第七話 人斬りの生還に歓迎は無し。
愛弟子との衝突、神との邂逅、様々な事を一日で経験した桐野は、カルヴァリオの背に乗って悠々と魔王城へ帰還した。
「おかえりなさいです!」
「はいただいま」
「どうでしたか?」
「弟子は倒せたが神は倒せなんだ。それに木刀を折られてしまった…………」
「そんなお気になさらないでください!刀なら作れますからね!」
桐野を励ますようにそう言ったヘル、すると突如魔王部屋の扉が叩かれる。
「良いぞ」
すぐさま玉座に戻り声色を変えて答えるヘル、そして返答が響いた後に開かれた扉。その先から部屋に入って来た一人の女性。銀髪にして腰にとてつもなく長い大太刀を吊り下げる女性。
異世界に日本刀が存在することに驚きを隠せない桐野に対し、女性もまた桐野を見て少し驚いているようだった。しかし、すぐさま表情を戻しヘルの方を向き直った。
「グライド谷の件ですが、死傷者はゼロ。そして話によると人間同士で仲間割れを起こしたのだとか」
「魔将シレイアよ、お主にも伝えておかねばならぬ。そこに居る人間、名をキリノトシアキと呼ぶ。その男こそがあの神の勇者を食い止めるどころか致命傷を与え撤退させた男だ」
先程までは驚きを何とか取り繕う事に成功したシレイアは、次こそは隠せなかったようで、開いた口が塞がらない。
「これは失礼、我が名は桐野利明。あの神の勇者の師にして魔王ヘル殿の元にはせ参じた者でございます。以後お見知りおきを」
「い、いえっ私の名はシレイア。魔王軍の第一師団を取り持つもので魔将シレイアと呼ばれております。よろしくお願いします!」
互いに自己紹介する二人を見て厳格な表情がくずれそうになるヘル。だが、その前に何か思いついたかのようで、その表情は一層崩れる。
「なぁシレイアよ。お主の元にキリノを入れてやってくれないか?白兵戦を主とするお主の師団であればすぐさま戦場に駆け付け、大きく活躍する事だろう」
「私はよいですが、キリノはよろしいので?」
「ええ、構いませぬよ。儂にとっても都合が良い」
その提案には桐野も特に反対することは無かった。それどころか一番最初に戦場に駆け付けられることを好意的に捉えていた。
「ではキリノ。貴方を我が第一師団に歓迎するぞ!」
「ついでに武器も見繕ってくれぬか。丁度お主と同じような武器を扱っていた」
「ほう、それならば私が入団祝いに見繕わせていただきます!それでは失礼しました!」
「失礼致しました」
そういったシレイアがすぐさま桐野の手を引いて魔王部屋を出ていく。
「落ち着いてくださいませシレイア殿。手が疲れる」
「す、すまない!」
そう言う桐野の手を離した瞬間に、桐野の手がシレイアの目に映った。
そしてすぐさま、離した手をまた掴む。
「……どういたしましたかな?」
「この手に出来ているタコ。私も戦い続けてかなり経つがここまで大きくはなっていない。今まで何人斬って来たのだ……」
「私は主の敵を、己が信念に沿って斬って来たまで。その数など二百を超えてから数えておらぬ」
「に、にひゃく……!?」
その言葉を聞いたシレイアが桐野から距離を置き刀に手を伸ばす。
「その大太刀をここで振り回すのは得策ではない、それに儂はシレイア殿を主としている。斬りはしない」
「それは本当か……?」
「本当だ、男に二言は無い」
「…………ならばよい」
そう言って刀から手を離したシレイアが前を向いて歩き始める。
「かたじけない」
「良い。それに、キリノはきっとこれから、もっと大変な目に合うかもしれないからな」
「大変な目とは?」
「すぐにわかるさ」
廊下を渡り切ったシレイアが扉を開く、その先に居るのは有象無象の魔族たち。一つ目であったり角谷羽、さらには沢山の剣を携えた者まで、沢山の魔族の姿が桐野の眼に入る。
「皆。聞いてくれ。今日から新しく入るキリノだ!人間であるが私たちの味方だ!安心してくれ!」
説得するかのように声を上げたシレイア。しかし、桐野に向けられる視線には、どれもこれも憎悪や憤怒が含まれているように桐野自身が感じていた。
「我が名は桐野。先程もグライド谷にて戦ってきたばかりの者だ。不甲斐ないことの多いかもしれぬが何卒よろしく頼みたい!」
そうは言っても納得できないと言った様子の魔族たち。余りにも高い種族の壁。
そんな壁を味わっている桐野に対し、シレイアは言った。
「キリノ、お前はまだ新参者だからこの師団の中でも一番下の位になる。位を上げるには戦果を挙げよ」
「なるほど。斬れば斬るほど上がると、何とも分かりやすい」
「ああそうだ、だから、背後には気を付けよ」
そう言うシレイアの心配するような言葉と、浮かべている表情は真逆の物に桐野は思えた。