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第二十一話 陸と空の舞踏会。

 グライド谷にいきなり降り立った巨体。白い人の姿を模し、金属質の身体に顔の部分に付いた黒い砲口。その巨人とも思えるモノが立ち上がった時、魔族たちは何も、考えられなくなった。


「神徒だ逃げろッ!勝てるわけがないッ!」


 その声がグライド谷全体に掛けられ、あれ程までに戦意に燃えていた魔族たちが眼前の敵を無視するように逃げ出し始めた。

 

「俺たちも撤退しろ!巻き込まれるぞ!」


 逃げ出し始める魔族たちと同じように逃げ出し始める勇者達、あと一歩で追い詰められるといった状況であっても勇者たちは大人しくその声に従っていく。


 行け。神徒よ。魔族どもを蹂躙せよ。


 そう指示する影が一つ、神徒の方から消えた時、大地に拳が叩きつけられ、そのまま横に薙ぎ払われる。

 盾で防ごうとする勇者も、強靭な身体を持つ魔族も、最大にして最悪の暴力の前に圧潰あっかいされた。

 神からの鉄槌が敵も味方も関係なしに命を散らして払い捨てたのだ。

 そしてその散らした命に罪悪感を抱くわけも無く、第二第三の鉄槌が振り下ろされる。


 正しく地獄絵図だった。魔族も人類も等しく散る。それを平等と言うのならそれは確かに神であるといえるだろう。

 神に勝てるものなど居る訳もない。


 だから、勇者も魔族も逃げる事しかできなかった。


 そんな中、立ちあがる者が一人。


「第二師団!第一師団撤退の援護をせよッ!」


 カルヴァリオ率いる第二師団が空中から火炎弾を放ち、勇者たちの妨害をし始めていた。堅牢な鱗に守られた彼らは矢によって妨げられることなく攻撃を放ち続ける。


 そして。


「俺があの神徒を止めるッ!」


 カルヴァリオが神徒の前に立ちふさがり、そのまま口に貯め込んだ高温度の火炎を収束させて放つ。

 対して神徒もまたその砲口に白い光を瞬時に溜め、そのままカルヴァリオに放った。


 白く輝く光の奔流。紅く燃え盛る炎の光線。威力互角の二つが衝突した事により衝撃波が大地を揺らし、激しい光を放って霧散する。


「ハッ、まだまだッ!」


 さらに炎を溜め始めたカルヴァリオ。




 しかし、神徒は即座に第二の砲撃を放った。

 それは最初のような光の奔流ではなく、むしろ対極。




 全てを呑み込むような深い闇が、空を貫いた。


「させるかッ!」


 その言葉が響いた瞬間に、巨人の顔が下から上にはね上げられた。瞬時の一太刀に輝く銀の閃光。

 

 空において魔族最強の座についていた赤きドラゴンが、闇に呑み込まれたなどと。


 合ってはならぬと彼女が咆えた。


 魔将の一撃が、砲口を空へと傾けた。


「カルヴァリオ!行けッ!」

「やはり生きていたか戦友よッ!感謝する!」


 落ち行く戦友を拾い上げ、下から上に飛びながら吹いた爆炎は巨人の身体を真っ赤に燃やし、それと同時にシレイアが繊細に切り刻み、白い巨人の身体が地に落ちて行く。



「やった!勝った!勝ったぞ!」

「騒ぐ暇があれば逃げろ!こいつは死なん!いずれまた復活するぞ!」

「第二師団!すぐさま背に乗せて飛び去れ!我々は補給基地に向かう!」


 そのまま補給基地の方へと飛ぶ二人に称賛の声を送りながら、魔族たちは思い思いに逃げる準備を始めた……



▼△▼△▼△▼△▼△


 


「なぁ、凩よ」


 シレイアとカルヴァリオが神徒を倒した時、テントの中で横になっていた桐野が刀に戻った凩に声を掛けた。


「起きとったのか桐野」

「ああ、それより、周りに人はおらんか?」

「どうしてだ?」

「大地が揺れた」

「あんたも気付いたかい」 


 そう言って鬼萄丸がゆっくりと起き上がった。背伸びをして怪我の調子を確認してから立ち上がる。


「ああ、恐らく何かグライド谷であったんだろうな」

「そうだろうね。周囲から動きを感じない。行ってみる?」

「行けるのか?桐野も貴様もズタボロではないか」

「わたしゃそこまで弱くないよ!」

「まず儂はまだ痺れて動けんのだが」


 そういった桐野を肩で担ぎ、更に桐野の腰に差し込んだ凩を抜刀する鬼萄丸。


「準備はいいかい!?」

「させる気も無いだろうに」

「というか貴様は私を握っても何ともないのか」

「ちょっとピリピリするだけさね。そこらのモンとは違うんだ」


 その刃が桐野の身体ギリギリのところを走り、冷や汗をかいたことなどいざ知らず。鬼は再び戦地へと戻りゆく。


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