凡人、好意を寄せられる。
その言葉を待ってたって……
やっぱり、そういうことかよ。
「リアヌ、おまえ……」
「ふっふっふ。そういうことじゃ」
ジト目で睨む俺に、リアヌは誇らしげにウインクする。
「マリアス。おぬしのその《おとめちっくな心》はきっと今後に役立つ。なればこそ、妾とともに来てくれまいか」
「わ、私が……女神様の修行を……?」
「うむ。ただし特訓の内容は超ハードじゃぞ。ダーリンなんか思いっきり妾の胸にダイブしてきたからな」
「え、そうなの?」
「ちげーよ!」
どさくさに紛れてとんでもないことを言うもんだ。そんなことするわけないだろ。
……でも、リアヌの胸か。
この女神、スタイルはめっちゃいいからな。まったく考えないこともない……って、いかんいかん。三百年近くの修行を経ても、ムッツリスケベは変わらないな。
「む、むー……」
俺のそんな様子を見て、マリアスがなぜか頬を膨らませる。
「そういえばずっと気になってたんですけど……アシュリーとリアヌさんは、本当に師弟関係ってだけですか? どうもそれだけじゃないような……」
「フッフッフ。よくぞ気づいたな。妾とダーリンは一生を誓う仲で……」
「おい! おまえはそれ以上喋るな!」
「むむむ……! 一生を誓う仲……」
歯ぎしりをするマリアスに、俺もちょっと疲れながら突っ込みを入れる。
「だから、おまえも信じるなって……!」
「だってリアヌさん、アシュリーのことをずっと《ダーリン》って……」
「ふっふ。ダーリンはダーリンじゃからな♪」
「も、もういい……」
放っておいたらとんでもないことを言い出すんだから手に負えない。これが一対一だったらまだしも、いまはマリアスまでいるもんな。厄介レベルがさらに増したというか……
「アシュリーを取られたくなくば、這ってでも修行するんじゃな。弱い者は足手まといになる――そのことがよくわかったじゃろうて」
「そうですね……。私、頑張る……!」
もうどうにでもなれ……
俺はひとりため息をつくのだった。
――一方その頃、邪神族たちが新たな動きを見せていることも知らずに……
★
「グオオオオオオオッ!」
漆黒竜の咆哮が甲高く響きわたる。たったそれだけで周囲に衝撃波が発生し、近隣の建物は崩壊、住民たちも次々と倒れていく。かなりの殺傷力を誇る衝撃波で、それをまともに受けた住民たちもただでは済まないはずだが、漆黒竜と対峙する二人は彼らを歯牙にもかけなかった。
すなわち。
第一の転生者、アガルフ・ディペール。
そして第二の転生者、レイリー・カーン。
二人の興味は弱者にはない。住民の生死など、彼らにとっては些事でしかなかった。
「ひぇえ……た、助けてくれ……うわぁぁぁぁあっ!」
「パ、パパぁ!」
「怖い! 怖いよッ!」
衝撃波によって動けなくなった住民らの頭上から、倒壊した建造物が勢いよく落下した。ドシンという轟音が鳴り響いた後は、もうなんの悲鳴も聞こえない。
その様子を鼻をほじって眺めながら、アガルフは再び漆黒竜を見据える。
「ってか、あいつ思ったより手応えあるな。俺とおまえ二人がかりで、ここまで持ちこたえるたぁよ」
「ふふ。そうですねぇ」
転生者レイリーは黒縁眼鏡の中央部をくいっと持ち上げると、にやりと笑った。
「それでも、僕たち二人が結成すれば取るに足らない相手です。最強剣士に最強魔術師……その二人がパーティを組んでいるんですからね」
「ハッ、違いねーな」
アガルフは自身より低いところにあるレイリーの顔を見下ろすと、嫌らしい笑みを浮かべる。
「とっとと倒して《漆黒の宝眼》ってのをいただこうぜ。そうすりゃ俺たちはまたしても英雄だ」
漆黒の宝眼。
それは万病に効くとされる奇跡の薬。
現在とある街で原因不明の奇病が流行っているらしく、それを治すには漆黒竜の眼がいいらしいのだ。だが漆黒竜は《現地人》には相当厄介な存在で、誰も手を出すことができない。そのためアガルフたちが出向いたわけだ。
なんでも、その街出身の重鎮がいるのだとか。だから国王直々に、アガルフたちに漆黒竜討伐を頼んできたのだ。
「頑張りましょうアガルフさん。漆黒竜を倒すことができれば、僕たちはまた英雄になれる。ミレーユちゃんもきっと惚れてきますよ」
「ふふふ……そうだな。頑張るか! この国のために!」
「う、うわあああああああっ!」
「ゆ、勇者様! どうか、どうか我らにもご慈悲を……うわあああああああっ!」
またしても近くで住民たちが落下物に巻き込まれるのを遠目で見やりながら、アガルフたちは漆黒竜に攻撃を仕向けていった。
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