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凡人、女神にすりすりされる

「ふう……」


 俺は剣を鞘におさめ、一帯に転がる兵士たちを見渡した。


 ……殺してはいない。

 殺してはいないが、かつて散々馬鹿にされた記憶が蘇り、ついついカッとなってやりすぎてしまったな。このへんも含めて、まだまだ修行不足ということだろう。あの転生者のようにはなりたくないしな。


 俺は改めて、マリアスの眠る方向を見やった。何人かの村人が応急処置を施してくれているが、やはり命には別状なかったようで、時間が経過すれば目を覚ますという。


 彼女も身体を張って俺を守ってくれたことだし、あとで礼を言っておきたい。


「にゃんにゃん♪」


「お……」

 いつのまにか、小猫が俺の足に頬をすりすりしてきた。

「はは……ありがとな、リアヌも」


 俺は腰を落とすと、小猫の背中を撫でてみせる。フランクに接するのを許可してくれている女神といえど、やっぱり頭を撫でるのはちょっと恐れ多かった。


「にゃんにゃんにゃーん♪」


 嬉しそうに鳴く小猫。のちほど、女神にもお礼をしておこう。


「村長……」

 俺は改めて村の長に視線を戻した。

「こいつらは本当、なにをしにきたんでしょうか? 勇者に命令されて、俺を連れ戻しにきたようですが……」


「そうじゃな……。おびただしい武器を持っておったし、ろくなことを考えていなかったとは思うが……」


「そうですね……」


 こいつらはマリアスを傷つけたに留まらず、村人を犠牲にしてでも俺を連れ戻そうとした。だから返り討ちにした。


 だが、こいつらの目的はいまもって不明。転生者は俺を連れ戻してどうするつもりだったのか、なぜこんな大所帯で村を訪れたのか……


 あのクズな転生者のことだ。どうせしょうもないことを考えているんだろうが、結局は推測の域を出ない。


 まあ、いま考えても明確な結論は出まい。

 とりあえずは、この寝転がっている兵士たちに帰ってもらうようにするか……


「……!? にゃんにゃん!」


 ふいに小猫が俺の足を激しくつつき始めた。

 さっきまでの和やかな様子とは明らかに違う。


「おいおい。いったいどうし……」


 そこまで言いかけたところで、俺の背筋に例えようのない恐怖感が走った。頭から足のつま先までを、凍り付くような寒気が駆け抜けていく。


「……む? どうしたのじゃ?」


 村長含む村人たちはなにがなんだかわからなかったようで、きょとんとした様子だ。


「離れてください。ここから……いますぐに」


「へ……」


「お願いします。あなたたちには、俺のようになってほしくない……!」


「……ぬ」


 俺の表情からただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。

 村長たちは顔を引き締めると、マリアスを伴って村の奥へと退散していった。


 全員の姿が見えなくなったところで、俺は隣の子猫に話しかけた。ちなみに小猫の姿でも人語を話せるのは、幽世かくりよの神域ですでに知っている。


「……なにかくるな。とてつもなくやばいのが」


「うむ、そうじゃの……。この気配はおそらく……彼奴きやつらか」


「そうだな。俺もそう思うよ」


 かくして、俺たちの予想は的中した。




「ありゃりゃ? どうなってんだ、こりゃ?」


 そんなすっとぼけた声とともに現れたのは、よくも悪くも忘れられないあいつ――転生者、アガルフ・ディペールだった。


 緋色にきらめく大層な鎧を身にまとっていて、腰の鞘には例の宝剣が収められている。さすが王家から支援されているだけあって豪勢な装備だな。


「ふん。やはり、貴様らもいたか……」


 いつもより数段低い声で唸る子猫。

 その視線の先には、三人の魔術師――いや、邪神一族がいた。


「フフ。やはり《儀式の間》の結界を破ったのはおまえだったか。女神族が長――リアヌ・サクラロード」


「ふん。あんなチンケな結界なぞ壊すのは容易いわ。貴様こそだいぶよこしまな霊気を放つようになったの。邪神族が長――サヴィター・バルレよ」


「クク。誉め言葉として受け取っておこう」


 サヴィター・バルレと呼ばれたその男だけは、他の邪神族より異様な雰囲気を放っていた。


 灰色に染まった長髪を後ろで束ね、瞳はかくも禍々しい紅の色。他の邪神族が緑色のローブを羽織っているのに対し、サヴィターだけは漆黒のコートを羽織っていた。


 転生者も邪神族も、なんとも形容しがたい負のオーラを放っている。この村を訪れたのも、どうせろくでもない目的があるのだろう。


「おまえら……こんなところになにをしにきた……」


 俺が低い声で問いつめると、転生者アガルフは肩を竦めて言った。


「別に? 俺の名声をもっと広めようと思って」


「なに……」


「簡単なことだろ? 兵士あいつらに村を襲わせて、俺があとでそいつらを成敗する。そうすりゃ口封じもできるし、俺の評価も上がる。一石二鳥ってもんだ」


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