第十三話 戦場にて暴るる鬼の赤さは肌か鮮血か。
勇者の進軍が始まったグライド谷、その戦場にて暴れる桐野と鬼萄丸。
彼らを攻撃の鉾とするならば。
住民魔族を谷の反対側へと避難させ、なおかつ勇者からの防衛も務めるラインは防御の盾であると言えよう。
「私が時間を稼ぐッ!そのうちに避難を勧めよっ!」
「着いていきます姐御ッ!」
「よく言った強靭なる者どもよ!私に付いてこいッ!」
その中で大太刀を振るう戦乙女が一人。その剣筋は敵を斬り捨て、その背中は魔族達の士気を、前線を、どんどん上げて行く。
「シレイア様!」
「なんだ!?」
「あの人間はどこへ!」
「あいつならかなり前の方でとっくに暴れている!」
「了解ッ!」
その答えを聞いた魔族たちが、次第にシレイアを追い抜いてゆく。
立ちふさがる勇者たちを蹴散らして前線を押し上げて行く。
「背後には気を付けろ」
その言葉の意味を未だ桐野は知らず。
「あんた仲間と敵の見分けも付かないのかい!?」
「儂の斬撃の前に出るな!」
「ハッ!斬れるもんなら斬ってみなッ!」
鬼と口喧嘩する桐野が一太刀、鬼萄丸に対して繰り出した。
「甘いねぇ!そんなんじゃ鬼は狩れないよ!」
そう言って握りつぶした勇者を放り投げる鬼萄丸。
「あれ、これ私喧嘩に振り回されているだけではないか?」
自分の状況を客観視してしまった凩。
「あいつらまとめてやっちまえ!」
そんなことも知らずに喧嘩へと水を差す勇者たち。それらは鬼に投げられ、斬り飛ばされ、次第に数を減らしてゆく。
すでに斬った数知れず。踏みつぶした者の数など数えぬ鬼。
殺人鬼と生粋の鬼。
二体の鬼が戦場で暴れまわっていた。
その時だった。
「爆発ッ!」
その声と共に二人の居た場所に突如として起こる爆発。巻き上がる黒煙と砂塵がその威力を物語っていた。
「タクミ様、今回は魔術師で?」
「ああ剣術では俺は叶わねぇ!アイツこそ最強だ!けど俺は神の勇者!あらゆることにおいて最強を誇る俺の魔法だ!」
「さすがでございます!」
隣の弓使いに褒められてすぐさま鼻の下を伸ばす神の勇者。
「イタタタタ……いきなりなんだいあいつは」
「匠か……」
「え?タクミ?」
聞き覚えの無い言葉に頭を傾げる鬼萄丸。そしてその肩を掴んだ桐野が口を開いた。
「鬼萄丸。儂をあいつのところまで投げてくれんか?」
「なんだ?あんたならあいつを倒せるのか?」
「倒す。絶対にだ」
「嘘は嫌いだからな。終わったら喧嘩の続きだよ?」
「儂も嘘は嫌いだ」
そう答えた桐野がしゃがみ込み、凩を鞘に納め居合の構えを取る。そして、鬼萄丸はそのしゃがみ込んだ桐野を右手に乗せて投げる体勢に入った。
「舌噛むなよッ!」
「よろしく頼むッ!」
一つの言葉のやり取りを終えた頃には、桐野は投げ飛ばされていた。空中でも身体の制御を行いつつ力を貯める。
「タ、タクミ様ッ!来てます!」
「え?なにが?」
「私を斬った男が一人!こちらに飛んできてますッ!」
「何ィッ!?障壁展開ッ!」
その姿にいち早く気付いた弓使い。その言葉を得て唱えた魔法は匠を包むようにして灰色の障壁を展開させる。
「覚悟せよッ匠ィッ!」
飛んできながら居合の型を維持し続けていた桐野が、その力を解放する。
「居合見参太刀ッ!」
居合の型から放たれる剣技。桐野の居合見参太刀が飛んできた勢いをそのままに障壁に放たれる。
「居合斬りの後に高速の納刀からの抜刀を二度も放った……だとッ!?」
その桐野の高速の抜刀術を見抜けたのは、その刀である凩のみ。
しかし。
勢いを乗せた三度の抜刀。
それでも障壁は砕けない。
ひとまず桐野は、障壁を踏み台にし飛び越えることで投げられた時の勢いを完全に殺した。
「強度はガチガチに鍛えてんだよ!閃光ッ!」
そんな桐野に放たれた魔法の一撃。一筋に収束された光の束が熱を伴って桐野に迫る。
「光か、ならばッ!」
咄嗟に刀身の横腹を閃光に当てる桐野。
「しまったッ!」
その行動の意味を予期したのか、すぐさま匠が弓使いと一緒に倒れ込む。
そして刀身に当たった閃光は、そのまま跳ね返って障壁を穿いた。
「目には目を、歯には歯を、まほうにはまほうを」
「ようやく殻が破けたと言った所か」
「ちくしょう……!」
刀を構える桐野に対し、同じく背中から二本の刀を抜く匠。
「シレイアッ!撤退し仲間を呼んで来い!」
「は、はい!」
匠の一声で走り去っていくシレイアと呼ばれた女性。
「シレイア……!?」
「熱いではないか!」
「すまない。あとでしっかり手入れをしてやる。それより、聞いたか凩」
「しっかり聞いていたぞ。名前も、手入れの約束も!」
その名前に重なる女性が桐野の中で思い浮かぶ。
「どうなっておるのだ……?」
「ごちゃごちゃ言ってないで!行くぞ!」
突然の事実に付いていけない桐野は振り下ろされた双刀を横に避けつつも、思考回路を巡らせるのだった。




