凡人無双1
ルハネスの考えていることを、俺は手に取るようにわかっていた。
前々回の修行によって俺はたしかに強くなったが、あれだけの魔物と対するには実力が足りない……そう言いたいんだろう。
それはたしかにその通りだ。
前々回の修行ではゴブリンやオークなど、難度の低い魔物しか相手にしていない。Aランク冒険者ですら手こずるような魔物を何体も相手にするとなると、たしかにルハネスの足を引っ張ってしまいかねない。
だが――
俺は意識を集中し、全身に流れる魔力に全神経を向けた。身体がじんじんと熱くなるのを感じ取りながら、すべての魔力を左腕に持って行く。心なしか、身体の芯から温まってくるのを俺は感じた。
「な……ア、アシュリー、それは……!」
さすがはSランク冒険者だけあって、ルハネスは俺の様子にいち早く気づいたらしい。見開いた目で俺を見つめる。
「ま、魔力の胎動……おまえまさか、魔法まで使えるのか……?」
「ええ……。一応は」
「馬鹿な……昨日の打ち合いじゃ手を抜いてたってことかよ……!」
そういうわけではないのだが、《幽世の神域》のことを説明するわけにはいかないからな。ルハネスの問いには答えず、俺はひたすら魔力の制御に徹する。
そして――
「はっ!」
満を持して、俺は左腕に溜まった魔力を解き放った。
ファイア・エクスプロージョン。
昨晩ゴブリンの群れに向けて使用した、中級の炎魔法である。
果たして、俺の魔法は遠方にいたナイトワーム群に命中した。別名《死虫》とも呼ばれる巨大な虫型の魔物で、炎属性にはめっきり弱かったと記憶している。俺があいつらに魔法を放ったのはそのためだ。
「「ギュアアアアアアアッツ!」」
しかしながら、さすがは上級の魔物たち。苦手属性を突いてもなお、討伐には至らなかった。立ち上る黒煙のなかで、耳障りな叫び声を発している。いきなり大ダメージを喰らったことで、怒り状態にあるようだ。
先輩冒険者が、爆発の跡地を眺めながら放心気味に呟いた。
「あ、あれは、ファイア・エクスプロージョン……。き、君、本職は剣士じゃないのかい?」
「そうですね。だからまだまだ未熟で……あいつらを一撃で倒すこともできませんでした」
女神たるリアヌに《見本》と称して魔法を披露してもらったのだが、それはもう、とんでもない威力だった。国どころか大陸が消し飛んでもおかしくない力である。リアヌは低身長ではないはずだが、さすがは神というだけあって、俺たち一般人の常識は通用しないようだった。
俺はふうと息をつくと、先輩冒険者に向けて言った。
「あいつらくらい、俺ひとりで倒してきます。ルハネスさんの手を煩わせるわけにはいきませんからね」
「え、ちょっと! ナイトワームは気をつけないと、下手したら死……!」
先輩の言葉を最後まで待たず、俺は転移術を発動する。ナイトワームがダメージに怯んでいる現在がチャンスだったからだ。
俺は瞬時にナイトワーム群の背後に転移すると、左腕で剣を引き抜いた。
――皇神一刀流、神々百閃。
神速のごとき百の剣撃を、ナイトワームに向けて放っていく。今回の修行では主に魔法に重点を置いていたが、剣の鍛錬も怠っていない。かつて転生者にやったよりも速く重い攻撃を、俺はナイトワームどもに差し向けた。
怒号、そして悲鳴。
ナイトワームは本来恐るべき相手だが、二度にわたる奇襲によって、なすすべもなく倒れていった。反撃を差し挟む余裕もなく、一匹、もう一匹と死んでいく。消えていく……
そして俺が剣を鞘に戻したときには、すべてのナイトワームが動かなくなっていた。
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