人間は神へ挑む
「いつつ……ははは……」
俺の怨敵にして恩人――アガルフ・ディペールは、右肩を押さえながら、苦しそうに笑う。
「こ、これが痛みか……すっかり忘れていたよ……」
「アガルフ……おまえ……」
俺はさすがに驚愕せずにいられない。
最初はなにかの夢かと思った。
死に対する恐怖のあまり、幻覚でも見ているのかと。
でも、これは紛れもない現実で。
だからこそ、到底信じられなくて。
「まあ……俺も転生する前は落ちこぼれだったってことさ。人の痛みはよくわかっていたはずなのにな……」
アガルフの傷口からは、見るも生々しい血液がポタポタと垂れている。
俺自身もそうだったからわかるが、まさに想像を絶する痛みのはずだ。
それでも奴が立てているのは――強靱な精神力のたまものか。
「…………」
黙りこくる俺に、アガルフは慣れないであろう左腕で剣を掴みながら言った。
「詳しい話は後だ。互いにボロボロだが……みんなで力を合わせりゃ、すこしは勝機があんだろ」
そう言って、アガルフが見据える先には。
最凶の神――魔神シュバルツ。
「くそがあああああぁぁぁああ!」
魔神は目を血走らせ、これ以上ないくらいの憤怒の炎をたぎらせ、鼓膜が破けんばかりの絶叫をあげた。
「揃いも揃って愚か者が! わざわざ命を捨てにきたか!」
「さあ、どうかな」
俺も人のことは言えない。
アガルフと同様、全身どこもかしこもボロボロだが、それでも負けじと笑い返してやった。
「おまえは千載一遇の機会を逃した。これ以上、好きにできると思うなよ……!」
「ほざけ人間ごときがァ!」
野太い声で叫びながら、魔神がすさまじい速度で突っ込んでくる。さすがは腐っても神、尋常じゃないスピードだ。
――瞬間。
『終焉魔法が六、セラフィック・ルクス・ゲート』
背後からリアヌの詠唱が響きわたるや否や、魔神の頭上に巨大な観音扉が出現した。まるで巨人用に作られたかのような、途方もない大きさの扉から、幾筋もの光が落下する。
耳をつんざく金切り音。
続いて地に響きわたる轟音。
同時にさまざまな種類の爆音が響きわたり、魔神を襲いかかる。
さすがは女神族のトップ。
魔法のスケールが段違いだ。
さっきは俺の攻撃をものともしていなかった魔神が、今度は明確な悲鳴をあげる。降り注ぐ光の筋に直撃している姿は、まるで踊っているかのよう。
――しかも。
《アガルフ・ディペールのスキル、『幸運』発動》
《アガルフ・ディペールのスキル、『幸運』発動》
《アガルフ・ディペールのスキル、『幸運』発動》
それらすべてに、アガルフの《幸運スキル》が適用されているらしい。
リアヌの魔法がすべてクリティカルヒット……想像するだけで痛い。
かつては忌々しかった《幸運スキル》だが、味方にするとやはりチートだな。
アガルフのチートスキルに、いまは感謝しよう。
「ダーリン! アガルフ! いまじゃ! とどめを!!」
リアヌがそう叫んだのと同時に、俺たちは瞬時に駆けだした。
この三百年間、俺はアガルフに負けないために懸命に修行した。
こいつの一挙手一投足に至るまで、すべてをイメージして脳に叩き込んだ。
だからこそ、俺たちの息はぴったりだった。
笑えるよな。
こんな奴と、相性抜群だなんてよ……!
「「ぬおおおおおおおおおっ!!」」
俺とアガルフの絶叫が重なった。
ほぼ同時に、俺たちの剣が魔神の胸部に突き刺さる。
そして、視界左上には、相変わらずのステータスメッセージ。
《アガルフ・ディペールのスキル、『幸運』発動》
《アガルフ・ディペールのスキル、『幸運』発動》
「く……がはっ……!」
さしもの魔神シュバルツも、この猛攻には堪えたらしい。
「おのれ忌々しい人間どもよ……! 覚えておけ……。私はこれしきでは倒れぬ……! 近い将来、さらなる恐怖が貴様らに降りかかること……身をもって覚えておくがよい……!」
その言葉を皮切りに。
――とうとう魔神シュバルツが倒れた。
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