第三話 あなたのいる世界で恋バナを。
ねえ、優雅。
私はあなたに恋をする資格なんて持ってないの。
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真希達の1年5組の教室につくと、レイナは自分の席に鞄を置いて真希の席を振り返る。
ああ、いつものレイナのシンヤに対する愚痴が始まる。嫌いだとか嫌だとか言いながら、結局は盛大なのろけに変わるのだ。聞いているこっちが恥ずかしくなるくらい。
「ねえ、真希聞いて!シンヤってばね...」
学校に来て早々、シンヤの愚痴を言うレイナに真希は“羨ましいな”とさえ思ってしまう。だって、自分達のことは“話せない”。こんな今の状況をどうやって“普通”のレイナ達に話せばいいのだろう...自分はもうとっくに死んでいるなんて言えるわけがない。
「そうだね...」
真希はレイナの愚痴に困ったような笑顔を浮かべる。だんだんとレイナの愚痴がシンヤとののろけに変わってくる。
本当にレイナとシンヤが羨ましくなる...もし、自分達が“普通”の高校生だったならと思ってしまう。優雅の傍にいられるのが期限付きでなかったら。もし、あの時の出来事変える方法が別に何かあったのなら...私から優雅を奪った死神を逆にしとめることができたなら。
ああ、思い出しても考えても今となってはキリがない。もう、自分には世界を変える霊力なんて残ってはいない。
「この前なんて私からキスしろって命令してくるんだから!」
「...大変だね」
一際大きくなったレイナの声に同意を返し、真希は苦笑いを浮かべた。優雅とキスなんてしたことないし、もうできないだろう。それに自分達はお互いをそんな感情ではきっと見てはいないはずだ。
真希の苦笑いをどう受け取ったのか、レイナは自分の気持ちが理解されていないと感じたのか真希の目を見てさらに言う。
「真希分かってないでしょ?桜木くんはそんなこと言わなそうだし...というか、言えなさそう」
真希にとっては優雅のことを言った方が分かりやすいかと思ったが、レイナは説明に失敗したことを話している内に理解する。真希と優雅の関係はとても難しい位置にあるだろう。
少しでも自分の気持ちを伝えては今までの関係を壊してしまうような...それに真希は彼を好きだという感情に気付かないようにしている風にも感じられる。
「真希はまず“好き”っていう自分の気持ちを認めるところからよね」
うんうんと頷き、レイナは真希に自分とシンヤの出会いから語り始めた。4人共高校からの付き合いなのでお互いによく知っている内容ではあるのだが...盛大にそんなレイナの“のろけ話”が始まってしまった。こうなっては、朝のHLが始まるまで止まらないだろう。
そんなレイナから視線を外し、窓の外を見詰めた真希の顔色はまた悪くなっている。そんな真希にレイナは気付かない。
「ッ...!」
また朝のように体に力が入らずに一瞬バランスを崩した真希だが、とっさに自分の席の椅子を引いて座った。多少不自然だったかも知れないが、たぶんセーフだと思う。
レイナの話しに適当に相づちを打ちつつ、真希は机に肘をついて担任の先生が来るまで聞かされた。
チャイムが鳴って挨拶をして授業が終わる。真希が教科書やノートを机の中に片付けているとレイナは自分の机をくるりと回転させて真希の机とくっ付ける...朝の時間では話し足りなかったのか、レイナは“恋”について語るわよと自分のスクール鞄からお弁当を出していた。
「真希は今日お弁当?購買かコンビニ行く?」
「またレイナの“シンヤ愛”について聞かされるの?」
レイナからの質問を全く違う質問で返しながら真希は自分のスクール鞄からお弁当と飲み物を出した。今日の朝、優雅から鞄を渡された時点でもうお母さんが作るお弁当が中に入っていた。
さすがはお母さんと言うべきか...前にもこんなことはたまにあったことだし、優雅のお弁当もうちのお母さんが作って忘れないように持たせているくらいだ。
「逆に今度は真希の“優雅愛”について聞かせてほしいんだけど」
「“優雅愛”?」
レイナは椅子に座り、お弁当を開け始めながら興味津々というように真希を見ている。その目は“恋バナの1つや2つあるでしょ?自分は話したんだから聞かせなさいよ”と云っている。
しかし、いったい自分のその“優雅愛”をどう伝えたらいいのだろうか。そもそも自分は優雅を恋愛対象として好きなのかさえ微妙だというのに、それに優雅の生きている世界が欲しくて、泣いている優雅をほっとけなくて...世界の出来事を変えました。なんて、いったいどう言えばいいのか、現実離れしすぎていて意味不明で理解不能である。
「真希?」
何も答えずお弁当を取り出した形で固まった真希を心配そうに呼ぶレイナ...自分の気持ちに気付かないようにしている真希には聞いてはいけないことだっただろうか。
名前を呼んでもまだ反応を見せない真希に、本当に心配になってきたレイナは謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、言いたくないなら...」
「言いたくないとかじゃない。ただ、言えないんだよね...優雅は“泣き虫”だから。」
真希はレイナの言葉を遮り、やっと答えたが...纏う雰囲気がなんだかいつもと違う。真希の顔は“高校生”とは思えないくらいの悲痛を映している。涙は流していないのに、泣いているような感じがする。笑っているのに、真希の目はレイナを見ているはずなのに、何故かその瞳は別の誰かを...否、優雅を映している。
「真希、あなたは...」
レイナは直感する。真希は自分なんかよりも“恋”をしている。自分とは違う、何よりも誰よりも優雅を想っている...それはただの高校生がするような恋愛じゃない。何て言えばいいのだろう...。
「なんてね、私と優雅はただの幼馴染みだよ」
真希は何もなかったかのように、いつものように笑う。さっきまで纏っていた雰囲気は何処にもない。消えている。レイナのよく知る真希だ。
どうしていいか、真希の言葉をどう受け取っていいか分からずに困惑するレイナをよそに真希は自分もお弁当を開けて箸を出して食べ始めた。
「そうなの...」
レイナは真希を見て思う。真希のその恋はーーー“悲恋”、だと思う。
でもそれは、単純な、簡単な、“悲恋”じゃない。ただの高校生の自分には、その“悲恋”を表現できる言葉を、私は知らない。
後半は元の「おばけの恋~はなれたくない~」には無かった部分です。新しく加筆しました。
これからそういう部分も増えていく予定です。