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凡人、追っ手を撒く

「可愛いー♪ いい子いい子」


「にゃ……にゃにゃにゃ!?」


 マリアスが子猫を撫で始めた途端――リアヌが奇声を発した。かと思えば、ぐったりした瞳でマリアスの腕に収まっている。


「ご、ごろごろごろ……」


 な、なんかすげえ気持ち良さそうだな。

 目が完全に逝っている。


 思えばマリアスは昔から動物が好きだったからな。犬や猫はもちろんのこと、普通の女の子では近寄りがたい生物だって《可愛い》と言って抱いていたもんだ。


 そんなマリアスを、

「うちでは飼えません!」

 と両親が突き放すのが日常的に起きていた。


「わ、妾としたことが……人間の愛撫などにっ……!」


「へ? なにいまの声」


「あっ……! にゃんにゃーん」


 いまさら猫の真似したって遅いだろ……!

 と突っ込むわけにもいかず。


 口笛を吹いてごまかそうとする俺に対し、マリアスが首を傾げて言った。


「ねえアシュリー。いま、女の人の声聞こえなかった?」


「さ、さあな。気のせいじゃないか?」


「そっか。気のせいね」


 ……マリアスが天然で助かった。


「でも、ほんと可愛いわねこの子。名前はなんていうの?」


「そ、そうだな。一応リアヌって呼んでるが」


「リアヌちゃんね。これからもよろしく♪」

 そして再びマリアスに背中を撫でられ、

「にゃんにゃーん!」

 リアヌは見果てぬ世界に飛んでいくのだった。


  ★



 さて。

 それから数十分ほどして、俺たちは目的の街に辿り着いた。


 商業都市ルガネート。

 エストル村のようなほのぼの・・・・とした雰囲気とは打って変わり、こちらは多くの人々が行き交う商業都市となる。


 街のあちこちには大小さまざまな建造物が立ち並び、店主と思わしき人物が大声でセールストークを繰り広げている。


 狭くて通りにくい道があちこちに通っており、何度も訪問しているはずの俺でさえ、どこになにがあるのかわからない。


 そうだな。猥雑という言葉がぴたり当てはまるだろう。


「相変わらずすごい人通りね……」


 子猫を抱えながら、マリアスがため息混じりに言う。


「そうだな。おまえは昔から人混みが苦手だったか。……なんならこのまま帰ってもいいぞ」


「か、帰らないですから! アシュリーのばーか」


 器用にも片手であっかんべーをしてくるマリアス。


「ご、ごろごろごろ……」


 もう一方の腕のなかでは、リアヌが依然気持ちよさそうに眠っていた。


「さて……冒険者ギルドは……っと」


 呟きながら周囲を見渡す。たしか入り口から近い位置にあったはずだ。


 ――が。


「…………」


 俺は思わず目を細めた。


 このよこしまな気配。

 何人かの視線を感じる。

 転生者や邪神族ではなさそうだ。それよりもよほど下等な、己の欲望しか考えてなさそうな気配……


 ――しばらく来ないうちに、ここもずいぶん汚れちまったもんだな。


「アシュリー? どうしたの?」


「いや……」


 マリアスは気づいていないようだが、幾人もの男たちが、彼女に扇情的な視線を寄せている。そして次に、彼女の《連れ》たる俺を確認しているようだ。俺の欠損した右腕を見た瞬間、その邪な気配はさらに増大している。


 まったく、ふざけてるよな。

 せっかく転生者たちを追い出したと思ったら、次はこれかよ。


「マリアス。ちょっといいか」


「へ……?」


 目を丸くするマリアスの手を問答無用で握る。


「え……。ど、どうしたの急に……」


 なぜだか顔を赤らめるが、いまはそんなこと気にしている場合ではない。


「あまり大声を出すなよ。悪いがそのままついてきてくれ」


「う、うん……」


 連中もさすがに《冒険者ギルド支部》に入れば手を出せなくなるだろう。


 ――冒険者。

 一般人からの様々な依頼をこなしていく職業だが、多くの者は正義感と強さを兼ね備えている。そこまで撒けば問題あるまい。


「…………!」


 俺が歩くスピードを速めた途端、気配たち・・・・が焦るのを感じた。

 それでも構わず進み続ける。


 絶妙に通行人を避けながら、可能な限りの速度を出す。


 これはリアヌの修行の応用だな。

 それぞれのタイミングで襲いかかってくる魔物どもの動きを見極めて、適切に攻撃・回避・防御をする。あの修行がこんなところでも活きてくるとはな。


「う、嘘だろ……!?」

「なんてスピード……!?」


 追っ手の声が聞こえた――ような気がした。


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