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凡人は前に出る

 ――戦地跡の復興。

 それが、ルハネスの提示した依頼だった。


 漆黒竜による被害は相当なもので、近隣の村はほぼ壊滅状態に陥っているという。 

 多くの村人も現在行方不明となっているらしい。


 また、漆黒竜が現れた影響か、強力な魔物も出没しているとのことだ。そのためか、依頼の受注には《Bランク以上であること》が条件になっている。


 その依頼が書かれた用紙を見つめながら、俺は

「なるほど」

 と呟いた。

「昨日なにが起こっていたのか……それを確かめつつ、依頼をこなすんですね」


「おう。わかってんじゃねえか」

 ルハネスはにこりと快活な笑みを浮かべると、受付カウンターに向けて足を向けた。

「おまえさんさえ良けりゃこの依頼を受けるが。構わないか?」 


「はい。……というより、俺が断れるわけないでしょう?」


「はは、そうかい。じゃ、行ってくんぜ」


 そうしてカウンターに向かっていくルハネスだった。





 目的地へは馬車で向かうこととなった。

 転移術を使うことも考えたが、この魔法は転移先の《イメージ》がなければ使用できない。今回の場所は俺が訪れたことのない地域だったため、残念ながら馬車を選ぶこととなった。


 ……まあ、「これくらい気にすんな」と言ってルハネスが馬車代を出してくれたので、懐は痛まずに済んだのだが。


 そうして、馬車に揺られること一時間。

 目的地へ到着した俺たちを、またしても信じがたい光景が出迎えた。





 ――ファトル村近郊。

 それが、今回俺たちが出向いた場所だ。


 エストル村と同じく小さな村だと聞いたことがある。漆黒竜に襲われた影響か、そこかしこの建造物が倒壊しているが、自然の豊かな村だったんだろう。人口もたぶんエストル村と同じくらいだと推察される。


 そんなファトル村は現在、冒険者と魔物とが戦い合う激戦区と化していた。


「おいおい……なんだよこりゃ……」


 隣のルハネスも目を丸くしたまま立ち尽くしていた。


 それもそのはず、村の復興などまるでできる状況ではないのだ。あちこちから無尽蔵に出没する魔物に対し、冒険者たちが決死の戦いを繰り広げている。どの魔物もスカルナイトやナイトワームなど、一癖ひとくせ二癖ふたくせもある連中ばかり。これでは追い払うだけでもしんどそうだ。


 なぜ、これほど大勢の魔物が詰めてきているのか。

 原因はひとつしか考えられない。


 ――漆黒竜の遺体だ。


 こいつの放つ瘴気しょうきが魔物を呼び寄せ、この場所を戦場へと染め上げている。実際にも漆黒竜の遺体からは、見るも禍々しいドス黒い霊気が立ち上っている。死してなおも天災を引き起こす、まさにチート級の魔物だ。


「ちっ……仕方ねえな……!」


 ルハネスもその瘴気に気づいたようで、おもむろに剣の柄を握った。遺体をまるごと切り捨てるつもりのようだ。


「あっ……! ル、ルハネスさん、ちょっと待ってください!」

 そんな彼を、近くで休んでいた冒険者が呼び止める。

それ・・は破壊しちゃ駄目です! 上から命令がきてるんですよ!」


「なんだと……?」


「国王様の右腕――ネスロット大臣からのご命令です! 遺体は大事に取っておけ……と」


「ば、馬鹿な……! そんなこと言ってられる状況じゃねえだろうがよ!」 


 柄を握った腕を震わせながら、ルハネスは悔しそうに歯噛みする。 


 俺とても、ルハネスとまったく同じ感情を抱いていた。

 すぐ近くには、漆黒竜によって壊滅させられてしまったファトル村がある。もしかすれば、かろうじて生き残っている村人もいるかもしれない。だから一刻も早く救助に向かうべきなのに……


「このまま戦っても埒が明かねえだろ。俺が王都まで出向いて直接――」


「ええ。僕もそう考えて、仲間を王都まで向かわせたんですが……」


 そこで力なく首を横に振る冒険者。

 いてもたってもいられず、俺はその冒険者に訊ねた。 


「も……もしかして、それでも遺体をとっておけって言われたんですか?」


「うん、そうみたいだね……。理由までは教えてくれなかったようだけど……」


「…………」


 とんだクソったれだな。どんな目的があるのか知らないが、助けられるかもしれない命を放っておくとは。


 むろん、大臣の命令を無視して遺体を始末するという手もある。だが《冒険者》という職業そのものが苦境に立たされている現在において、下手なことをするわけにはいかない。最悪の場合、すべての冒険者が職を失うことにもなりかねない。


 それがわかっているから、ルハネスも先輩冒険者も手をこまねいているんだろう。


 なんだろう。さっきまで感じていた《とてつもなく大きななにか》が現実味を帯びてきたように思える……


「仕方ねえ、か……」

 ルハネスは諦めたように目を閉じると、今度は魔物の群に目を向けた。

「……だったら、俺がこの魔物どもを蹴散らす。アシュリーたちは生き残ってる村人たちを探してくれ」


「え……そ、それは……」


 先輩冒険者が当惑の声をあげる。なにかを言いかけていたが、ごくりと唾を飲み込むに留めていた。


 そう。

 ここにいるのはB、Aランクの冒険者ですら手こずるような魔物ばかり。いくらルハネスが《人外》の強さを誇っているとはいっても、たったひとりで相手にするのは無理がある。そう言いたいんだろう。


 だが、さりとて他に方法はない。こうしている間にも、助けられるかもしれない命が危機に瀕しているのだ。


 ルハネスは自身を危険に晒してまでも村人を助けるつもりなんだろう。まさに冒険者の鏡だ。


 だが――


「ルハネスさん。俺も協力します。二人で魔物どもを蹴散らしましょう」


「な、なに……?」


 ルハネスがかっと目を見開いた。


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