SSSランク冒険者となった凡人、破格の待遇を受ける
SSSランクへの昇格手続きは、思いがけずあっさりと終わった。
それらしい書類にサインして、なんだか重々しい契約書を渡されて……
世界最強のランクだというのに、こんなにも拍子抜けするものだろうか。試験やら何やらあると思っていたが、俺は何枚かの書類に名前を書いただけだ。
しかしながら、ルラエンドのみならず、受付嬢までが「これで良い」と言う始末である。そこまで言われてしまうと、俺としてはぐうの音も出ない。
そして。
俺が最後の書類にサインを終えると、受付嬢がスマイルとともに言った。ちなみに王都では美人を多く採用しているのか、俺を応対している受付嬢も抜群に可愛い。
「はい。アシュリー・エフォート様、あなたはこれにてSSSランクとなりました」
「おおお……!」
周囲にどよめきが発生する。
なかにはマスコミ関係者の人間も混じっていたようで、忙しなくメモを取っている者までいる。
……ありえないくらいに尊敬されてるな、俺。
「言うまでもなく、SSSは世界に数人しかいない最強のランクです。その影響力は小国の国王に匹敵するほど。……まあ、アシュリー様には言うまでもないでしょうけどね」
そう。
それは知っている。
――だからこそ疑問なのだ。
下手をすれば、国そのものを揺るがしかねない絶大な影響力……
それを、こんな軽々しい手続きで手に入れてしまっていいのだろうか。
たしかに魔神を倒したという功績はある。尊敬される理由もわからないではない。
……でも、だからといってこの待遇は破格に過ぎる。
俺のそんな葛藤など知る由もなく、受付嬢は再び美しい笑顔を浮かべた。
「詳しいことは別室にてお話致します。ここでは話せないことが多くありますので……」
「そ、そうですか……」
まあ、世界最強ランクだからな。
巷間には知らしめることのできない情報も飛び交っているんだろう。
たぶん。
「お嬢さん。その説明役は私は請け負ってもいいか?」
と、ルラエンドがカウンターに肘をついた姿勢で問いかける。
その際、かなり際どく露出している胸がたぷんと揺れた。
ルラエンドの仕草は完全におっさんのそれだが、彼女がやるとどことなく様になっているな。
「ル、ルラエンド様みずからですか? いくらなんでも、それは恐れ多いというか……」
ルラエンドの提案に対し、受付嬢は当然の反応を示す。
「ふふ、いいんだよ。現役の冒険者にしか話せないこともあるだろう? それにいま、アシュリーと組みたい依頼もあるんだよ」
「は、はあ……ルラエンド様がそう仰るのなら……」
「よく言ってくれた! グッジョブ!」
そしてルラエンドはあからさまに受付嬢の全身を上から下まで見渡した。
「ふふ、君は可愛いし気立てもいいしスタイルもいいし最高だねぇ。お嫁にもらいたいくらいだよ」
「は、ははは……。ありがとうございます」
「ルラエンドさん、なに口説いてんんすか……」
俺の言葉に、ルラエンドははっとして目をぱちくりさせる。
「おっとすまない。つい欲望を丸出しにしてしまったようだな」
さしもの俺も突っ込みが追いつかない。
色々な意味で強烈な人だな。
「…………」
「さあ、ではいくぞアシュリー君! SSSランク専用のVIP部屋に案内しよう! はっはっはっは!」
俺や受付嬢がどん引きしていることなど露知らず、彼女はバンバン俺の背中を叩くと、奥の部屋に消えていった。
いや、ちょっと待て。
さすがに予想外だったぞ。
SSSランク専用のVIP部屋――豪華ってもんじゃない……!
天井に吊されたシャンデリア、壁面に掛かっているお高そうな絵画、踏むのさえ躊躇われる絨毯……
俺たちが来ることを見越していたのか、テーブルにはすでに食事が用意されている。それらの食器も銀に輝いていて、なんだか別世界に来たような感じだ。
「う、嘘だろこりゃ……」
「さすがにたまげたか。私も最初はそうだったよ」
ルラエンドが俺の反応を楽しがっている。だがこちとら、それに構っている余裕はない。いままで質素な暮らしをしていたのに、この変化っぷりが恐ろしいのだ。
「ま、ここの食事代は無料だ。気にせず食べるがいいさ」
「マジかよ……」
「ふふ、これでなんとなくわかっただろう? 国民みんなが期待しているのさ――我々SSSランク冒険者をね」
そう胸を張るルラエンドは、自身の存在そのものを誇っているかのような……そんな自身感に溢れていた。
俺とルラエンドは会話もそこそこに、一流シェフがつくったという絶品料理に下鼓を打つのだった。