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第三十九話 死闘の終演。飛び立つ演者。

 血が噴き出した。


 そう知覚する事しかできなかった。

 剣戟が止み、打撃音が響き、会話が交わされる。

 音から判断したメルトが盾から顔を出した時。


 血が噴き出した。

 としか、彼女には分からなかった。


「な、何が起こったのだ……?おい!桐野!」


 呼びかけるメルト。


「カイムは、無事か?」


 その声に応じたのは、桐野だった。


「あ、ああ!治療も済ませてある!」

「そうか……それならば良かった」

「おい!あんたは大丈夫なのか!?」


 そう言って桐野の後ろから近付いたメルトが、その惨状に気が付いた。

 全身に切り傷を浴び、血を流し、左腕に脇差が突き刺さっている老人の姿に。

 そして、首元に木刀が突き刺さり、血を噴き出している管理人の姿に。


「な、なっ、なな。あ、あんた……なにやってんだッ!」

「ははは。年甲斐もなくはしゃぎすぎた……な」


 そのまま膝から崩れて倒れ込む桐野。そして、眼から生気を感じられないエリオットの姿。

 瞳に動揺が映るメルト。


「メルトさんッ!その首の傷を塞いで!桐野さんの腕の傷も!引き抜いて!」


 その背後からメルトに指示を出すカイムが、端末に向かって歩き始める。


「おい!無茶するな!」

「しますよ!人の命が掛かってんですよ!?私が端末で人を呼びますからッ!」

「わ、わかった!分かったから!」


 急いで桐野の腕とエリオットの首から刀を抜き取り、タオルで直接圧迫することで止血するメルト。その内にカイムは傷だらけの体を引きずって端末までたどり着き、人員を呼び込んだ。


「カイム……一つ良いか?」

「はい!?なんですか!」

「木材と……削る道具を……」

「木刀なら私が作って差し上げますから!今は休んでてください!」

「そうかぁ…………そうかぁ……」


 カイムのその言葉を聞いてから目を閉じて静かにし始めた桐野。そして以前もやって来た猫耳嬢が飛び散る血と瀕死のエリオットの姿に驚きながらもカイムの一喝によって再び動き始める。


「それではゆっくり乗せてくださーい」

「はーい、落ち着いて乗ってくださーい」

「はーい運びまーす。揺れますのでお気を付けくださーい」


 その言葉で担ぎ上げられた桐野がエリオットに続いて医療室に運ばれていく。

 その途中でそんな桐野の姿を見た護衛三十六人衆の半数がその搬送に付き添い、

 更にカイムも負傷の為に搬送され、

 事情聴取としてはメルトが名乗りを上げる結果になった。


 

 それから、僅か2日後。



 魔族側が、人間界に対してついに侵攻を始めた。


 

 △▼△▼△▼△▼△



「いらっしゃいますか?」


 カイムが扉を開いてそう尋ねる。


「ああ、いるぞ。ようやく腕も動くようになってきた所だ」

「それなら良かったです。それでは移動の準備をしてもらっても?」

「……移動の準備か?」

「ええ、本日魔族の動きが見られました。完全なる武装をした第一師団。第二師団。共にグライド谷よりも数を揃えてきていますね」


 そう言われて桐野の頭によぎったのはシレイアやカルヴァリオ。凩に鬼萄丸といった共に戦った仲間たち。

 

「なるほど。それを拒んでも?」

「護衛三十六人衆。皆外に待機しています」

「拒否権は無いのな」


 ため息をつきながら桐野が少々粗削りな木刀を持って外に出ると、護衛三十六人衆のその全員が桐野の部屋の前に居た。


「それでは、こちらへ」

 

 その一番前を歩くカイムが階段を上り、その後ろを歩く桐野。そして更にその後ろを歩く護衛三十六人衆。


「しかし、護衛三十六人衆が儂に付いてていいのか?入口とか大変だろう」

「貴方を逃がす方が大変です」

「しっかり魔法の扉で守ってます」

「僕らが居なくてもここは大丈夫です」

「桐野さん。護衛を剥がそうとするのはおやめくださいね」


 カイムにそう言われた桐野が溜息をつきながら木刀に手を掛ける。しかし、それと同時に桐野がカイムの行く先を見て、何かに気が付いた。


「なぁ、カイム」

「どうしました?」

「終わったら、じっくり話を聞かせてくれ」

「終わったら。ですね」


 そういって階段の先にある扉を開いたカイム。そこに広がるは黄色い花弁。真ん中には赤色の柱頭があり、雲の海の上に大きく咲き誇っていた。


「それでは桐野さん。行きましょう」

 

 その黄色い花弁と同化している黄色のシートをめくると、その下から姿を現したのは籠に入った沢山の小さなハングライダー。それを取ったカイムが護衛三十六人衆に配り始める。


「桐野さんは魔法が使えないという事なので、私のハングライダーに入ってください」

「あい、分かった」

「それでは皆さん。方角は北西、そちらの方に第二師団が居ます。着陸後は交戦して人間を引きつけ、そのままヘル様の元まで撤退しますので。それでは幸運を!」


 カイムがそう叫ぶと、全員が同時に。


「幸運をッ!」


 そう返しながら色んな方向へと飛んで行く護衛三十六人衆。

 そして桐野がハングライダーを掴み、その桐野の腕の間に入って掴むカイム。


「桐野さん。地面を蹴って貰えますか」

「はいよっ!頼んだぞッ!」


 桐野が大きな声でそう言うと。




「ええ、第三師団師団長。走為上のカイム!任されましたッ!」


 彼女もまた大きく答えて、共に空へと飛び立った。


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