転生者に、抗え①
どれほど、彼女の登場を待ち焦がれていただろうか。
俺の人生を変えた師匠にして、神の座に立つ最強の女性――
リアヌ・サクラロード。
「すまん……待たせたの……」
いつもは流麗に整えられている美しい金髪は、見たことないくらい激しく乱れていた。
さらに全身が傷だらけで、あろうことか呼吸も荒い。顔には無数の切り傷が残ってしまっている。
三百年にもわたる修行のなかで、彼女がこれほど乱れている姿を見たことがない。
「リアヌ……」
言われずともわかる。
邪神族の長、サヴィター・バルレと死闘を繰り広げていたのだろう。
「いいんだリアヌ、待ってたよ……」
思わず本音を漏らしてしまった。
かつてないほど切迫した状況で、彼女の登場は死ぬほど有り難かった。
「ふふ。ダーリンよ、いつの間に殊勝なことを言うようになったな」
「…………」
「おいおい、泣いておるのか? 可愛い奴め」
リアヌはそれこそ女神のような包容力で俺を胸のうちに抱きしめると、頬に手を添えてきた。
「とうとう神の域に達したか……。さぞ辛かったじゃろう。よく頑張った」
「リアヌ……。俺、駄目だった……。これまでにないくらい強くなったけど、ルハネスさんも、街のみんなも……」
「わかっとる。大丈夫じゃ。ルハネス殿はかけがえのないものをダーリンに託した。街の住民も全員が死んだわけではない。――みんなの死を、無駄にしてはならんぞ」
「あ、ああ……」
他にも、彼女と話したいことは山ほどあった。
サヴィターとの決着はどうなったのか。
俺のこの変化はなんなのか。
色々知りたいことはあったが、これ以上の無駄話はできない。
俺は改めて、絶叫をあげて悶絶している魔神シュバルツに目を向けた。
リアヌも同様、魔神シュバルツに視線を向ける。
「キーア・シュバルツ……。あやつの顕在意識がまだ残ってるならば、勝機はあるやもしれんな」
「キーア……最強の転生者ってやつか……」
「うむ。邪神族に使い捨てられた、幾千もの転生者の残留思念。それがキーアを取り込み、魔神となった。それが《魔神シュバルツ》の真相じゃ」
「…………」
そうか。
あの地下水路で、邪神族の隠し部屋にも似た雰囲気があったのはそのためか。
「くそ……ふざけやって……!」
燃えさからんばかりの怒りを胸に秘め、俺は右拳を強く握りしめた。
「行く先々で転生者、転生者……。いい加減にしやがれっての!」
アガルフといい、魔神シュバルツといい、転生者の強さは嫌というほど思い知らされた。
だが、そんなのはどうだっていい。
ここは俺たちの世界だ。
転生者たちが好きにしていい世界じゃない!
俺という凡人ごときじゃ適わないかもしれないけれど――できる限り、抗ってみせる。
「ふふ、いい目をするようになったの、ダーリンよ」
にやりと笑いながら、リアヌは懐から巨大な杖を取り出す。
「魔神は言わずもがな、ダーリンも神の域に達した者……。遠慮なく、妾も加勢させてもらおうぞ!」
「ああ。よろしく頼む……!」
これが、俺とリアヌの初めての共闘となった。
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