表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/100

最強転生者の裏側

 ★


「それが……すべての始まりか……」


 商業都市ルネガード。

 魔神シュバルツが死亡し、ルハネスとサヴィターが去った後、リアヌ・サクラロードがぽつぽつと過去のことを語らい始めたのだ。


 そもそも、神とはなにか?

 女神族と邪神族の違いはなにか?


 いままで曖昧だった疑問が、なんとなく氷解した。

 そして女神族と邪神族が、ほぼ同等の勢力を持っていることも。


 その話を聞いている間、その場にいる誰もが黙りこくっていた。

 俺はもちろん、マリアスやアガルフも。

 神の起源なんて、それこそ普通に生きている人には知る由もないからな。


「……本来はここまで話すつもりはなかったのじゃがな。事ここに至り、そうも言っておれなくなった」


 リアヌはそう呟くと、改めて俺の頭を撫でてきた。

 俺はといえば、魔神との激闘で疲れ果てているので、女神様の膝枕を堪能中である。


「アシュリー、マリアス……。改めてお願いしたい。邪神どもの企みを……ともに止めてはくれまいか」


「…………」


 やはり、鳥肌を禁じ得ない。


 最初はアガルフに対抗するために修行してたのにな。

 話のスケールが一気にでかくなった。


 本来ならば、凡人たる俺が手を出せる領域ではないだろう。

 だが――


「サヴィターの企みは、闇の至宝を蘇らせて――《殺戮と闘争》を引き起こすことなんだよな」


「しかり。それによって人類を進化させようと考えておるわけじゃ。妾からすれば狂気の沙汰じゃが……」


「いや……俺もまったく同意だよ……」


 だって、そうだろ?

 あいつは再び、今回のような大騒動を起こすつもりなんだ。

 そんなもん、許せるわけがない。


「俺なんかが役に立つかわからないけど……やるよ。こんなの放っておけないさ」


「わ……私も! できることは少ないけど……」


 マリアスも賛成を示してくれた。


 そして―― 


「…………」


 いまだ気まずそうに黙りこくるのが、転生者、アガルフ・ディペール。


 リアヌが長話をしている最中も、なにも言わず、ずっと沈黙を保っていた。

 俺と目が合いかけると、慌てて視線をずらすのだ。


 その様子に気づいたのか、女神がふいに転生者に視線を送る。


「転生者アガルフ・ディペール。此度、お主は多くの犠牲者を出し、魔神復活を手伝ってしまった。――じゃが、思い出してほしい。本来、お主はそんな人間じゃったか?」


「え……」


 大きく目を見開くアガルフ。


「そうだな。それは俺も疑問だったよ」


 俺も続いて口を開いた。

 魔神との戦闘中、アガルフがぽろっと内面を吐露していたのをいまでも覚えている。


 前世において、彼も迫害に遭っていたことを。

 それによって、人の痛みに誰よりも敏感になっていたことを。


 なのに――転生直後、彼は俺の右腕を奪った。

 自分の過去を忘れ、自己承認欲求だけに取り憑かれてしまったかのように――


「…………」


 アガルフは数秒の間、天を仰いでいた。なにかに葛藤している様子だ。

 やがて……ぽつりと話し始める。


「……言い訳をするつもりはないが、転生する前、何者かが俺に語りかけてきたんだ。コロセ……コロセ……ウバエ、カチトレ……、ってな。そしたら、なんだか大きな快感に包まれて……」


 ふむ。

 なにかの偶然だろうか。

 地下水路で、キーア・シュバルツに語りかけていた《声》と似ている気がする。


「……つまり、お主も被害者のうちひとりというわけじゃ。サヴィターに闘争心を刺激され、人としてのあり方を消されてしまったのじゃよ」


「くっ……」


 そこで悔しそうに表情を歪めるアガルフ。残った左の拳をぎゅっと握りしめ、瞳には涙を溜めて。

 いままでため込んできたなにかを爆発させるかのように、滂沱ぼうだの涙を流し始めた。 


「アシュリー・エフォート……。お、俺は、なんてことを……!」


「アガルフ……」


「俺が……俺がもっと強ければ……こんなことには……! アシュリーが死ねと言うのなら、俺は……」


「もういい。いいんだ、アガルフ……」


 魔神シュバルツとの戦いにおいて、アガルフは身を挺してでも俺を守ってくれた。

 結果、彼の右腕は消滅した。

 これ以上――なんの罰があるだろうか。


 人格さえも消して、闘争心を呼び起こす……


 改めて、サヴィターのやろうとしていることがいかに危険が、わかった気がした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さて、早いところではすでに書籍発売しているようです! 書籍版は編集部の方と激論を交わして、さらに面白くなっています! また限定SSやカバーイラストのDLもつきますので、ぜひ買ってくださいますと嬉しいです! 私の作品を読んで、人生が変わるほど楽しんでいただけたら……これ以上のことはありません。 下記の表紙画像をクリックしていただけると作品紹介ページに飛べます。 よろしくお願い致します(ノシ 'ω')ノシ バンバン i000000 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ