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凡人は驚く

「あ……」


 俺は知らず知らずのうちに間抜けな声を発していた。


 深緑色の輝きとともに出現した、新たな人物。


 それは、この国に住まう者であれば誰もが知っているはずの大物だった。


 ユージーン・ルーファ。

 国王の右腕にして、政務において絶大なる権力を持つ男。


 国のトップが国王なら、行政部門におけるトップはこのユージーンだと言っても差し支えない。


 それほどの大物が、こんな辺境に姿を現した。瘴気しょうきのせいで強力な魔物が出現する可能性があるというのに…… 


「くっくっく。みな狐につままれたような顔をしておるな。ま、無理もないか」

 ユージーン大臣はでっぷり肥えた腹を揺らしながら笑う。

「ルハネス君とは一度会ったことがあったね。Sランク叙任式以来か」


「……そんな昔のことを。もったいなき光栄でございます」


 おとなしく頭を下げるルハネス。


 漆黒竜の一件について納得したわけではなかろうが、ここで事を荒立てるのは得策ではない。だからあえて低姿勢に徹しているのだろう。


 ユージーン大臣は、今度は不気味な表情を俺に向けた。


「……で、君がアシュリー君か。アガルフ殿から話は聞いてるよ。ここ最近、やたら強くなっているそうだね」


「……滅相もございません」


 ひとまず俺も低姿勢に徹する。


「どうだね? 私の権威を使って、また君を軍に戻してやってもいいぞ? 等級もくれてやろう」


「……はは。ご冗談を。おれ……私がそんなもの・・・・・に惹かれるとでも?」


「くっくっく。恐れを知らない若者だ。いいねぇ……」


 大臣は眼鏡の中央部分をくいっと持ち上げると、顔に深い皺を刻み込んで笑った。その邪悪なオーラには、体感で何百年と生きてきた俺とても寒気を禁じ得なかった。


「さて、君らが疑問に思っていることに単刀直入に答えよう。私が漆黒竜を生かしておく理由……それは、こいつの放つ瘴気にある」


「え……」


 さすがに予想外だった。思わず俺は目を見開く。


「魔神シュバルツは神出鬼没的に現れる……それは君らも知っているね。だが、それにはある程度の法則性がある。――つまり、殺戮と闘争が激化している場所だ」


「…………」


「だから魔神を呼び寄せるには闘争を起こす必要がある。だが……それにはひとつ邪魔な組織があってね。君たち――冒険者ギルドだよ」


「なに……?」


 怪訝そうに眉をひそめるルハネス。


「君たちはあまりにも外面そとづらが良すぎる。特にルハネス君、君はおおいに邪魔なんだよ。こちらが用意した仕込みすら容易にはねのけてしまう」


「仕込み……まさか……」


 その言葉に、俺の脳裏にある種の予感がひらめいた。


 ――このタイミングで漆黒竜が出現したこと。


 ここに大いなる違和感があった。


 いま現在、大臣の出身地は謎の奇病に犯されている。

 それを治すには漆黒竜の宝眼が必要なわけだが、転生者たちは能動的に漆黒竜を倒しにいったわけではない。

 タイミングよく現れた漆黒竜を、レイリーの転移術を用いて討伐しただけのこと。


 このタイミングの良さが、どうにも頭に引っかかっていた。


 裏で漆黒竜を出現させた者がいて、それを転生者が倒していく……。できあがったストーリーとしか思えない流れだったのだ。


「はは、アシュリー。あんたは気づいたようだな?」

 アガルフが不敵な笑みを浮かべる。

「つまり、俺たちが村人を助けなかったのは単なる怠惰じゃない。そういう思惑も込み込みだったってことさ」


「ふざけんなよ……なんの弁解にもなってない……!」


 むしろクズさが増しただろ、これは。


 冒険者ギルドを社会的に潰しつつ、闘争を引き起こすことで魔神シュバルツを呼び寄せるための礎とする……


 すべて仕組まれた流れだったということか。


「…………」

 俺は数秒黙りこくったあと、再び大臣に目を向ける。

「ユージーン大臣。じゃあ、さっきあなたが《瘴気が目的だ》と言ったのは……」


「ほう。やはり君は頭がいいね。――サヴィター、準備はどうかな?」

 

 大臣がなにもない空間に向けて呼びかける。




「――ちょうど、準備を終えたところです」




 と、どこからともなく聞き覚えのある声が反響した。

 同時に、やはり見覚えのある男が転移術によって姿を現す。


 邪神族の長――サヴィター。女神の長たるリアヌ・サクラロードとは対をなす存在。


 相も変わらず瞳に邪悪なオーラを称えながら、サヴィターはにやりと笑って言う。


「たったいま仕込みが完了しました。転移術を用いて、各地に漆黒竜の瘴気を拡散させたところです」


「え……」


 その言葉に、俺は思わず唖然とする。


 ――漆黒竜の瘴気を各地に拡散。


 それによってなにが引き起こされるか……ちょっと考えただけでもわかることだ。ナイトワームを筆頭とする強力な魔物たちが、あらゆる場所で出現することになる……


「サヴィターさん。僕の提案通り、瘴気の拡散はギルドを中心にしましたか?」


 レイリーがさらりととんでもないことを訊ねる。


「無論ですよ。これでギルドの社会的な抹殺に一歩近づくでしょう。あとはあなたがた転生者殿が魔物たちを蹴散らせば計画の第一段階は完了となる」


「ふふ……いいですねぇ。僕たちは英雄……ヒーローだ!」


 瞬間。


 どこかで大きな爆発音が鳴り響いた。

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