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パンドラ

 NO KEEP OUT 


 関係者以外の立ち入りを禁じる看板を踏みつけ、三つの人影が奥へと進んでいく。

 男が二人と女が一人。彼らはある依頼を受けてこの先にあるダンジョンへ向かっていた。


「今回の仕事も楽勝だろ。なんせ俺がリーダーなんだからな」


 パーティーの先頭を歩いていた赤い髪の青年――フォスが振り返りふたりを元気づけるように明るく言う。


「きゃー、カッコイイー。わたしフォスに惚れちゃったかも」


 フォスの言葉にパーティー唯一の女であるハニーが黄色い声をあげて彼に抱き着く。

 非常に男好きする体のハニーに抱き着かれて、フォスは満更でもない顔をするが、

 二人の様子をニヤニヤと見ている男に気が付くと彼女の体を強引に引きはがした。


「きゃっ」

「おやおや、どうしました? 僕に構わずに存分に楽しんだらよろしい」


 でっぷりとした体にエビス顔の男――ニマはフォスに言う。

 人当たりの良さそうな外見のニマであるが、その性根の黒さを知っているフォスは言葉通りには受け取れない。


(どうせ、それをネタに何か強請る気だろう)


 それはフォスの被害妄想のようにも感じられるが、しかし、その考えはずばり当たっていた。

 ニマの手には撮影機材があって、いつでもフォスとハニーの姿を写せる準備が整っていた。


(あっぶねー、この強欲親父め。油断も隙も無い)

(ち、現像した写真を高く売りつけようと思ったのだがな。まあいい。どうせ次があるだろう)


「ねえ、ふたりともどうしたの? 」


 睨みあうかのように動かないフォスとニマを訝しむハニー。


「あっ、ニマの持ってるそれ最新の奴でしょ? ねえ、それわたしも欲しいなー」


 彼女はニマの手にあるものに気づくと今度は彼の方に身体をくっつける。


「これは非常に高価なものでして、そう簡単にあげられるものでは……」

「ねえ、いいでしょ? ニマはお金持ちだし」

「あ、耳に息を吹きかけないでいただきたい」


 先ほどの自分の姿を焼きうつしたかのような光景にフォスは苦笑をしつつ、ふたりに警戒を促す。


「俺が言うのもなんだけど、ここからダンジョンなんだからもう少し緊張感を持てよな」

「はーい」

「僕のカメラが……」

「人を食い物にしようとした罰だ。いい勉強料になっただろ」


 そう言ってフォスは前方に視線を向ける。

 そこは暗くじめじめした穴であった。中に光源はないのでどこまで深いのか見渡すことはできない。

 岩場にぽっかりと空いた穴へこれから三人は潜ろうというのだ。


「いいか、俺たちはこの先にある宝を手にしなきゃならない。たとえこの中から誰かが死んでもだ」

「分かってますよ」

「わたしも怖いけど頑張る」

「覚悟はできてるようだな。よし、じゃあ行くぞ」


 フォスは道具袋から松明を取りし、先頭を切って穴の中に入っていく。

 ピチャピチャピチャと三人分の足音が洞窟の中に響く。洞窟の中はかなり湿っていて、地面の一部にはぬかるみができていた。

 足に絡みつく泥のようなものに苦労しながら三人は進む。

 しばらく歩いているとぬかるみ地帯を抜けたようで、足元はしっかりしたものへと変わる。

 しかし、それはダンジョン内の危険地帯に足を踏み入れることと同じ意味でもある。

 三人は警戒しながら一本道を行くとやがて少し広めの空間に出た。

 幅百メートルはありそうな四角い部屋。これまでの薄暗い道とは打って変わりその部屋は明るかった。

 洞窟の中だと言うのに天井が抜けており陽の光が降りそそいでいるからである。

 その中央には高さニメートルはあろう天使の像が鎮座していた。右手には天秤を持ち、左手には剣。日光に煌く天使の像は神々しさすら感じられる。

 三人が像から距離を取って歩いていたのは冒険者としての本能が伝えたからなのだろう。それは危険な物だと。奥へ続く通路へと向かう三人だったが、その行く手を遮るように剣が振り下ろされた。


「やっぱり門番を無視してお宝を手にすることはできないか」


 天使の剣を自分の剣で受け取めたのはフォスであった。

 彼は両手を掲げるようにして構えた剣を斜めにずらすことで天使の攻撃をいなす。


「どうする? 俺がやろうか? 」

「いいえ、フォスさんは先に行ってください。ここは僕が残ります」


 ニマは懐から小判型の投擲具を取りだすと三人に向けて二撃目を繰り出そうとしている天使像に投げつけた。

 しかしニマの遠距離攻撃は当たらなかった。天使像は剣での攻撃を中断して天秤を掲げたのだ。

 天秤とは何かを計るもので攻撃を防ぐようにはできてない。ふつうに考えれば隙間から当たってもおかしくはないのだが、天使の持っている天秤はただの天秤ではなかった。ニマの小判は天秤に吸い込まれるようにして消えてしまったのだ。

 そしてカチャンと音がして計りが少しだけ動いた。


「やれやれ、この程度では利きませんか。なら限界まで競り合うことにしましょうか」

「死ぬんじゃねーぞ」

「がんばってね」

「あなた方はまだ居たんですか? 時は金なりですよ」


 フォスとハニーはニマに任せて先を目指す。その背後から聞こえてくる戦闘音に振り返ることなく。

 口数少なく進む二人であったが、彼らの行く手を新たな天使像が遮る。

 それはさっき見た天使像と姿形がまったく同じであった。

 しかし同じ個体ではないのは確かだろう。迷路のような曲がりくねった道を進んできたが一度として分岐などしていない。

 道に迷って入り口に戻ることなどありえないのだ。


「フォスは行って。今度はわたしが残る」

「どうして!? 」

「命短し恋せよ乙女ってこと」


 ハニーは背負っていた弓を構えると矢を番えて引き絞る。

 彼女から放たれた矢は正確に天使の心臓目掛けて飛んでいくのだが、やはり掲げられた天秤に吸い込まれて消えてしまう。

 そしてカチャンと音が鳴り天秤が傾く。


「……わかった。俺が絶対にお宝を手に入れてみせるからな」

「うん。お願いね」


 フォスはダンジョンを走る。

 少し前までは仲間がいたが今の彼はひとり。心細さと悔しさとが混ざった感情に抗うように走り続ける。

 そして彼はついに辿り着く。

 そこは今まで見てきた部屋よりも二回りは広かった。

 中央にはこれまた二回り大きい天使の像。その奥には出口はなく小さな宝箱があるだけだ。

 ダンジョンの最奥にしてフォスたち冒険者の終着点。


 フォスは動き出した天使像を見つめる。その手にある天秤はすでに大きく傾いてる。

 それは自分を先に行かせてくれたふたりの功績だ。


(あと少し、あと少しで俺たちの勝ちだ)


 フォスは腰から剣を抜き放ち、天使像に斬りかかる。


「そのお宝。俺が頂くぜ」


 そして天使の像が持つ天秤は完全に傾いた。釣り合っていた均衡が破られ天秤の皿は地に落ちる。

 それはフォスたち三人の勝利でもあり同時にダンジョンの崩壊を意味することでもあった。

 守るべきものを失ったダンジョンはその役目を終えて跡形もなく崩れ落ちていく。

 ダンジョンは不滅だ。

 内部にあった何もかもを飲みこみ壊したとしても、真っさらになったうえで新たに作り上げられる。

 しかし、それは元のダンジョンとはまったく違ったものになっていることだろう。


一行目のNOは脳です。脳の中に入ってこないでって意味です。

だから文法おかしいぞと怒らないでください。英文ではなく日本語と英語の羅列です。

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