第一話 私のいない世界で優雅は生きて。
もう時間切れ、ごめんね。
それでも、お願いだから泣かないで、笑って...
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次の日。優雅は1人で学校に来た。いつも隣にいたはずの、幼馴染み...いや、自分が昔から片想いをしている真希の姿はない。
いつもより遅い時間帯だったからか、いつも生徒玄関で会うシンヤには会わず、生徒も少ない。中履きに履き替えると自分のクラスである3組の教室に向かう。廊下ですれ違う生徒も朝のHLが始まる時間が近いからか、ほとんどすれ違わなかった。
教室の中に入ると生徒は集団自殺の時からいなかった奴以外は全員揃っている。例のごとく、うちの担任もいないから出席もとらないだろうしHLも無いだろう。やっぱりもう席にはシンヤがいて優雅に気付くとおはようと声を掛けてきた。
「ああ...」
優雅は右手を上げて返事だけをシンヤに返した。挨拶の言葉までシンヤにさえ返す余裕がない優雅は、自分の席に座る。すると、いつものからかうような顔をしていないシンヤが隣の席から心配そうな顔をして聞いてきた。
「どうしたのか?何かあったのか?」
「ちょっと、な。真希が...いや、俺がおかしいのかもしれない」
席に座り、スクール鞄を机の脇に掛けながら優雅は昨日あったことを考えながらシンヤに話した。
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昨日の放課後のことだ。シンヤが部活に行った後、俺は真希達のクラスに行った。でも、そこには真希もレイナもいなくてあいつらのスクバだけがあった。
「たまたま2人でトイレでも行ってたんじゃないのか?」
俺が話してるのにシンヤが口を出してくる...何かちょっとムカついたから殴りかかろうかとも思ったが、俺は自分を落ち着かせて邪魔するなとシンヤに言った。
どうやら俺の意図が分かったらしくシンヤは苦笑しながら分かったと言った。本当にお前は俺のことが分かる超能力があるんだろ!?
話しが違うくなる前に俺は話しを続ける。俺が真希がいなくて不安だったあの醜態はシンヤには隠そう。あれは自分からなんて言えない。
とりあえず、レイナから真希が保健室に行っていたことと電話が繋がらないことだけ話そう。
そして、学校から急いで帰り、自分の家を通り過ぎて真希の家の玄関を開けて中に入った。昨日はおばさんの仕事は休みでいつもみたいに家にいた。
家のリビングに行くと夕飯の支度をするおばさんに俺は真希のことを聞いた。
「あの、おばさん真希は...?」
おばさんもいつもと変わらない。俺がやっぱりおかしいのかと思う...それでも、昨日の夕飯の席に真希の分の食器は出ていない。
テーブルの上にあるのはおばさんと、いつもゴチになってる俺の皿だけだ。
「ごめんね優雅くん。真希ったら体調悪いからって先に帰って来るなんて...真希の鞄持って帰ってきてくれたのね、ありがとう」
おばさんが真希のスクバを受け取ろうと手を伸ばす...だが俺は、素直に渡したくないと思ってしまった。日常の、些細な出来事のはずなのに。
俺は結局、真希のスクバを渡さずにおばさんに真希のことを聞いた。
「おばさん今、真希は...?」
「寝てるわ、風邪。きっと明日も休みね」
おばさんはいつもみたいに笑う。いつもなら、おばさんのこの笑顔に安心するのが自分だ。でも、俺の心はいつものようにはいかなかった。何か隠されているような気がするのは、やっぱり俺の頭がおかしいのか...。
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「それで話しは終わったんだ...風邪がうつると悪いからって、おばさんは真希の部屋には入っちゃダメだの一点張りで真希を見てないんだ」
「うん、それで?何が原因なんだ?今の話だと、お前がそんなになるわけないだろって言うか普通の反応じゃねーのか?」
シンヤは自分の机に肘をつきながら言う。そう、これが普通の反応だ。誰もおかしなことなんてない。
それでもシンヤなら自分のことを理解してくれるだろうと思っていた優雅は、少し寂しそうに笑いながら言った。
「分かってる...おばさんの話しだと真希は風邪で寝てることは理解してる。でも、何か違う気がするんだ。何か俺は...」
優雅のそんな言葉や表情に、シンヤはどう反応を返していいのか...このクラス1位の成績で頭の良いシンヤですら今の優雅が解らない。
友達としてどうしたらいいのか、優雅にどんな言葉を掛ければいいのか悩んだが難しい。結局シンヤの口から出た言葉は自分の今の気持ちだった。
「いったい何だって言うんだよ」
そんなシンヤを優雅は見て、自分は友達を困らせていると思う。
何でなんだ...ただ、真希は体調が悪くて学校休んでるだけだろ?ただそれだけのことだろ?それなのに何で、何でこんなにも“不安”なんだ。俺は、いったい何を...。
優雅が悩んでいると、2年を担当している先生が大量のプリントを手に抱えて教室に入ってきた。今日もまた、自習で課題のプリントを皆ですることになるのだろうと優雅もシンヤもそれを見て直感する。
「またプリントか、少しは難易度を上げてくれてるといいんだけど」
「やめろシンヤ!あのプリントは違う学年の先生とかが必死になって作ってるせいで習ってねーところだらけなんだよ!!」
「優雅の言うとおりだ!お前が解けてもオレ達は教科書見ても分かんないんだぞ!!」
シンヤの発言に優雅も周りの男子生徒達も“ふざけんな”と騒がしくなり先生に静かにしろと注意されたのだった。
『優雅も大変そうだね』
突然に教室に響いたのは真希の声だ。でも誰もそれに気付かない。
真希は制服を着て教室の中にいた。だがその立ち位置はとても不自然である。教室の一番後ろ、ロッカーのさらに“上”にいる。そう、空中を浮いているのだ。
『もう、優雅には見えないし聞こえない...』
これで、よかったのかな...?
“あの時”みたいに優雅は泣いたりしない?自分を責めないでいてくれる?
優雅が笑っていてくれれば、私はそれでいい...
だって、もう、私は・・・・・
真希は少しだけ優雅達を見詰めていた。
その日の夜。優雅は自分の部屋のベッドにジャージを着て、天井を見ながら寝転がっていた。想うのは真希のことだ。1人になると、もうそれ以外のことは考えられない。
「真希...」
ただ壊れたように真希の名前をずっと呼んでいる。呼んでも呼んでも真希は来ない、傍にいない、真希に会いに行くことさえ許されない。
『まだ私を呼んでるの?何度名前を呼ばれても、もう優雅の傍にはいけないよ』
突然に優雅に掛けられた声。それでも優雅には聞こえない。
ほんの少しだけ感じ取れるのは、何かの音?それとも声?のようなとてもとても小さな音だけ。何なのか分からないのに、優雅の頭に真希が浮かぶ。
「真希!?」
勢い良くベッドから飛び起きてまわりを見回す優雅だが、そこに真希の姿はない。どうやっても優雅には見えない。
正確には優雅のベッドの上、彼の足のある方にずっと真希は座っていた。だって、優雅が何度も何度も自分を呼ぶから...。
「いるわけ、ないよな...」
優雅にとって、もちろん真希の姿はどこにもない。右手でどうかしてると頭をかく優雅はとてもかなしそうな、さびしそうな表情をしている。
そこに“いない”と理解しながらも、優雅はまた好きな、誰よりも何よりも傍にいてほしい幼馴染みの名前を呼んだ。
「真希」
『うん...今日はまだここにいる、優雅』
少しして、今度は足の方に置いてある布団を優雅は自分の方に引っ張った。そろそろ寝るかと優雅はつけていた電気を消してベッドに入る。
すると何かが自分の頭を撫でるような感覚があったが、何故かそれが心地いいと思ったため払いのけるような真似はせずにその“優しい手”を受け入れて眠りについた。
『優雅にはさわられてる感覚なんてないよね?』
そう言いながら真希は先ほどの場所から優雅の頭の方に移動して、いとおしそうに優雅の髪を撫でていた。
第二章に入りました。
これから第一章よりも切なくできたらと思っています。