第六話 斬るのは命に限ることなく。
爆炎と雷鳴をその手に宿し暴れる青年と、ただ一本の棒切れのみでそれと互角以上の戦いを繰り広げる老人。
「何者なんですかあの人は!?あんな棒切れ一本であの化け物と渡り合うなんて!」
それを避難しながらも目の離せない魔族たち、その疑問は連れてきた張本人ことカルヴァリオに向けられる。
「私にも分かりませぬ。ただ、恐らくですが、ここに居てはいけない。巻き込まれたら私でさえもただではすみません。早くお逃げください」
「は、はい!カルヴァリオ殿もお気を付けください!」
「ええ」
気を付けても、殺されそうですが。
引き続き魔族たちの避難を促すカルヴァリオが、心の奥底で感じた言葉を口にする事なく空へ飛んだ。
その戦況を見定めるが為に。
暴れまわる雷鳴と爆炎。それらを振るう匠の攻撃を桐野は難なく避けながら木刀を腰に差し居合の構えを維持し続ける。
予測不能の刹那にして必殺の一撃。それを暗示する老人の腕はかつてないほどのプレッシャーを匠に与え、身体に刻まれた恐怖がそれを駆り立てる。
攻めの手を止めた瞬間に叩き込まれる。
匠の戦闘本能がそう告げた。神により体力の増強を施された匠に残されていたのは体力勝負。攻撃の手を休めない事が、敵の攻撃の手を止める。回避に専念させ体力を削る。
そう考えていた匠が攻撃の手を激しくさせる、爆炎で囲み雷鳴を轟かせ逃げ場を失わせたところで双刀を振るう。
されど桐野はその窮地を居合の一太刀で切り拓いた。爆炎を裂き、雷鳴を断ち、振りかざされた双刀を受け止め鍔迫り合いに持ち込んだ。
「どうなってんだ!?」
「包囲網を開くときは全方位に遠心力を用いながらの居合で切り拓ける。これは幕末において普遍的で、それ故に名も無き技だ」
そのまま鍔迫り合いを制し二刀を流す桐野。そのまま腹部を蹴り、突き放してから居合の構えを取る。
居合が来るッ!
更なる距離を取りながら双刀を交差させ守りを固める匠。
「居合見参太刀ッ!」
しかし、その技はいとも簡単に全てを砕いた。
一つは双刀の守りを。
一つは魔法の障壁を。
一つは身体の組織を。
一つは青年の勝機を。
迫り来る一人の男。確かにそれは一本の木刀から織りなされた一太刀の居合。
しかし、身体に走る衝撃。
それは三度にわたって蝕んだ。
「冷静さを欠いたものから死ぬ。だから今のお前には絶対殺せないと私は言ったのだ」
「ま、魔法の障壁がぁ……!?」
「まだ息があるのか。手ごたえはあったのだが衰えたか」
「待て。人の子よ」
その声をいきなりかけられた桐野が木刀を構え匠の後方に振り下ろす。
「その殺気と迷いなき一撃。恐ろしい男よ」
その木刀を止めたのは一本の槍。緑の茨が這う碧黄色の刃に木製の柄。その装飾は神々しく光を放ちながら底知れぬ禍々しさを桐野に感じさせる。
「我が名は桐野。お前は誰で何の用だ」
「我が名はオーディン。勇者を守りに来た」
そういって槍を匠に対して振るうと、即座に匠が立ち上がった。
「匠」
「何でしょうか神様」
「神の勇者である貴方はこの世界において最強なのです、ですから敗北は許されません」
「ですが神様、この男。私の師匠にはかないませんでした」
「ご安心ください。貴方はもっと強くなれる。私がその力を授けてあげる。だから、思う存分にその力を振るいなさい」
その言葉を聞いた桐野が即座に木刀をオーディンに対して振るう。それを止めようと差し込んだ槍がいとも簡単に砕けた。
「あらあら、怖いのね」
続けて攻撃を入れる桐野の木刀を、オーディンは白刃取りで受け止める。
「オーディンとやら、武芸を嗜んでおるのか」
「さぁ何のことやら。そして貴方、ロキとはお知り合い?」
「何のことだか、よく分かりませんな」
「しかもこの木刀、ロキの加護までついてるじゃないの。厄介ね」
そう言ったオーディンが力を入れた瞬間に木刀がその手の中で砕け散り、桐野がそのまま距離を置く。
「これで、貴方でも勝てるでしょう?さぁ、やりなさい」
「し、しかし……ッ!」
オーディンに促された匠。けれども匠自体の様子がおかしい。生命力を神に注ぎ込まれてもなお匠の四肢は動かず、立ちあがることもままならない。
「あらあら、あの魔法を貫通して骨が砕けているのね。生命力は回復できてもそこまでは私にも無理ね」
「それで、まだやるのか?」
「武器も持たずにそんな口を叩けるだなんて、よほどの馬鹿かしら」
「武器ならまだある」
そういって折れた木刀を握り締める桐野。その様子を見て笑う神オーディンが槍を構えたその瞬間に、匠に対して火炎弾が放たれる。
「桐野さん!いったん撤退しますよッ!」
「かるばりおか。そのような命令でも受けたか」
「ええ!背に乗ってください!」
「あい分かった。次は殺す」
そのまま飛び立つカルヴァリオ。その風圧は砂塵を巻き上げ目を眩ませる。
「行かせるかッ!」
カルヴァリオと桐野に対して手を向けたオーディン。しかし、その手に見えぬ刃が傷を負わせ、白い肌に血が流れる。
「フンッ、抜け目なき男よ」
「桐野様!?何を!?」
「手刀で牽制したまでだ。飛ばせかるばりお!」
「は、はい!」
はるか上空を駆け抜けていくカルヴァリオ。その背に乗せた男は傷一つ負うことなく、最強を撃退したのだった。