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第1話 ウォール キル オール 

基本的にコメディ路線ですが、若干残酷な描写があります。

「ごめん。本当にごめん。

決っしてね悪気があった訳じゃないんだよ。

本当だよ、信じて。神様に誓ってもいいよ。

あ、でも私って神様信じて無いんだった。

そうだ、なんだったら隣の家の猫のミィヤちゃんに誓ってもいいよ。

それが駄目なら、私が大好きな、めんたいこチップスに誓ってもいいよ。

とにかく私が悪いんじゃないんだよ。

これはね、あれよあれ。あれなのよ、あれ!

えーと、事故だよ!そう事故なんだよ!

偶発的に突発的に起こってしまった事故だよ!

運命的に輪廻的に不運的に起こってしまった事故なんだってば!」

 長い髪を振り乱し、小さな体全体を使って、彼女は愛くるしく必死にあやまっていた。

 確か彼女は俺より1つ年上のはずだが、そのしぐさや言動は見ているとまるで小動物を思わせるような可愛いらしさだ。

 こんな状況でなかったら、俺はコロリと彼女に一目惚れしたかもしれない。

「それで?」

 それに対して楠さんは、びっくりするくらい冷淡な声だった。

 楠さんの赤いフレームの眼鏡のレンズが、ギラリと鈍く光る。

 短くバッサリと切った前髪を髪留めで止めておでこを出している顔は、利発そうでいて意思の強そうな顔立ちだ。

 いまはその顔が能面のように無表情で、えも言われぬ迫力を醸し出している。

 俺はと言えば

 今のこの状況が理解できずに、ただただ立ち尽くしている。

 この状況で、これだけ冷淡でいられる楠さんは、それはそれで凄い事の気がする。

楠さんは無表情なまま、口だけを動かしてもう一度聞いた。

「それで?」

 そんな楠さんを彼女は上目づかいで覗き込むようにして、ご機嫌を伺うように聞きかえした。

「『それで?』って?」

「それで、どうやったら、こんな結果になるんですか?」

 楠さんの声はあくまでも冷淡だ。

「えーと……くーちゃん。ひょっとして…怒ってる?」

「怒ってないですよ、別に。」

「怒ってるでしょ?本当は私に怒ってるんでしょ?」

「怒ってないですよ。怒ってないですから先輩、何故こんな結果になったのか教えてくださいよ。」

「ほら、怒ってるじゃん。だって声が怒ってるもん。」

「怒ってないですから、とりあえず教えてください。」

「もう、そんな怒らないでよ。怒ってないとか言いながら声が怒ってるじゃん!まるで私が悪いみたいじゃん!さっきから私は悪く無いって言ってるでしょ!」

 楠さんはハァァァァァと一つ深いため息をついて脱力してしまった。

 すぐ隣にいた俺には、楠さんが小さくつぶやく声が聞こえていた。

 『マッタク イツモイツモイツモイツモ』 

 それから楠さんは改めて気を取り直したようだ。

 にっこりと、少し引きつった笑いを浮かべながら再び先輩に問いかけた。

「ねえ先輩」

 楠さんの笑顔につられたのか、何も考えてないのか、先輩もにっこり笑って答える。

「なに?くーちゃん?」

「先輩の足元に転がってる『物』は何ですか?」

 先輩は自分の足元を見る。

 足元に転がっているいくつかの『物』の中で一番近くにある『物』をローファーの先でつんつんと突つく。

 それが何なのか改めて確認しているようだ。

 それから先輩は天真爛漫、顔いっぱいに笑みを浮かべながら元気に答えた。

「えーと、右手!」

 その答えを聞いた楠さんは、また怖い程の無表情に逆戻りする。

 楠さんの体から、冷たい冷気ような物が漂っている感じさえする。

 しかし先輩は、そんな楠さんの変化にまったく気づいていないらしい。

 足元に転がっている『物』をまたつんつんとローファーの先で突きながら言った。

「あ、ごめん間違えた!これって左手だった!」

 楠さんは、隣にいる俺だけが解かるくらいに小さくだけど、ワナワナと全身が小刻みに震えていた。

「いや、そーゆー具体的な部位の話で、無くてですね。」

「ん?この手の事じゃなくて、こっちの…」

 先輩はまた別の『物』をローファーの先で突つく。

 今度は突つくだけではなくて、ゴンっと蹴って、ゴロリと転がして見る。

 それからまた天真爛漫、顔いっぱいに子供の様な笑顔を浮かべてこう言った。

「こっちの、頭の事?」

「そうじゃなくって……なんで、… なんで、交渉に当たったはずの相手が死体になってるんですか?」

 楠さんは先輩の足元を指差しながら聞いた。

 ワナワナと震える楠さんの全身の震えは、一言一言話すことに少しづつ大きくなっている。

「しかも8体も死体があるって、どういう事なんですか?私にも解かるように1からちゃんと説明してくださいよ。」

「私は悪くないよ。本当だよ。だって、こいつ等が、ごねるんだもん!あんな良い条件で交渉してるのにごねるんだもん!だから だから…」

「だから?」

「だから、めんどくさくなって、…」


 先輩はピョコッと舌を出して、ポコンと自分の頭を叩いて、かわいらしく言った。

「殺しちゃった エヘ☆」

 血の海の真ん中で。バラバラに刻まれ累々とつまれる死体の山の真ん中で。

 まだ生暖かい血が滴るナイフを片手に

 返り血でぐずぐずに濡れた高校の制服のまま

 先輩は天使の様に微笑んでいた。


「『殺しちゃった エへ☆』ってかわらしく誤魔化そうとしても駄目ですよ!!なにやってるんですかー!!」

 楠さんはブチ切れた。

 クラス1いや学年1成績優秀。学校創立以来の才女。そう呼ばれていて、いつも冷静沈着で物静かな楠さん。

「め…め…めんどくさくなった…って、そんな理由で殺してしまって、どうするんですかー!」

 教室の後ろで難しそうな分厚いハードブックを読んでいる普段の楠さんからは、まったく想像できない光景だった。

「いつもいつもいつもいつもいつも殺しちゃって、それで済むとおもって!!だから先輩は、奴らから『皆殺しのリリィ』って呼ばれるんですよ!」

「な!言ったわね!言っちゃってくれたわね、くーちゃん!私がその呼ばれ方で呼ばれるの大嫌いなの知ってて、言っちゃってくれたわね!」

「後先考えずに殺しちゃう先輩が悪いんでしょうが!これで何度めですか!この前の時だって10人も殺害してるんですよ。」

「10人じゃないもん。12人だもん。」

 なぜか先輩は、腰に手を当ててエッヘンと自慢げだった。

「自慢してどうするんですか!そんなんだから『皆殺しのリリィ』って呼ばれ続けるんですよ!」

「あー!くーちゃんまた言った。二回も言った!酷い酷い!」

「ええ 言いましたよ。言いましたとも。お望みとあらば何度でも言っあげますよ、『皆殺しのリリィ』ってね!」

「あー もう!また言う!くーちゃんのいじめっこ!鬼!悪魔!冷血漢!」

「ふふん、好きにほざけばいいですよ。『皆殺しのリリィ』さん。」

「いじめっこ!ジャアニズム!サディスト!貧乳!加虐性欲者!嗜虐的関与者!」

 楠さんの眼鏡のレンズが、ギラリと鈍く光る。

「ちょっと先輩」

 楠さんが、また無表情に戻っていた。

 無表情なのだが、さっきまでとは、また雰囲気がちがう。

 明らかに、もう1レベルやばい段階に踏み込んでいる。

「今、先輩、さり気なーく『貧乳』って言いませんでした?」

 この楠さんのやばい変化には、さすがの先輩も気づいた様だ。

「言ってない、言ってないよ。そんな事これっぽっちも言ってないよ。」

 先輩は首をプルプルと左右に振って否定する。

「今、言ったでしょ?『貧乳』って言ったでしょう?」

「言ってないよ!くーちゃんの事をド貧乳とか、まな板とか、胸だけ少年ナイフとか、そんな事ちっとも言ってないよ。」

 先輩は、必死になって首を左右にぶんぶんと振って否定する。

 首を思いっきり振り回したせいで、血で塗れた長い髪が自分自身に絡みついてしまった。

 先輩は髪を振りほどこうと、一人でジタバタとその場で暴れ出す。

 楠さんは、

「ちょっとばかし…、」

 楠さんが、誰の目から見てもわかる程、全身をワナワナと震わしている。

「ちょっとばかし自分の方が胸が膨らんでるからって偉そうにしてんじゃないわよ!!

もーかんべんならんわ!この『ノータリンリリィ』が!!」

「あー それだけは言わないって約束だったのに!言った!言っちゃった!信じられない!くーちゃん信じらんない!!」

「えーい、うるさいわ!!この『ロリータ体型チチデカノータリンリリィ』が!」

「ひどーい!くーちゃんひどい!!壁みたいな胸してるくせに、くーちゃんひどーい!」

 今度は先輩が、ブチキレル番だった。

 なんと、先輩は足元にある右手いや左手を拾いあげて思いっきり振りかぶった。

「くーちゃんの、馬鹿ー!!」

 誰の物とも解らない左手を、楠さんにめがけて投げつける。

「ええい!馬鹿なのは先輩でしょうが!」

 飛んできた左手をさらりと交わす。

 そして、なんと楠さんも自分の足元に転がっていた誰の物とも解からぬ左足を拾い上げ、力強く振りかぶったのだった。

「くらえ!この『デカチチニヨーブントラレマクリノータリンリリィ』!!」

 思いっきり先輩に向けて投げつけた。


 キャーキャーと叫びながら死体を投げ合う美少女二人。

 あまりにもシュールな光景だった。

 俺はその光景を、ただただ呆然と眺めていた。

「あ!」

 先輩のあげた声で、俺はハッと気づいた。

 な、

 生首が飛んでくる。

 俺目がけて、ものすごいスピードで生首が飛んでくる。

 先輩が楠さんめがけて投げつけようとした生首が、血で手が滑ってしまい、俺に目がけてなげてしまったのだ。

 常人ではよけられない様な猛スピードで生首は飛んできた。

 ガ!

 人の頭って堅いんだよね…

 そんな事を頭の片隅に思いながら、

 生首に直撃された俺は、意識の闇へと落ちていった。


 


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