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第二話 私のいない世界で優雅は私を忘れて。


ごめん、優雅。

私ダメだね、あなたのこと何も解決できてない。


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


次の日の朝。真希はまた優雅に呼ばれて彼の部屋へと来ていた。

もう学校に行く時間だというのに、優雅は着替えさえもしていない。本当にもう、しょうがない幼馴染みだと思う。


この、もどかしい感情を味わうのは、あの時以来...


『早く着替えて、顔を洗って、スクバ持って学校に行きなさいよ!』


早く着替えて学校に行きなさいと言っているのに、優雅には聞こえない。ベッドから早く出ろ!と優雅の肩や腕に触れたいのに、触れられない。

私の手は優雅を通り抜けてばかりいる。分かってる、私は“おばけ”だから。


『ねぇ、優雅...そんな顔しないでよ!』


瞳に涙を溜めて叫んでも、あなたには届かない。どうやっても“もう一度”は、できない...今の自分には何の霊力(ちから)も無い。

私には、もうどうすることもできないの...?




優雅は自分の部屋のベッドの上で、壁に寄り掛かりながら膝を抱えて座っていた。もういつもなら真希の家で朝食を食べて、真希と一緒に学校に行く時間だ。真希が()()()のに、学校になんか行きたくない。

真希は小6の終わりから今まで風邪なんてひかなかった...今の状態が()()()()んだ。


「お前と一緒じゃなきゃ学校なんか行くわけねーだろ、バカ真希」


何処か遠くで真希の声がしたと思ったんだ...泣いてる姿が俺の頭に浮かんだ。こんなことを言いながらもつい、真希の姿を探した...いるはずが無いのに。


「いるわけ、ないよな...」


お前の顔が見たいんだ。お前が傍にいないと、俺は...。


「真希...」


優雅はまだその場から動かなかった。動く気すら無いというのが正しい表現だろうか...ここで真希を待っていたら、自分の傍に来てくれるような気がしていた。






昼休みを告げるチャイムが鳴る。5組の教室でレイナは1人、真希のことを心配していた。午前の授業、と言ってもいない先生が多いために課題のプリントをしていたのだが真希がいないとやっぱり寂しいと思う。


「真希、大丈夫かな...」


後ろの席である真希のいない席を見てレイナは呟いた。すると誰かが自分の後ろに立ったような気配がしたかと思うと、いきなり抱き締められて耳元で彼氏であるシンヤの声が聞こえた。


「レイナ、一緒にお昼食べないかな?」


「きゃっ...シンヤ?」


とても心臓に悪い。ここは学校で生徒がいる教室だ。シンヤはいったい何を考えているのかとレイナは問い正したい。“こういうこと”は周りの目もあるのだから気にしてほしいと思う。

離してと言っても聞いてくれないシンヤの腕はさらに力が入っていて少し苦しい。いったいどうしたのかと思っていると、シンヤの後ろにもう1人いた。優雅だ。彼も彼で元気がなく暗い顔をしている。


「よお、レイナ。シンヤの奴が俺を置いて彼女と飯食うって言うからついてきた」


シンヤの邪魔をしに来たという感じだが、妙にほっておいてはいけないような感じさえ受ける、レイナは優雅をいつもとは違うように思った。

それにしてもいつまでシンヤはレイナを抱き締めたままでいるのか...。


「それでレイナ、俺とお昼一緒してくれるよね?」


「え、うん。一緒に食べましょう()()()


先ほどの問いをシンヤが繰り返す。今の声色の方が“断らないでくれ”という思いが強くなっている気がするが、レイナは優雅も含めて3人でお昼にしようと言った。その言葉に少し嫌そうな顔をしたのは他でもないシンヤだった。


「それでも助かるよ。もう、優雅の相手は疲れたから...」


「ええ、そうかもしれないわ。というか、いいかげん離してシンヤ」


シンヤは何故かとても疲れているらしい。だがずっと後ろから抱き締めるのはどうかと思う。再度言おう、ここは学校で教室で他の生徒の目もあるのだから...さすがのレイナもシンヤを引き剥がしにかかっている。

離れたくないと抵抗するシンヤだったが、突然に優雅が何かを探すように空中を見詰めてぶつぶつと何か言っている...真希の名前を呼んでいる優雅が妙に恐ろしい。


「また始まった...今日も遅刻してやっと来たかと思ったら、こんなでさ。数日真希ちゃんに会えないだけでこれなんだ」


「これはもう重症ね...」


優雅を見ながらシンヤとレイナは自分達の手には負えないと悟った。これはもう真希に早く風邪を直して学校に来てほしいと思うしかなかった2人だった。






放課後、優雅は部活を休み帰ろうと生徒玄関に来た。また今日も隣に真希はいない。それだけで不安になる優雅は靴を履き替えて外に出るとまた真希のことを考え始めてしまう。


「はぁ...真希...」


校門を出て歩いている時もまた真希の姿が頭から離れない。いつも一緒に帰る道路、いつも寄り道させられるアイス屋に服屋は何故か買ってとねだられる。小物を扱う雑貨屋なんかもそうだ。真希といると、それだけで楽しい。

この道を通り抜けると大通りに出る。そこでいつも信号待ちをする。

今もその信号に優雅は待たされた。


「...ん?何だ?」


突然、優雅の頭の中に“何か”の映像が一瞬だけ浮かび上がった。

優雅には、何なのか分からない。それでもまた、一瞬の小間切れの映像が頭の中を駆け巡る。止まらない、いくつもの“白線”が見える。


「...横断、歩道...?」


目の前にある歩行者用の横断歩道と同じだった。だが、こことは違う横断歩道だ。見えた景色がこことは違った。優雅が呟いた時、目の前の歩行者用の信号機が青に変わっていた。

それを認めた優雅は、一気に現実へと引き戻された。


「何だったんだ...?」


もうあの小間切れの映像は見えない。疑問を残したまま、優雅は気を取り直して歩きだす。

少しすると妙に聞き覚えのある声が頭の中に響いた。


ーーー本当に忘れたままでいいのか?


それは1回だけで、後の帰り道は聞こえなかった。

優雅は家に着くと、ただいまも言わずに靴を脱ぎ捨てて階段を上がって自分の部屋に行った。今日は珍しく自分の家のキッチンから光が見え、野菜を切るような音などがする。母さんが帰ってきているなんて滅多にないことだ。


「優雅ー!帰ってきたなら、ただいまくらい言いなさい!」


リビングから怒ってる声が聞こえる、優雅の母親だ。だが、優雅の聞きたい声はこれじゃない。“母さん”じゃない。自分が聞きたいのは“姫野真希”の声だ。

自分の部屋のドアを力任せに開けて中に入ると、また優雅は力任せにドアを閉めた。

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