(4)出会い②
「あなたは、神様?」
「………へ?」
思わずマヌケな声を出してしまうイル。
もちろんのことだが、イルは「カミサマ」という存在は知っている。(ダジャレではない②)
だがそんなもの、祖父と住んでいた家にあったお伽噺の本に書いてあったようなものだ。
後ろから煌々と光が差していたり、白くて長い髭が生えていたりする姿など、今の彼にはあまりにかけ離れている。
刹那、
後ろから衝撃、いや襲撃があった。
ドオオォォォォォンンッッッ!!
という、さっきとはまた違う衝撃音が地面を揺らす。
「ウグッッンッッ!!??」
なにがなんだかわからん、という困惑の極みのような表情でイルは振り替える。
イルの腰に追突……抱きついてきたのは、彼より二つ三つほど年下の、金髪が綺麗な二人の少女たちだった。
一人はツインテールの元気いっぱいな少女。
もう一人は髪を後ろにまとめ、何処か大人びた少女だった。
二人とも白いシャツに、サスペンダーの付いたスカートをはいている。
イルが黙っていることにツインテ少女が首をかしげ、口を開いた。
「おにいちゃんが、かみさまなの?」
(……またカミサマか。)
本日言われるのはこれで二回目。
さすがにこんだけ言われれば、普段あまり細かいことを気にしないイルも気になってくる。
少女二人が、イルの返答を待つように見つめてくる。
イルは取り合えず否定をしようと口を開いた。
すると、
「あ~…お前ら、そいつは“カミサマ”じゃないぞ?」
金髪少女ズの後ろから熊が現れた!
……否、それは熊みたいに大きな人間の男であった。
これまた突然現れた第五人間の大男に、イルは固まる。
(熊……山で暮らしてたとき最も恐れていた、大熊が現れた……。)
「お、おい、そんな警戒しなくてもいいからな?さっきお前さんを襲おうとしてた奴等なら、ホラ、縛っておいたから。」
そう言って大熊がさっき猫目たちが飛ばされていった方向を指差すと、奴等は麻縄でぐるぐるにされて転がされていた。
意識のないやつもいるが、あるやつはこちらをずっとにらんでいる(ように見える)。
「………警戒してるんじゃなくて、バルディの顔が怖いだけだと思う。」
セーラー少女がボソッと呟く。
「な、なんだと……!?じゃ、じゃあ俺はどうすれば……!?」
「……笑顔で話せば大丈夫。」
「えっ……こ、こうか?」
バルディと呼ばれた大熊が、セーラー少女のアドバイスを素直に遂行してニヤァと怪しげな笑顔を作る。
そしてイルは思ってしまった。
(よ、余計に怖い……。)
「余計にこわぁーい!」
イルの心情と重なって、ツインテ少女が何故か嬉しそうにハッキリ言った。言ってしまった。
それから楽しそうにキャッキャと笑う。
「余計に怖いだと……!?」
一方バルディはかなりショックを受けたようだ。
まさに「ガーン」という音が聞こえてきそうな、今にも泣きそうな顔をしている。
もともと厳つい顔だからか、一見怒っているようだが、きっとこれは悲しんでいるのだろう。
言われたことを素直にやってしまうほど、自分に警戒して欲しくないのかと思うと、イルは意外といい人なのかもしれない、と思い始めた。
「……あ、あの、」
「お、おうごめんな?昔から子供に泣かれるような顔でな……、」
「あ、いえ、そうではなくて。俺、警戒とか、してませんから。大丈夫です。」
「………!この人に警戒しないなんて……お人好しすぎ。」
「スィ、そこまで言われると俺は本当に泣くぞ?」
(セーラー少女は“スィ”というのか…。)
そしてイルは先ほどから散々思っていた疑問をぶつけてみた。
「あの、“カミサマ”ってどういうことですか?……と、そして、あなた方は一体………?」
「あぁそれは……、」
「かみさまはおにいちゃんでしょー??」
「っちょ、ニノ!」
またもツインテ少女こと、ニノが口を挟む。
(ホントにこの子はよく喋るな…。)
「だからこいつはカミサマじゃないってさっき言っただろーが!」ゴチッ
「いっ、痛いよバルディぃ~!ニノの頭、割れちゃう~~!!」
「げんこつぐらいで割れないから安心しなよ、ニノ。これ以上騒ぐと、ナノも怒るよ。」
「うぅ~……ごめんなさぁい。」
もうひとりの大人びた少女、ナノが本気で怒った(ように見えた)のでニノは素直に謝った。
一方スィは何をしているのか、とイルが振り向いたところ、スィは物凄く退屈そうにしていた。
(てか、欠伸してるし!!)
もう状況はぐだぐだであった。
イルはカミサマのことなど(主にそれ)を一刻も早く訊きたかったので、再度尋ねた。
「あの……、それで、」
「あぁ、ごめんな、こんなぐだぐだで。………と、それで、お前のことだよな。」
「あ……ハイ。」
「話したいのは山々だが、こんな暗いとこで話すのもなんだからな、野営の準備でもしてから話さないか?」
確かに時刻は深夜をまわろうとしているし、明かりに関しては誰かが出した光の玉や、バルディの持っている松明でなんとか人の存在ぐらいを確認することが出来る程度だが、大事なことを話せるほど落ち着いた雰囲気ではない。
(けど、猫目たちがいる状態で、話していいことなのかな?)
イルはそう疑問に思いながらも、薪を拾ったりしながら、野営の準備を手伝った。
ニノとナノがテントを張り、バルディが焚き火をおこす。
スィは……先ほどから姿が見えなかったが、今、何処からか戻ってきてバルディに何やら耳打ちしていた。
(なんだろ?)と思ったイルだが、そんなに気にはしなかった。
細かいことは、気にしないタイプなのだ。
「はい、それじゃあ取り合えず、自己紹介からだな。俺はバルディ=モルド。35歳だ。」
「ニノ、11歳だよ!」
「ナノ…同じく11歳です。」
「……水月鏡。13歳。呼び方はスィでいいよ。」
(バルディさんに、ニノとナノ。そして、)
「水月鏡……さん?」
「…スィって呼んでって言ったでしょ?」
「ええぇ、だって初対面だし…。」
「…水月鏡って呼んだら返事しないから。」
(だって愛称って、仲良くなってから呼ぶもんじゃないのか…?)
「あー…その、スィはな、自分の名前が嫌いなんだ。だから気軽に愛称で呼んでやってくれな。」
「あっ…そうなんですか。じゃあ…スィ、ちゃん…?で、いいかな?」
「…うん。それで良し。」
満足そうな顔でスィが頷く。
メンバーの名前がわかったところで、イルは、自分が何者なのかを説明するため、自己紹介をしようとした。
「あ、えと、俺はしがr…、」
「紫香楽宮イルだろ?」
「……!」
バルディがニヤリという怪しい笑みを溢して、イルの言葉を遮るように尋ねた。
「……どうだ?合ってるだろ?」
「………。」
イルの口元がピクピクとひきつるる。
「だ……、」
(だから、どうして会ったこともない人たちが次々と俺の名前を知ってるんだよ……!!!!)