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第一話 不肖の弟子と木刀の志士。

 時は明治18年、幕末の時代はとうに過ぎ去り、あの日あの時己が魂である刀を腰に吊り下げ歩いていた士族らは廃刀令により、またあるいは軍人への転職により、姿を消した。


 そんな剣の廃れた世の中で、しがない剣道道場を開く者がいた。


 その剣道道場は一人の老人を中心に開かれた小さな剣道道場で、ロクに月謝も取らず、ただ木刀を木に向かって振るい続けるだけ日々が続くばかり。


 そんな時、一人の青年が声を上げた。猫の様な目をした黒い剣道着の青年、木刀は周囲の門下生が持っているよりも高級そうな白い木刀で剣道道場の中ではその高級そうな装いが彼の存在感を際立たせていた。


「なぁ師匠!いつになったら剣の時代が来るんだよ!」


 師匠と呼ばれたその老人はその声を聞くやいなや「ふぇっふぇっ」と口を開けて笑い、


「そのような時代はもう来なくてよい」


 指でその青年を指しながら老人は言った。にらみを利かせ目で訴えた。されど、青年はその言葉に納得がいかない様子で木刀に手を伸ばす。


「師匠の臆病者が!今までもずっと勝負から逃げてやれ幕末だ、やれ新選組だ、根拠のない過去話ばっかりでもう聞き飽きた!うんざりだ!」


 老人にたくさんの罵声を浴びせる青年。


 これだけならばまだ、この剣道道場においてはまだ日常茶飯事。周囲の門下生たちも笑って許していたのだが…………






 今日ばかりはその限りで無かった。


「覚悟しろ師匠!」


 青年は老人の前で木刀を構えた。

 その構は木刀を高く掲げる構えであり、老人が門下生に教え込む構え。蜻蛉の構と呼ばれる。

 しかし、老人はそのような構えを取る青年に対し、木刀は腰に差したまま。


「仮にも刀であるその木刀をそのように抜いたからには、覚悟は良いか?」








 そう言ってゆっくりと木刀に手を伸ばす老人、その手が木刀を包み込むように握った瞬間。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 青年が構えを維持しながら駆け出し、その間合いに老人の姿を収めた瞬間に木刀を振り下ろした。


「取ったッ!」

「取っとらん」


 初太刀を振りかざした青年が喜びの声を上げた瞬間、老人はその余韻に浸らせる間もなく声に答え、優しく木刀を首元に添えた。


「な、、なな、なんでだよっ!初太刀を確かに俺は振った!間合いにも入っていた!あんたはそこから一歩も動いてない!なんでだ!」


 動揺する少年に対し老人は木刀を腰に収め、次に青年の木刀を指さした。


「そのような短い木刀で本当に間合いは合っていたのか?たくみよ」


 そう言われた青年こと匠が自分の白い木刀を見て言葉を失った。

 

 

 その木刀は切っ先の部分が綺麗に折れており、その部分の消失が今回のような結果を招いたのだと、匠は確信した。



 そして、その木刀を折り相手の間合いを変えさせたのが、目の前にいる老人であることも。


「確かに今教えている剣術は二の太刀要らずの剣術だ。だが、初太刀を浴びせたからと言って慢心していてはその首、安く取れる」




「剣の時代でなくて良かったな匠。剣の時代であれば今ここで終わっていた」




 一通り灸を据えた老人は先程と同じように笑ったのちに、門下生に鍛錬の項目を伝え剣道道場師範としての役目を果たす日々に戻り始める。


「やめてやるよこんな剣道道場!」


 一方匠はそのような日々には戻らなかった。折れた木刀の片割れを拾い上げ外へと走りだしていった。

 

「き、桐野師範代。良かったのですか?匠を追いかけなくて」


 桐野師範代と呼ばれた老人が匠を止めるようなことはせず、心配した門下生が口を出すと。


「まだ匠は若い。おそらくこれから先、あやつはもっともっと旅をして、世界を知り己を知り、何ができるかを模索して行くだろう」


 悲しそうな表情で、けれども嬉しそうに、そう言った。


「は、はぁ」


 その言葉を聞いて、よく分からないような顔をしながらとりあえず肯定の言葉をつぶやく門下生。


「それに、そのうち冒険ごとにも飽きて帰ってくるだろうよ」

 

 そう茶化してから門下生を鍛錬に戻した桐野。


 その時の彼はまだ知る由も無かった。









 追い出した少年が、違う世界で、勇者になろうなんてことは。

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