マリアスの事情
「え……」
しばらくの間、俺はぽかんと放心することしかできなかった。
ルハネスとパーティーを組む? 人外と言われるSランク冒険者と?
いや、たしかに魅力的な誘いではある。
Sランク級ともなれば顔が広いだろうし、魔神シュバルツの居所を探るのも楽になる。転生者や邪神族が突如現れたときも、大きな力になってくれるかもしれない。
しかし。
それにはひとつだけ、大きな問題があった。
「大丈夫なんですか……? 俺なんかがパーティーに加わっても、足手まといにしかならないんじゃ……」
しかしその懸念は、ルハネスによって笑い飛ばされた。
「なに言ってやがる。おまえさんはもうBランク相当の実力はあるぜ? それくらいの腕前がありゃ、よっぽど難儀な魔物でない限り問題ねえよ」
「そ、そういうもんですか」
まあ、ついていけなかったら改めて幽世の神域で稽古をつけてもらえばいい。拒否する理由はなかろう。
「そういうわけだ。嬢ちゃん、早速アシュリーを俺たちのパーティーに加入させてくれ。いいよな?」
「うお……!」
「マ、マジか……!?」
「いきなりSランクのパーティーかよ……!」
周囲がまたしてもざわついた。
「わ、わかりました。ルハネスさんがそう仰るなら……」
受付嬢はそう言うと、今度は俺に目を向けた。
「ただ――アシュリーさんのランクは、規定通りEランクから始まります。これはさすがに覆りませんが……大丈夫でしょうか?」
「ええ……問題ありません」
そこまではわがままというものだろう。ランクの高いメンバーさえいれば、高ランクの依頼も受けられるようだしな。
「よし、アシュリーはこれで決定として……。あんたはどうすんだ、銀髪の」
「え……」
ふいにルハネスに呼ばれ、マリアスはきょとんとする。
「わ、私は、その……アシュリーについてきただけで……」
「ふーん。ってことは、そうか。アレか?」
そう言ってニヤニヤ笑いながら小指を立てる。俺には意味がわからなかったが、マリアスにはなにかが通じたようで、
「え!?」
と顔を赤くした。
「それはその、なんというか、その……」
「あっはっは。なんでもねえよ。アシュリー、おまえさんもなかなかやるねえ」
「な、なんの話だ……」
ひとりため息をつく俺。
「悪い悪い。話を戻すぜ」
ルハネスは悪びれもなくそう言うと、再びマリアスを見据えた。
「あんたらにどんな事情があるのか知らねえが……アシュリーが俺たちのパーティーに入るなら、今後、強い魔物とどんどん戦うことになる。それはわかるよな?」
「…………あ」
「銀髪の、そのままついてくるのはやめたほうがいいぜ? 下手したら命を落とす」
「…………」
「まあ、そのへんも含めてよく話しあってくれや。見た感じ、あんたにも後には引けない事情があんだろうよ?」
「はい……」
こくりと頷くマリアスだった。
★
俺とルハネスはいったん別れることにした。
俺も武器防具を新調する必要があるし、マリアスの今後を話す必要もある。そのへんの調整をする意味で、ルハネスが席を外してくれたのだ。
期限は明日の夕方。それまでにギルド支部に行くこととなった。
話し合いの結果によっては、俺がパーティーに加入しないことも致し方ない――とルハネスは言っていた。マリアスに気を遣ってくれたのだろう。
込み入った話になりそうなので、俺たちは早めに宿を取ることにした。