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第二話 あなたのいる世界でケンカを。


ねえ、優雅。

私はいつまで、あなたの傍にいることが許されますか?


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


次の日、真希の部屋の窓のカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。

その朝日がちょうどベッドで眠っている真希の顔にあたるため、少し眩しいと感じる。

頭は先ほどから起きてはいるが、まだ布団の中に入っていたいと思う。


「今...何時?」


真希は眠たい目をこすりながらも、もぞもぞと布団の中を動く。枕元に置いてあるスマホを手探りで取り、ホームボタンを押して時間を確認すると...7時を過ぎている。

いつもなら起きている時間だが、また昨日よりも体が重い。


「...おきなきゃ...」


体がダルい。そう思いながらも真希は布団から出て立ち上がる。すると、力を込めたはずの足も体も入れたはずの力は何処かへ行ってしまったかのようにバランスを崩し...気付けば目の前に床が迫っていた。


「え?わっッ...!!」


力が入らず床に倒れた衝撃は地味に痛い。前のめり気味に両手を床について、やっとのことで上半身を起こした。ちょうど机の脇にある姿見に映る自分の顔色は大分悪い...それでも、まだ自分の体は人間の姿を保っている。


「私はまだ消えない...まだ...」


優雅の傍にいる。真希が鏡に映る自分の姿を睨み付けていると、自分の母親である満姫の声が聞こえた。さすがにいつもの時間に起きてこないとなれば怒るのも当然だろう。たぶん、朝食も作り終わり1階のキッチンから呼んでいるのだろう。


「真希!!いいかげん起きなさい!」


「はーい!」


普段“お淑やか”の似合うお母さんが声を荒げるのは滅多にない。条件反射で返事をして、真希は何事も無かったかのように立ち上がりパジャマを脱いで制服に着替え始めた。

ブラウスを着て制服のスカートをはくと学年別の青色のリボンをつける。机の上のくしを取ると姿見の前に立って髪をとかし、リボンが曲がっていないか確かめる。

いつも椅子の上にあるはずのスクール鞄に手を伸ばすが、そこに自分のスクール鞄はない。


「そういえば優雅、昨日の内に私のスクバ持って来なかった」


優雅とは昨日の帰り道、微妙なケンカをしたままだ。たぶん、優雅は今日の朝も一緒にお母さんの作る朝ごはんを食べてから一緒に学校に行くのだから。

優雅の母親と真希の母親は昔から仲が良く、優雅の母親であるルナは小さな会社の社長として朝も昼も夜も仕事をしている。そのため専業主婦である満姫に優雅のことを頼むのも昔からだ。


「これでOK」


再度スカートの裾を手で払い、真希は部屋を出て階段を下りる。リビングのドアを開けて中に入ると美味しそうな朝食のにおいがする。そしてソファーに座りくつろいでテレビを見ていたらしい優雅の姿があった。

優雅がリビングに入って来た真希に気付くと、目を合わせることもせずにソファーの上に置かれた昨日の真希のスクール鞄を指差して言った。


「昨日俺に持たせたままのお前の鞄」


そんな優雅を見て、真希は彼の機嫌を損ねてしまっていることに気付く...それでも、彼に謝るなんてことはできない。ただただ真希は彼に何も悟られぬよう“いつもどおり”を繰り返す。

そして、自分に少しも視線もくれない優雅に小さな声でお礼の言葉を投げた。


「...おはよ...あと、ありがと」


「ああ...」


テレビから視線を外さずに返事だけをした優雅...やっぱり、優雅に嫌われてしまっただろうか。真希はそれ以上優雅を見ることをやめて朝食の席について食べ始めた。

隣の優雅がいつも座る席の皿はもう空で、満姫は片付けを始めていた。


「あら、2人とも何かあった?ケンカでもしたの?」


やはり真希の母親で、生まれた頃から2人を見ているからか何か分かるらしい。そして彼女の顔は微笑ましそうに2人を見ている。逆に真希と優雅は反射的に視線を反らし気まずそうに黙った。

これはきっと今日の内に優雅の母親であるルナにも微笑ましいエピソードとして伝わることだろうと思うと、真希も優雅も気が重い。






高校に着き、生徒玄関に入る真希と優雅。やはり2人の纏う空気は少しいつもと違う。真希と優雅は今朝の満姫とのこともあり、学校に着くまで会話が無かった。クラスが違うため下駄箱の場所が違うことを逆手に取り、真希は優雅から離れた。


「あ、レイナ!」


クラスの下駄箱の前で靴を履き替えているレイナを見つけた真希は、そっちへ行く。いつもなら優雅から離れるのは嫌なはずなのに、今日この時は優雅から逃げ出したいと思った。

昨日も優雅から逃げ、気まずい空気だというのに自分がいったい何をしたいのか分からない。


「真希の奴...」


自分から逃げていく真希を見詰め、レイナが羨ましいとさえ思う...少し、嫉妬がまざっているだろうか。

すると後ろから首に手を回されたかと思うと、シンヤの声が聞こえた。地味にその腕は優雅の首を絞めている。


「レイナを睨むなよ」


「べつに、睨んでねーよ!」


シンヤの腕を払い除けて優雅は距離をとって後ろを振り向く。そんな優雅を笑い、おはようと言いながら笑顔でシンヤは優雅をからかう。

真希のことを好きなくせに、幼馴染みでツンデレなお姫様の命令を聞く従順なナイトみたいなのに収まっている優雅をからかうのはマジで面白い。


「さっさと自分のものにすれば良いだろ?」


「うるせぇなー!」


自分達のクラスの下駄箱に移動しながらそんな会話をする。これもいつもでは無いが、なかなか多い会話の1つだ。

高校に入って友達になってから、シンヤは1度見て優雅が真希を好きだというのが分かったくらいだ。優雅はとても分かりやすい性格をしている。


「そういうこと考えてるくせに」


「てめぇ...!」


優雅の低い声...そして優雅は怒るとすぐに手がでるタイプである。不良では無いが、何気に2人はケンカ慣れをしているらしい。

たまにボクシングを真似るように遊んでいると生徒指導の先生に怒られ、放課後に呼び出されたこともあるほどだ。


「おっと、こんなとこで殴りかかってくるなよ」


涼しい顔で優雅のパンチを受け止め、シンヤは受け止めた優雅の手を離して自分の靴を内履きに履き替えた。優雅は舌打ちをしながらも靴を履き替えながら言った。


「だったら怒らせんなよ、ただでさえ真希の奴が...」


「面白い」


優雅のセリフの途中でシンヤは小さな声で呟いた。本当に小さな声だったが、優雅には聞こえたらしい。

じっと優雅は嫌そうにシンヤを見て、またシンヤに向かってパンチを繰り出す。


「聞こえてるぞシンヤ!」


シンヤはまたかと呆れつつも優雅のパンチを軽く避けると、教室に向かうために廊下を歩いていたレイナと真希におはようと手を振った。

一応礼儀として真希とレイナはシンヤにおはようと返すが、先ほどからの2人の様子を見ていた真希とレイナは呆れている。また生徒指導の先生につかまって怒られたいのかと...。


「飽きないのかな?あの2人」


「知らない。でも、今の優雅は嫌い」


何だか怒っているらしい真希は優雅に嫌いだと言い放つとレイナの腕を掴んで早く行こうと教室へ向かった。レイナも必然的に早足となってシンヤに“また後で”と云う視線を投げ掛けて行ってしまった。


「機嫌悪いねー真希ちゃん。ところで優雅、大丈夫か?」


真希の“嫌い”という言葉にダメージをくらっている優雅は、そこにあった下駄箱の板に腕をついてうなだれている。

それもそれでウザい奴だなと思いながらも、これが優雅だとシンヤはからかいの言葉を心の中に留めた。


「もう、ほっといてくれ...」


さすがに今日の優雅のへこみ様はいつも以上だなと思いつつシンヤは言葉の代わりに哀れみの視線を贈ってやる。

すると優雅は彼女と上手くいっているらしいシンヤを恨めしそうに見て、もうそれ以上そんな目で自分を見ないでくれと言葉を発した。


「頼むからもうやめてくれ、その哀れみの視線を...」


シンヤはそんな優雅に笑い、優雅はもう一度“やめてくれ”と言うと視線を廊下の先の階段を上る真希に移した。今なら真希のスカートの中を覗ける可能性があるかもしれない。

そんな邪なことを考えつつも、優雅は真希に嫌われたくないとその邪なる考えを忘れるように努めた。


「おい優雅、真希ちゃんのスカートの中は見てもレイナのは見るなよ」


何で俺の考えてることが分かったんだ!?と優雅は図星をつかれたことに焦りシンヤを見るが、シンヤは“やっぱたまってんだな”と再び哀れみの視線を贈った。

もう俺のこと分かりすぎじゃねーかと思いながら、優雅とシンヤは自分達の教室へと向かった。

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