表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/60

第九話 枯れた心に溢れる涙、老人はただ撫でるばかり。

「キリノ。それはいったいどういう事か説明してもらえますか?」


 街に赴き武器を探しに出かけた桐野が王城へと戻った時、真っ先にシレイアがそう言った。


「どういう意味ですかな。ただ武器を見繕えたので戻って来たまででございますが」

「武器?その禍々しい殺気を放つ呪装が?貴方にそれが分からないはずがないでしょう」


 その腰に吊り下げられた刀、凩を見ながらシレイアは静かに大太刀へと手を添え、瞳は動きを見逃すまいと見開いていた。


「分かっておりますとも。しかし、この朱刀・凩は私の武器にしてシレイア殿やヘル殿を護る武器でございます」

「その言葉に」「嘘偽りなどありませぬ」


 シレイアの言葉を遮って口を開いた桐野に対し、渋った表情であるもののシレイアは大太刀から手を放した。


「……まぁいい。それよりも今から第一師団は戦地に赴く。当然、キリノにも来てもらう」

「そこには神の勇者もいるのか」

「今はまだいないようだが奴の事だ。絶対にやってくる。そして魔族を蹂躙する」

「なら行く。どうすれば」


 そう言って桐野がシレイアに近づいた瞬間に、大太刀が振り下ろされた。刹那の抜刀から間を置かずしての一撃。


「……どうしたのだ。シレイア殿」

 

 それを寸前のところで止めた桐野は一旦、大太刀の間合いの外へと飛び下がる。

 そして桐野は気付いた。

 大太刀を振り下ろしたシレイア自体が、信じられないといった表情をしている事に。


「これが、私の呪いだよ。周囲の奴らの殺意を増幅させてしまうのさ」


 そんな声が桐野の頭で響いた、その声は掌の中にある凩の声。


「なるほど。斬れ味の代償に身体を刀に乗っ取られ、更には敵が本気で殺しにかかると」

「そうだ。だから私は呪装と呼ばれたんだ。手に持ち続けた人なんてもういない。どれだけ私が語り掛けようともすぐに居なくなってしまう!殺してしまうんだよ!私が!」


 震えた声は桐野の中で何度も響き、カタカタと刀身が鳴く。凩の中に秘められた思いは、突如として爆発した。


「人を斬りすぎた私は!その持ち主すらも殺してしまう!」

「だからもう!私を!」


 捨ててくれ。

 手放してくれ。

 一人にしてくれ。


「それはよいな」


 そう言おうとしたその瞬間に、桐野の言葉に遮られた。





「…………は?」

「凩。その名は木を枯らすと書いて木枯らしと読み、木の葉を落とす風の意味を持つ。お主を振るったとき、その軽さゆえに儂は店ごと武器を斬れた。そして今も防ぐことに成功した」



「………だから、なんだよ」

「木枯らしが落とした木の葉はな、後に咲く若葉の養分に、後に羽ばたく蝶の餌に。更には笑う子供が食べる焼き芋の火にもなる。けれど、それは木の葉が落ちてなければならないのだ。木枯らしが落とさねばそれらは全て叶わぬものなのだ」


「お主の抱えるその呪い、それがもたらす災いも含めて全て。重々承知した。これでは命がいくつあっても足りん」


「だが剣の腕なら足りる。如何なる窮地も、如何なる強敵も、お主がいれば全て儂が斬り開いてみせよう」


「さすれば儂は生きられる。勇者を止めれば魔族も蹂躙されずに済む。お主も儂を殺さずに済む」

「そんっな!屁理屈が通じるものかッ!」

「屁理屈ではない。現に今儂が防いだ一撃、あれを振るった者はこの魔王軍きっての剣豪である」

「その剣豪の殺意に満ち満ちた一撃を、儂は不意打ちであっても防ぐことのできる腕を持っている!」




「凩よ。今一度お主に問う」

「儂では、不足か?」


「…………貴様ズルいな」

「なぜだ?」

「ここで私が否定しても、私は逃げられないし、貴様は握り続けるだろう。違うか?」


 そう言った凩を桐野は優しく鞘に納めた。

 

「全てお見通しという訳か」

「なーにがすべてお見通しという訳か。だ。これでは私には拒否権なぞ無いではないか」

「それで、どうなのだ?足りぬか。儂では」






「ああ、全くもって足りんぞ剣豪!腰に枯れ葉でも差した方がまだマシだ!」


 桐野が質問の答えを問うと、凩は少し間を開けてそう言った。

 その時も、ただ刀身はずっとなき続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ