表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/100

女神族と邪神族

 五百年前――



「そちらの様子はどうだ、リアヌ」

「ふむ。まずまずといったところじゃの」


 神域しんいきと呼ばれる場所で、二人の神が言葉を交わし合っていた。


 一方は可愛さを残した女性の神――リアヌ・サクラロード。

 流麗な金色の髪が特徴で、毛先があちこちに向いている。実年齢は億を超えているはずだが、外見だけで見れば十代後半に見える。


 もう一方は、彼女より幾分も身長の高い男性――サヴィター・バルレだ。


 灰色の髪を後方で束ね、紅色にぎらつく瞳がなんとも印象的である。

 世界を司る神々のなかで、二人はトップクラスの権力を誇っていた。戦闘面における実力はもちろん、知識面においても他の神々の上をいっているわけだ。


 神。

 それは人間界を監視・管理し、正しく・・・導いていく者たち。その知能や戦闘力は、人間のはるか上をいく。


 人間たちでは到底なしえない《神業》を、彼らは易々とやってみせる。


 その筆頭に立つのが、リアヌ・サクラロード、そして、サヴィター・バルレだった。


「やれやれ。今日も下界は平和か。退屈なことだ」


 眼下に広がる雲間を見下ろしながら、サヴィターがため息まじりに言う。


「たわけが。それほど貴重なものはあるまい。放っておけば、人間たちは負の感情――殺戮と闘争にとらわれてしまうからの」


「……それのなにが悪いというのだ」 

 呆れたように肩を竦めるサヴィター。

「闘争こそが進化を促し、人をより高次元の高みへと昇らせる。あなたの言う《平和》とは、ただの停滞ではないか?」


「だから違うと言っておろうに……おぬしとはとことん話が合わぬのう」


 ――そう。

 立場も実力もほぼ拮抗きっこうしている二人だが、両者には明確な違いがあった。


「ふん……あなたこそ、いつまで経っても私の話が理解できないとは」

「……妾には、何億年とかけても殺戮の偉大さはわからんよ」


 リアヌは秩序を。

 サヴィターは破壊による進化を。


 それぞれ、違う道を望んでいた。だからこそ、二人の哲学は絶望的なまでに噛み合わなかった。


「…………」


 サヴィターは片手を空に掲げると、灰色の球体を出現させた。

 なんの力も輝きもない、ただの灰色の球だ。


「……これさえ目覚めてくれれば、私の理想郷が作れるものを」


幽世かくりよの至宝……。おぬし、まだそんなものを……」


 そう。


 人間界を統治している神々だが、その神々をさらに統括する、リアヌたちでさえ適わない絶対的な存在がいた。


 その名も幽世神かくりよのかみ


 ここから遠く離れた次元にも別の《世界》が存在し、その世界にも別の神々が存在する。

 それら世界のすべてを統括する、まさに絶対的な存在だ。


 リアヌやサヴィターを始めとする神々も、幽世神かくりよのかみによって作られた。


 その幽世神が、気まぐれにひとつの至宝を世界に隠した。


 それこそが、幽世の至宝……

 人々の負の感情を思うままにコントロールし、殺戮と闘争を引き起こすとんでもない代物である。


 だが――その力は大昔よりすでに失われている。


 リアヌは腕を組むと、つまらなそうに至宝を見つめて言った。


「……だから言っておろう。もう闘争の必要はない。幽世神様かくりよのかみさまも、それを理由に至宝の力を封じたのじゃろうよ」


「ふん。私はそうは思わんがな。時がくれば、自ずと破壊の時代は訪れる」


「なに……?」


「リアヌ・サクラロード。あなたの命も――ここまでだ」


 パチン、と。

 サヴィターは不気味な微笑みを浮かべるや、気取った仕草で指を鳴らす。


 それが合図だったのだろう。

 彼の背後に、五十体もの神々が現れた。全員が緑色のローブをかぶり、サヴィターとやや似た服装をしている。


「な……サヴィター、おぬし……!」


 突然の展開に、リアヌは驚きを禁じ得ない。

 そのまま数歩後ずさり、サヴィターから距離を取る。


「クク……」

 彼女の様子を楽しむかのように、長身の神は片腕を突き出して言った。

「サクラロードよ。あなたとは考えが合わぬ。私の理想郷のために……死んでもらうぞ」


 そう。

 サヴィターは己の理想を実現化するために、陰で部下を募っていたのだ。むろん、構成員のすべてが神である。


「…………」


 リアヌは数秒間、悲しそうにうつむき。

 そして力強く、サヴィターを見据えた。


「……たわけ者が。この妾が、おぬしの企みに気づかぬとでも思ったか」


「なに……?」


 サヴィターが目を見開いた、その瞬間。

 リアヌの背後にも、同様に多くの神が出現した。


 その数、五十体。

 サヴィターの部下と同数だ。

 そして、この場に集ったのが、この世界における神々の総人数でもある。


 リアヌはなおも悲しげにうつむいて言った。


「……わかっておったよ。おぬしが秘密裏に、至宝の力を蘇らせんと動いていること。手始めに魔神シュバルツでも蘇らせるつもりかの?」


「ふん……腐っても神のトップ……。易々とは出し抜けぬか……」


 悔しそうに歯噛みするサヴィター。

 彼にしてみれば、この場でリアヌを始末するつもりだったから、まさに胸くそ悪い展開だった。


 そのまま、たっぷり数分間、両者は睨み合った。

 このまま総勢で戦えば、両者ともに甚大な被害が出る。

 そして言うまでもなく、下界にも多大なる悪影響を及ぼすだろう。


 それは二人にとっても好ましいことではなかった。


「……仕方あるまい。この場はお開きとしよう」

 舌打ちをかまし、サヴィターはくるりと身を翻す。

「だが、今後おまえたちとともに動くことはなかろう。今度会うときは――敵同士だ」


「ふん……。ぷりてぃーな妾が率いる一族は、さしずめ女神族といったところかの?」


 いつもの調子で軽口を叩くリアヌ。だがその表情はやはり悲しいままだった。


 そんな彼女に、サヴィターは苦笑いを浮かべて言った。


「ならば、私は邪神といったところか。……まあ、あながち間違ってはいまい」


 それが、神々に起こった決裂の始まりだった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さて、早いところではすでに書籍発売しているようです! 書籍版は編集部の方と激論を交わして、さらに面白くなっています! また限定SSやカバーイラストのDLもつきますので、ぜひ買ってくださいますと嬉しいです! 私の作品を読んで、人生が変わるほど楽しんでいただけたら……これ以上のことはありません。 下記の表紙画像をクリックしていただけると作品紹介ページに飛べます。 よろしくお願い致します(ノシ 'ω')ノシ バンバン i000000 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ