けてきたとが。言うなれば幽世かくりよの部屋じゃ」


《儀式の間》と違い、この部屋はとんでもなく広い。照明がまったく存在しないため、奥行きが測りづらいのもあるかもしれないが――それ以上に、部屋に存在するモノに鳥肌を禁じえない。


 無慮百むりょひゃくもの屍が、乱雑に散らばっているのだ。


 人だった頃の面影はまったくない。すべて骸骨となった状態で、あちらこちらに転がっているのだ。しかもそこから腐臭が漂っているから、臭いったらない。


「嘘だろ……? 王城にこんな部屋があるってのか……?」


 俺は左腕で鼻を抑えながら声を発した。こうでもしないと気が触れてしまいそうだ。


「しかり。妾が転生術を好まん理由はここにもある。高度な術であるがゆえに、研究も難しく、失敗しやすいのじゃ」


「し、失敗って……まさか……」


「うむ。察したようじゃの」


 女神は小さく頷いた。あくまで冷静に見えるその表情だが、わずかながら激情に揺れているように感じられた。


「この屍たちは、間違って転生させられてしまった人々の成れの果てじゃ。妾がとがと言った理由がよくわかったじゃろう?」


「あ、ああ……」


 ――最初から、おかしいとは思ってたんだよな。

 なんで儀式なんかを警備する必要があるのか。

 周辺にも兵士が大勢いるわけだし、セキュリティは万全に整っているはず。なのに国の要職たちは、なぜか俺だけを儀式の警備に命じたわけだ。


「もし今回も儀式が失敗していたら……俺が転生者を殺していたかもしれないのか……?」


「うむ。能のない者が召喚されてしまったならば、国としてはわざわざ匿い、転生者を生かしておく理由もない。だから――」


 クズすぎて反吐が出る。

 この国はどこまで腐ってるんだ。


「じゃから妾は反対しておるんじゃ。こんな術で世界を救おうなどと馬鹿げておる、とな」


「そうだな……。俺もそう思うよ……」


 ここまで見せられてしまっては、さすがに女神の話を嘘だとは思えない。

 やばすぎだろ、これ。


「――ときにダーリンよ。なぜ魔神シュバルツが《魔神》と呼ばれておるか知ってるか?」


「え……」


 そういえばそうだ。


 魔王。それは魔物のトップに立つ存在。数何年おきに突発的に現れては、人間を苦しめていく悪魔のような存在。


 だがシュバルツに限っては、魔王ではなく魔神と呼ばれている。


 どっちも強いことに変わりないだろうし、いままでの俺はさして気にも留めていなかったが。

 ただなんとなく、魔王より魔神のほうが強そうだってのは感じるな。


「ふむ。やはり知らぬか。邪神一族めが……」

 女神は憤慨したように腕を組み、話を続ける。

「数百年前、転生者が《即死スキル》を用いて魔王を倒したのは知っておるな? それによって人類に平和が訪れたと」


「あ、ああ……。それくらいは知っている」


「あれは厳密には倒せたわけではない。《取り込まれた》というべきじゃな」


「え……」


「聞かせてやろう。これが当時の《音声》じゃ」


 女神がまた指を鳴らすと、低くくぐもった声が俺の耳に届いてきた。




 ――ツヨイナ、勇者ヨ。ソノスキル二ハ、サスガノ我デモ敵ワンヨ――

 ――ソウダ、我ヲ見逃シテクレレバ、世界ノ半分ヲ貴様ニヤロウ。イマヨリモット裕福二暮ラセルゾ。ドウダ?――




「ま、まさかその誘いを受けたのか……?」


「残念ながら、その通りじゃ」

 腕を組んだまま憮然と言う女神。

「もちろん、これは魔王の誘惑にすぎなかった。だが勇者は見事に騙された。精神的に未熟であるがゆえに、自分の欲に溺れてしまったわけじゃな」


「…………」


 あまりにも馬鹿馬鹿しい話だが、さりとてありえないことでもあるまい。

 俺の右腕を奪ったあの転生者なら、簡単に騙されそうじゃないか?


「待てよ……。魔神シュバルツは突発的に現れては人々を瞬殺していると聞くが――それってまさか……!」


「しかり。前代勇者の《即死スキル》そのまんまじゃな」


「なんだと……」


 さすがに驚いた。

 こんなところで繋がっていたとは。


「じゃあ、魔神シュバルツってのは前代魔王が勇者を取り込んだ姿で……進化して登場したってことか……?」


「そうじゃな。魔王と転生者が合わさることで、最悪の化け物が誕生したというわけじゃ」


「…………」


「それでも邪神一族はいまだに転生者に魔神を倒してもらおうと模索しておる。まったく、愚かな連中よ」


 だがな、と女神は話を続けた。


「おぬしは違う。転生者に力の差を見せつけられ、右腕を奪われてもなお、懸命に前を向いておる。だから気に入ったのじゃ。転生者でも誰でもない……おぬしこそ、魔神を倒すにふさわしき人間だとな」


「えっ!? 俺が!?」

 さすがに吃驚仰天びっくりぎょうてんした。

「んなこと言われても……俺は普通の人間だぞ? ステータスも平凡だし、特殊な能力もないし……」


 ましてや右腕もないしな。


「そうじゃな。おぬしはあくまで一般人じゃ。普通に鍛錬するだけでは一生かかっても転生者や魔神には敵わん。だが……女神たる妾が特訓すれば話は別じゃ」


「…………」


「なにより、妾は見てみたいのじゃ。元々は平凡でも、強くなりたい――その意志さえあれば、きっと転生者以上に強くなれるということを。転生などよりも、努力して手に入れたもののほうがよっぽど有意義であることを……な」


「…………」


「だ、駄目かのう? ダーリン」


 そう言って不安そうに上目遣いをしてくるものだから、俺はどぎまぎせざるをえなかった。





 

 

 



 

最初は「主人公なんだから特殊な能力くらいあったほうがいいかなぁ」とも思っていましたが、やっぱりやめました。

「調子乗ってチートしまくる転生者と、努力して成り上がる主人公」を書きたいので、主人公までチートを持ってたらあんまり面白くないというか。


なのでこうしました。

ぜひお付き合いしてくださればと思います。


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