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凡人、真相に近づく

「ふう……」


 俺は一息つくと、剣を鞘に収めた。


 まだ予断は許されないが、とりあえず、近辺にいる魔物は全匹倒した。漆黒竜の瘴気しょうきはまだ放出されているし、根本的に解決できたわけではないが……


 とりあえず、いったん一息ついてもいいだろう。


「よくやったな。大活躍じゃねえか」


 ルハネスが肩を叩きながら褒めてきた。


「いやいや。俺はルハネスさんのサポートにまわっただけですし」


「それでもたいしたもんだよ。ナイトワームの猛毒はちぃと厄介だからな」


 まあ、それに関してはその通りだと思う。

 ナイトワームの猛毒は体力を大量に奪うが、それと同時に麻痺して身体が動かなくなってしまう。その毒に犯されてしまえば、いくらルハネスといえど無事では済まなかっただろう。


「おまえさんならすぐにSランクになれるんじゃねえか? 俺がマスターに打診してやるよ」


「そ、それはちょっと……。お気持ちだけ受け取っておきます」


 いきなりSはちょっと難易度が、ね。

 ギルドの規定的にも、ひとつずつしかランクが上がらないはずだし。


「あ、あんたたち! やったな!」

 そんなことを考えていると、さっきの先輩冒険者が明るい顔で走り寄ってきた。

「まさか本当に二人で全滅させちまうなんてな……。俺たちがあんなに苦戦した魔物たちを……」


「まあ、ルハネスさんがいましたからね」


「はは。それもあるだろうが、あんたの力もたいしたもんだったよ。まだ冒険者登録したばかりなんだっけ? 俺なんかすぐ抜かれるだろうな」


「はは……頑張ります」


 揃いも揃って褒められるとむず痒くなるな。俺なんて運よくリアヌに気にかけてもらっただけなのに。


「そんなことより、生存者はどうでしたか? その顔を見ると、いいことがあったようですが……」


 さっきは気づけなかったが、《一般人》の気配がわずかながら感じ取れる。


 俺の言葉を待っていたかのように、先輩冒険者はにんまりと笑って言った。


「ああ、無事見つかったよ! こっち来てくれないか!」


 先輩冒険者に招かれるように、俺とルハネスは村の方向へと歩き出した。





 ファトル村。

 漆黒竜に食い荒らされてしまったことで、村の面影はほとんどない。


 あちこちで倒壊している建物や、無惨に折れてしまった大木。それらが漆黒竜の獰猛な暴れっぷりを如実に示している。


 そんななかにおいて、ひとりだけ見つかったようだ。

 生存者が。

 もともと足を骨折していたことから、逃げ遅れてしまったらしい。崩壊した建物の陰に隠れるようにして、漆黒竜の目からなんとか逃れたのだという。


「…………」


 骨折した右足を庇うように、生存者は瓦礫の上に座っていた。見た感じだと、まだ十代後半くらいの女性のようだ。


 発見当初は気絶しかかっていたようだが、冒険者のなかに回復魔法を使える者がいて、なんとか意識を取り戻したらしい。その後しばらく泣いてしまったものの、現在はいったん落ち着いたようだ。瓦礫の上で静かにただずんでいる。


 ルハネスはきょろきょろ周囲を見渡すと、先輩冒険者に問いかけた。


「生存者は……彼女だけか?」


「……ええ。他の場所も探しましたが、残念ながら、冒険者らしき遺体がひとつあっただけで……」 


「ふむ。そうか……」

 深刻そうに頷くルハネスに対し、生存者はかすれる声で言った。

「心配は……いりません。他の村人はみんな、冒険者の方々が避難させてくれましたから……」


「なに……?」


 かっと目を見開くルハネス。

 俺とても衝撃を禁じえなかった。


 一部の知らせによれば、突如現れた漆黒竜に対し、冒険者たちは我先にと逃げ出したのだという。そのせいでファトル村は壊滅に追い込まれ、いま現在においても、冒険者ギルドは世間に叩かれ続けている。


 だが――この生存者はいま、その報道をばっさり否定したのだ。気にならないわけがない。


 俺は生存者の目線まで視線を落とすと、できる限り優しい声音で言った。


「昨日の今日で申し訳ないんだけど……その話、詳しく聞かせてもらえないかな。俺たちにもちょっと事情があって……」 


「事情……? はい。私は別に構いませんが……」


 そうして生存者は、記憶を辿るようにぽつぽつと話し始めた。


「ここは私もあまり覚えていませんが……いきなり漆黒竜が現れて、私たちの村は大騒ぎになりました。村にも腕利きの男性はいましたが、まったく勝負にならず……。そんなとき、通りがかりの冒険者たちが漆黒竜に立ち向かっていってくれたのです」


「え……。立ち向かった……のか?」


 この時点で報道とは異なっているが、生存者は「はい」としっかりと頷いた。


「でも漆黒竜は強すぎました。冒険者さんたち数人がかりでもまったく歯が立たず……。そんなとき、冒険者さんのリーダーが《撤退》と《避難誘導》の指示を出しました」


 なるほど。 


 勝てる見込みのない相手に対し、闇雲に戦い続けるのは懸命な判断ではない。それで死んでしまったら元も子もないし、今回は村人までもが近くにいるのだ。ここは一旦引いて、村人を安全な場所に誘導するのが得策といえるだろう。 


「それでも……村人をみんな避難させるのは至難の技でした。――私がいたからです」


「え……」


「漆黒竜はただでさえめちゃくちゃ強かったです。みんなを避難させるには、そんな漆黒竜の注意を常に引きつけなければなりません。でも、私はみんなと一緒に走れない……。足が……動かないから……」  


 ここで生存者の声が明らかに震えだした。自身の両肩を抱き、うつむきながら続けた。


「だから私は言ったんです。私を置いて、みんなだけで逃げてほしいって。私のために、みんなも巻き込まれるなんて馬鹿げています。そこで、冒険者パーティーのリーダーが、ひとつの指示を出したのです」



 ――では、私だけ残って君を助けてみせる。レイとカナンは、村人たちを絶対に安全な場所に誘導するように――


 ――え、でもそれじゃリーダーが……!――


 ――ふふ、案ずることはない。命を賭してでも人々を守る。それが我々の使命だろう……?――



 俺ははっとした。


 冷たい衝撃が、頭の天辺からつま先までを駆けていく。


 ――まさか、さっき見つかったという冒険者の遺体って……


「その後、異様に強い二人組が現れました。彼らは漆黒竜よりも強くて、有利に戦いを進めていましたが……村人たちを守ってはくれませんでした。冒険者さんたちが必死に守ってくれなければ、いまごろきっと……」

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