凡人と転生者
華やかなはずの商業都市ルネガードは、一転して地獄絵図に染まっていた。
多く立ち並んでいたはずの建造物は、無惨に倒壊され、見る影もない。地面には人々の遺体がそこかしこに転がっており、もはや大惨事の様相を呈していた。
「これは……ひどい……」
開口一番、マリアスがそう呟いた。真っ青な表情で口元に手を当て、数歩後ずさっている。
なかでも一番大きな被害を受けたのが――やはり冒険者ギルド。
戦士たちの集う場所を真っ先に叩き潰すことで、相手に反撃の隙を与えまいとしているのだろう。加えて冒険者ギルドの評判も落とすことができるし、ユージーン大臣としては一石二鳥。
悔しいがよくできあがっていると言わざるをえない。
実際にも、魔物たちと戦っている者はわずかしかいなかった。
魔物たちの奇襲を受け、相当な被害を負ったものと見られている。
「くっ……!」
ルハネスが悔しそうに歯噛みする。
「そうか……そういうことかよ……!」
「ど、どうしたんですか?」
「言ったろ。ギルドの評判が悪くなったせいで、俺たちSランクパーティーは、みんなその後始末に追われてるって……。いまギルドに残ってるのは、戦闘力的には弱ェ奴ばかりだ……」
「あ……」
言われてはっとする。
そうだ。確かにそうだった。
今朝、ギルド前には多くの活動家たちが陣を張っていた。そのせいで普段よりギルド内にいる冒険者が少なかったし、レベルの高い戦士もいなかった。
だから現在、まともに戦える冒険者はここにはいない……
あまりによくできた展開だ。
ユージーン大臣の手腕の高さが窺い知れる。
ギルドが機能していない以上、高ランクの魔物と戦える者はいない。わずかに残された冒険者たちが抵抗しているようだが、その力は正直覚束ない。魔物の数が圧倒的すぎるのだ。
そして。
「うおっっりゃゃゃゃああ!」
遠くのほうで、転生者アガルフ・ディペールが剛胆な一撃を振るう。それだけで強大な衝撃波が周囲に発生し、ナイトワームを吹き飛ばす。
ナイトワームはAランクに相当する強力な魔物。
にも関わらず、その一撃だけですべての魔物たちが絶命していった。
おそらく特殊スキル《幸運》により、クリティカルヒットが発生しているのだろう。やはりとんでもないいチートである。
そして――
「我が体内に滞留せし魔素たちよ……いまこのときを以て、汚れし者どもを撃墜せよ!」
もう一方の転生者――レイリー・カーンは、本来不要なはずの詠唱を唱え、大爆発を発生させている。
その気取った仕草といい、痛々しいことこの上ないが、魔法の威力は本物である。大量のナイトワームたちが火炎に包まれ、絶命していく。