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第八話 枯れ葉の如き乱れ刃。

「お前、人間だろ。そんなもんに売る奴なんかねぇよ!」

「失せろ人間!殺される前に出ていきな!」

「人間に物なんか売ったら評判がた落ちさ!どっかいけ!」


 それが、店に訪れた男へ掛けられた第一声だった。


「街の方に行けばとりあえず武器屋は見つかるだろう。あと、お金はヘル様から大金を預かっている。これで好きな物を買うがよい」


「業物を見定めるより前に、交渉すら無しか」


 シレイアの言葉通りに武器屋を求めて街に繰り出した桐野は通りのベンチに腰を掛けていた。種族の壁の高さをこの前思い知ったものの、それ以上に社会の目が厳しく突き刺さる。


「木刀の削り出しを考えるべきか……」


 そんなことを呟きながら受け取った大金を握り締めて街を歩く桐野。そんな彼がふと、一つの武器屋の前で足を止めた。


 イモータルアーミー。そんな看板を掲げた武器屋は魔族で賑わっており、外で止まっている桐野の姿を見た途端に中指を立て始める魔族もいた。

 しかし、その意味を知らない桐野は何の恐れも抱かずに武器屋に入っていく。


「おい!てめぇ何しに来やがった!」

「死にて―のか!」

「人間よ!誰かぁ!」


 様々な喧騒で騒然となる武器屋の中を、桐野は何もかもを気にも留めずに、ただひたすら目的の物に向けて歩き続ける。


「おい、なんかあいつ変じゃねえか?」

「人間の時点で変だろ」

「いやそうじゃねぇ。あそこにあるのって……」


 そう言って魔族が指さす場所。

 そこは武器屋の中でも一番切れ味の良いものを並べるコーナーでありながら、誰一人とてその武器を眺めない場所。


「おい!あいつ呪装を見てるぞ!」


 呪装。その名の通り様々な因縁が重なり、呪いの依り代となってしまった武器。それは呪いを纏うがゆえに強く、呪いが強すぎるがゆえに所有者を狂わせてしまう。


 そんなものが並ぶコーナーで、桐野は一本の刀を手に取り抜刀した。

 深紅の鞘に枯葉かれは色の刀身をした打刀うちがたな。一見錆びているようにも見えるが、桐野は斬らずとも錆びていない事を理解していた。


「すぐさまあいつを取り押さえろ!あれは人間なんぞに扱えるもんじゃねぇ!」

「なら、殺しても仕方ねぇよな!?呪装は危ないんだからよ!」


 その声を聞いてすぐさま武器を振りかざす魔族たち。


「大丈夫じゃ。呑まれておらん。だが、聞く耳すら無しか」


 言葉による交渉の余地がない事を知っている桐野はすぐさまその刀を振り、振りかざされた武器を斬り壊していく。


「なんだこいつは!?」

「店主よ!こいつを儂に売ってくれ!金ならある」


 そのまま刀を店主の喉元に付きつけながら交渉に入る桐野。しかし、店主の反応は。


「そんな武器こっちも処理に困ってんだ!もってけクソ!」


 桐野の予想していた物とは違った。無償で手に入る事を知った桐野がレジの前に小包を置いた。


「そうなのか勿体ない。ではこれで儂の斬り捨てた武器の代わりをあやつらに見繕ってくれ」


 その小包の中身を見た店主の口が塞がらない。他の魔族たちがその中身を見ようと集まる中、桐野は一人街を出て、誰もいない様な路地裏に入っていく。


「さて、お主は何者だ?あのような殺気を放ちおって」


 桐野は一人で呟いた。宛先の無い言葉は次第に無へと溶けていく。


「私に名前はない貴様こそ何者だ、私を拾って何をする気だ。私の殺気に当てられても呑まれぬとは」

「我が名は桐野利明。武器が失った所にお主を見つけたのであの店と交渉してお主を貰った。そのような鋭いだけの殺気などいくらでも浴びてきた」

「何が交渉だ、私を突き付けて脅迫しただけだろう」

「この国の者は私の言葉などそうそう聞かないのでな」


 そこまで桐野が言ったところで刀が鞘からいきなり抜き出た。そして光を放ち始め、次に桐野が刀を見た時、そこに立っていたのは一人の少女だった。

 桃色の着物に紫の帯という服装をした褐色肌の少女。その眼の色は紅く桐野を睨みつけていた。


「それがお主の姿か。刀の斬れ味の割には可愛らしい様相だな」


 そう言いながらしゃがみ込み視線を合わせる桐野。


「何だ。貴様には感情がないのか。もっと驚くとかあるだろう」

「心の動揺に付け込んで身体を支配する。それがお主の魂胆か」

「すべてお見通しって訳か」


 残念そうにため息を吐く少女。そんな少女に桐野が口を開いた。


「お主、そういえば銘を何というのだ?」

「銘?そんなものはない」

「ならお前の銘はこれからこがらしだ」

「…………はぁ?」


 明らかに不満の声を漏らす少女。

 

「お主は既に儂のものだ。されどいつまでも刀と呼ぶのは失礼であろうよ。だから銘を付ける」

「もう少しまともな銘はないのか?」

「例えばどのようなものだ?」

「テイルフィング!」

「読みづらい。却下だ」


 一言で意見を斬り捨てた桐野が反論を聞く前に凩を鞘に納めた。


「それじゃ、王城に行くぞ」

「何故だ?」

「王に報告せねばならんのだ」

「なんだとッ!?」


 嫌悪感をあらわにする凩を腰に差し、桐野は王城へと歩を進め始めたのだった。













「それより、良かったのか?」

「何がだ」

「貴様、武器だけじゃ無いだろ。壊したの」

「…………老朽化だ」

「あっ、逃げた」


後方で崩れゆく一軒の武器屋を、二人は目もくれずに王城へと歩いた。

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