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第六話「はじめてのおつかい」

薪拾いから戻った俺たちは、遅かったがどうしたとバルディに言われ、

スィは黙ったままだったので、俺がすべて説明した。


バルディは険しい顔をし、

「そうか。」

とだけ答えた。

そして俺たちが拾ってきた薪をのそのそと焚き火にくべ始めた。


否定しないところを見ると、あの二人が言ったことは本当だったのか。

あの屈強男が俺の叔父だということとか。

だが不思議と俺の思考はさして混乱していなかった。

俺の頭の中にはある構造が浮かんでいたからである。




まず、俺の父さんとさっきの屈強男が兄弟だとする。

そこで俺が生まれる。

生まれた俺は神童であった。

紫香楽宮家のなかでは、俺の父さん派と屈強男派に別れた。

その間で対立することとなる。

奇襲を受けた俺の両親は、氷月鏡だとかいう女に殺された。



…こんな感じか。



そういえば、女は名乗ってはいたけど紫香楽宮の姓は名乗ってなかった。

ということは女は紫香楽宮家ではないということか?

「亜竜」は、紫香楽宮家の一派で構成されているわけではないのか。




考えていても疑問が生まれるだけなので、俺は思考を断ち切り、これからどうするのかバルディにひたすら尋ねることにつとめた。




「このあとは、ギルドに向かうんですか?」


「そうだ。お前を見つけたからな。

その間にいくつかの街を転々としようと思う。」



街…!

俺みたいな箱入り孫にとっては、街に行くのは初めてだった。

どんなところなのだろう。

早く行ってみたい。俺ひとりだけテンションが上がっていた。





スィはさっきからずっと黙ったままだ。

先程の俺の思考の中には、もうひとつ推測があった。


“スィは氷月鏡に捨てられたのではないか”


捨てられたは言いすぎかもしれないが、スィが“おかあさん”と言った声は、親子の再開の色を滲ませていたと思う。 


それに対して氷月鏡が放った言葉は氷のように冷たく、その後はまるでスィなど存在しないような振る舞いを見せた。




あの親子の間には一体何があったのか。

知り合ったばかりの俺は、あのパーティの人達のことを何も知らなかった。





朝、俺たちは出発し、昼ぐらいになって「クレマチス」という街に着いた。

クレマチスにはいろんな色の建物があり、活気に溢れていた。

俺たちはここで一泊し、明日出発して次の街に行くそうだ。





「うわぁぁぁぁすっげぇぇぇ!」


俺?俺はもちろんはしゃぎまくりだぜ?

だって人が沢山いるし、食べ物の良い匂いはするし、音楽とか流れてるし、てかもう見てるだけで楽しい‼

 


「ねぇバルディ!今日ってなんかのお祭りなのか⁉」


「おおお落ち着けイルっ。

…そうか。お前、街は初めてか?」


「おう!あ、これなんだ?美味そう!」



「……元気ね。」



スィにまでちょっと退かれるような反応をされてしまった。

俺そんな変かな?

だってスゲー楽しくね?



とりあえず俺たちは宿に向かうことにした。

宿の受付でバルディが宿代を払う。



…そうか。お金、使うよな。そうだよな…。



「ん?どうしたイル?そんなじっと見て。」


「うっ…あ、あぁいや…。お金ってやっぱ使うんだなぁ…って。」


「そうかお前、あのじいさんに金も使わしてもらえてなかったのか。」 



うっ…金を使ったことがないことがばれてしまった。



「え、お兄ちゃんお金使ったことないの?」


「ぐはっ」



なんと…自分より幼いであろう少女にまで引かれてしまった…。

おいじいさんよ、あなた様は俺を大事にしすぎた。

そのお陰であなた様の孫は、今少女たちから冷たい目線を受け取っているよ…。



「じゃあイル。お前、そのへんで好きなもん買ってくるか?」


「えっ…!」



いいの…⁉



「おう、買ってこいや。算数出来るよな?」



あぁ、バルディにまで馬鹿にされている…。

算数ぐらい出来るさ!俺は小さい頃、算数が得意で誉められたこともあるんだぞ!

……無論、じいさんからだけだが。


あれ?

これはもしかして例の「はじめてのおつかい」ではないか?“だーれにーもーなーいしょで~”から始まる歌が流れてきそうな感じだぞ⁉



「いってきます!」



俺はバルディからもらったお金を握り、ウキウキで宿を飛び出した。


何を買おう⁉

やっぱりさっき良い匂いのした、長細い肉の塊かな?それとも逆三角錐カップの上でグルグル巻いてある冷たそうな食べ物かな?



キョロキョロしながら街を見渡していると、沢山の人が群がっている屋台を発見した。


人が群がっているのは、大きな皿に、フルーツや、さっき見つけたグルグル巻いてある冷たそうなやつが沢山のった食べ物だった。

食べている人は、みんな幸せそうな顔をしている。



あれに決めた。



「おっさんそれちょーだい!」


俺はバルディからもらったお金を出しながら、おっさんに声をかけた。



「あいよー!

……って坊や、その金じゃ足りないよ。」


「えっ…。」


「この“パフェ”は銅貨10枚。坊やが持ってるのは銅貨5枚だろう?」



俺は手元のお金を見た。

ひぃふぅみぃ…5枚だ。



「あ…。」


「そういうことだから、坊や。また来な!」


おっさんは次の客の相手をするため、踵を返そうとした。

すると、


「おじさん。もう5枚あるわ。これでいいんでしょう?」


隣を見ると、スィがいた。


「おぉ、そーか。坊や、よかったな!」


俺は“パフェ”とやらを渡された。

それはずっしりと重かった。




初めて自分で買った食べ物。

…いや正確には自分の金じゃないし、半分スィも出してくれたんだけど。




嬉しかった。









* * * * * *


「スィちゃん、ありがとう!」



帰り道、スィにお礼を言った。

スィがいなかったら俺は寂しい思いをして、はじめてのおつかいを終えていたのだから。



「べつに。心配してついていってみたら、こんなことになってただけだし。」



うわぁお。心配が的中しています。スィ様。



「ていうか、君…イル。本当にお金使ったことないの?」


「ハハハ…そうなんだよね恥ずかしながら…。」



俺は盛大な苦笑いをした。

改めて言われるとホント恥ずかしい。




「じゃあ今度教えてあげるわよ。」


「えっ…!」


「いやだ?」


「嫌じゃないです。ありがとうございます。」




避けられてたと思ってたから、すごい嬉しかった。


…とか本人には言えない。







もって帰ってきた“パフェ”は、パーティのみんなで食べた。

ニノとナノがよく食べた。

スィも意外とよく食べた。

やっぱり女の子だからかな。



俺はまた嬉しくなった。

長細い肉の塊➡ソーセージ

グルグル巻いてある冷たそうな食べ物➡ソフトクリーム


です。

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